CECO

「お久しぶりです、クライテリオン」


「ええ、お久しぶりイェーガー。むかし会った時よりも可愛らしくなったんじゃない?」


「そうですね、むかしからわたしは可愛いので乙女になった今はGG国以上に先進していますわよ。そして、話が変わることを許してください――わたしはこう見えてもXを追っている身なので時間を取られたくないのです」


「それもそうね。CECOわたしたちにもいつ来るか分からないイレギュラーが…………あるはずないわね。未来を操作できる『主』がいるから、イレギュラーなんて絶対ない」


 とクライテリオンは何かのデータを探るように、空想次元投影卓ユリアルディメンションを指でなぞっていく。


 しかしこうも怪物以上の怪物が揃っている光景は見られるものではない。だからなのか、わたしはこの空間に恐怖を抱いていた。


「ところで、CECOのあなた方が全員集合という状況……何がはじまるのでしょうか。食事会という名の敬老会ですか?」


「一緒に食事してくれる奴も敬ってくれる奴もCECOにはおらんわ――わし意外には」


「ということは、裏の政府とシンフォニーの情報共有をしに集まったと……」


「うむ……まあ、そんなところだ」


「それじゃあわたしたちにも教えてくれるということでいいですね?」


 わたしが言うと、ネクロスは他のCECOにそっと目配せする。そして誰も反応しないでいるから最後にクライテリオンに頼る。この場ではクライテリオンが最高権力、他の完成体より頭二つ以上飛びぬけているから、完成体狩りの王スレイヤーの異名は別格だ。


「そのために呼んだのではないけど……いいでしょう、S&Sに入り浸っている「蠅」が口を滑らせたらしいからね。今さら話したところで不利な状況にはならないし、理解されたところでもう遅いからね」とクライテリオン。


「キツイことを言うのう。もうちょっと優しくしてくれんか?」


「あなたが若い世代に任せようなんて思うからでしょ。だから、蠅なのよ」


「上手い、たかるってか!」


 反撃できない爺さんと隙がない婆さんは仲良しなのだろう。これを言ったら失礼になるけど、ジジイとババアのイチャこらなんぞ見たくない。若い世代には需要がない……とは限らないけれど、若い世代でそんなものを求めるヒトをわたしは理解したくない。わたしは差別するぞ。


 ――わたしはナチスだぞ! とは叫ばないけど、わたしの理解を超える物事は差別してやる。


「情報の前に。イェーガー、あなたにシークレットコードを与えます」


 と、クライテリオンから<text:アルテミス>と書かれたメモリセルが飛んできた。


 わお! このわたしに女神の名をくださるなんて信じられない! このメモリセルの中には、何の意味もない女神のデータがぎっしり詰まっているのね。とシークレットコードが何なのか予想してみる。つまりわたしはシークレットコードが何なのか分からない。


「聞いたことありませんね。これはなんです? これを与える目的は?」


「この先を生き残るためのコード、と言えば理解してもらえるかしら……。そう言ったところで特に意味はないけれど、それが<線引き者>を引き継いだわたしの仕事なのよ」


 ということは、それだけのためにわたしを呼んだのか。だったら、クライテリオンはクソババア中のクソババアで間違いないな。


 ここで、もう一度頭に浮かんだ――(ここまで来るのに二時間無駄にした)


「呼ばれた理由はそれだけだったのでしょうか?」


「大切なことです。わたしにとっては」


「そうでしたか。では、ブレインを呼んだ理由は……」


「最後にもう一度だけ、最弱の王様を拝もうと呼んだのよ。いいじゃない? あなたもここまでの道のり暇ではなかったでしょ?」


「なるほど」


 労外だ、まさしく老害の王だ。クライテリオンにはロード・オブ・ロウガイのコードネームがピッタリだと思う。


「上の人間は<強制>という言葉を簡単に使えていいですね」


 と言いわたしは笑った、満面の笑みで。その裏に隠された感情がなければ妹のメルに見せたいくらい完璧な笑顔だ。


「それでは、シンフォニーと裏の政府の話をしましょう」


 クライテリオンの発言から始まった完成体たちの情報共有シェアリング。円卓の空気が一瞬にして変わったせいか、わたしの肌は粟立っている。冷えた空気ではなく畏れの空気、わたしが畏れたのはCECOの連中ではなく――ブレインだった。


「すまないが若者よ、ここから先の話はジジイ文法やらババア文法やら専門用語ばりばりの完成体連中しか理解できないような内容だぞ? 理解したければ第六感を働かせよ」


 わたしとブレインは頷く。過去と現在と未来と第六感を扱う完成体の文法。間近で感じられるとは素晴らしいではないか。

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