三強の銘柄

 そこでブレインはクイーンのランクについて訊いてきた。ランキングの話において「クイーン」というコードネームはわたしを不機嫌にさせる。このまま無視してもいいのだが、訊かれたからには教育係として教えといてやろう。とわたしは露骨な態度を示しながら、


「……クイーンは『三強の銘柄トリニティ・ブランド』。完成体エピとは違うけど、将来性の能力者キャパビリティの中では完成体に近い。上位ランカーより特別であり約束されたナンバーを与えられている。トップ十スペードに君臨する完成体連中より化け物。要するにクイーンは強者なの、と言っても強者に気にいられたあなたは強者になる器なのかもね」


「ゲームにならないから、ということで三強の銘柄は出場を制限されるのですね」


「うん、それもあるけど一番の理由は、三強の能力が派手すぎて後処理のリソースがばかにならないのよ。かつて人間の時代とも言える核の時代があったけれど、完成体共の手で幕を下ろされたでしょ。つまり三強の銘柄っていうのは完成体共と同じで兵器よりも取り扱い注意な連中なのよ。というか、クイーンは表社会でも有名人でしょ? 知らないの?」


「知っています……よく知っています」


 なんだ、クイーンのストーカーか? と訊こうとした時、丁度偵察を済ませたトリはわたしの膝に帰ってきた。


 こうやってブルーバードを上空に飛ばし、周囲を確認するのはイヴィル・ハンティングの基本になる。Dリストにあった顔写真と一致する人物を探すことが優先なのだが、今のわたしたちにはこの場にいる参加人数を知ることが優先される。つまり邪魔なものは排除する――同業を殺すのは許されないから競争から脱落させるという無力化行為を実行するのだ。もちろん、その行為でわたしにレッドカードなんて与えられない、負けた奴が悪い。


 わたしはブルーバードが確認した周囲の状況を見る。そこには<標的:Error><参加者:2>の文字と数字が記されていた。二百メートル圏内にいる参加者はわたしとブレインだけ、今のところは安全ということになる。まあ、誰も横取りなんてしないだろうけど。


 そこでブレインは「隣に座ってもよろしいですか……」とどうでもいいことを尋ねてきた。


 人目があるなか律儀にも程がある。となぜか恥ずかしくなったわたしは「どうぞ」と静かに返事をしていた。


「ぼくが他の裏企業に断られた理由がよく分かりました。すみません、私欲のためにイェーガーに迷惑をかけてしまったようです」


「はあ? 別に迷惑じゃない。教育者は評価されやすい、だから構わない。それに今回みたいな有利な条件をもらえればわたしのエニグマ・ミッション成功の確率が上がる。成功すれば今よりもコードネームに箔が付くし、あなたはわたしのおこぼれで今のランクよりも少し上のステージに立てる、取引なしでwin‐winウィンウィンってね」


 わたしはありのままを言った。そう、わたしの邪魔さえしなければ迷惑でも何でもない。わたしの教育は人形や人的リソースを作る教育プログラムであって、『自分で考えて行動する』なんていう高度なプログラムではない。大人たちが強制されてきたことを子供たちに強制するように――わたしはそんな大人たちと同じことをしているにすぎない。


 腐った教育とかりそめの教育と、やられたらやり返すという復讐の教育。


 人間は他の人間の資源であってそれ以上の価値はない。それはお金にも言えることで、<いつ紙切れになるか分からない紙幣や電子マネーの数字>、今でもお金は信用のシステムだし、そのシステムを作ったのは<人間=イコール資源>だ。人的リソースを動かす価値があるお金だけど、ヒトを動かせなければ穴だらけのシステムになってしまう。でも人類は、セカイは、そのシステムにはめ込まれていった。「わたし」や「ぼく」という意識を宿すカラダを紙幣の枚数や数字で価値を決定するようになった。


 そんな現実を見たわたしは、愛することを捨てて憎むことを取った。


(資源である人間が自分や他人の価値を決定するなんて…………まるで屍人みたい)


 そんなことを思ったわたしは、「わたし」を嘲っていたのだろう。


 ――ごめんね。わたしのような人間に綺麗なお花は似合わない――

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