引き金
さあ、狩りの獲物は狐なのか狼なのか熊なのか……。
標的との距離二○○○、わたしの瞳に映し出される人間は気分よく笑っていた。
犯罪の重要なアイテムは、ハードドラッグと性と金と暴力、プラス
どうしようもない人間は神聖な桜の樹に汚物を撒き散らすような舞台構成しかできない。
わたしは狙撃銃の
ターゲットは男と女のふたり、危険薬物をキメてお楽しみタイムに入ろうとするのは構わないけど、それが最後の麻薬摂取になるだろう。
わたしは狙撃銃に弾丸を装填する。今度こそ狙撃銃は本物の力を発揮できるようになった。
標的削除の文法、彼と彼女の運命、それらはわたしの人差し指だけで捻じ曲げられる。
運命の女神などではなく、わたしは死神としてグリップを握っている。
夜の腐った風を浴びながら、いつものように冷たい引き金に指をおく――そこで、
「むかしむかし、悪戯好きの狐がおりました。その狐はある出来事をきっかけに、罪の中で生きることになります。<他を不幸にした行動。人間とは分かり合えない動物の文法>、消えない罪悪感から、狐は罪を償うための冴えたやり方を実行しました。先に待つ運命が不幸なものでも、狐は罪を償ったのです……」
キレートくんの話を聴いたわたしは引き金から指を離す。
そうだ、狐はそうだった。少女のわたしはその誰も救われない運命を観て涙が止まらなくなって、溢れ出た感情は何を憎めばいいのか分からなくなったのだ。
タイトル――《ごんぎつね》。乙女になった今でもはっきり覚えている。
死ぬことでしか許されない罪、殺されることでしか許されない罪。贖罪の先に待つのは<望まない死と望む死>の二つのアイテム。
「撃たない選択肢もある……だけどわたしはどうしようもなく人間的思考なの」
わたしはつぶやいくと、一度は離した人差し指を元の位置に戻す。
死人を裁くことはできない。だから裏社会は咎人を殺して、その者の罪をなかったことにする――その行為を非人道的なものと誰が決められる。
ここでの人間は<撃つ人間なのか、撃たない人間なのか>……その二つに一つ。
そしてわたしといえば、瞳に映るふたりのヒトが頭の中に詰まったものを床や壁に飛散させる未来を観ていた。見えるはずのない未来が見えていた。
ごめんね……わたしは人間だから罪から逃れられないの。
「おやすみ。そして今度目覚めるセカイは、この醜いセカイじゃない別のセカイで目覚めてね」と、キスを交わす男と女に向けて、わたしは一つの言葉と一発の弾丸を贈った。
仕事終わりの鼻を突く火薬臭、肌に感じる夜の腐った風。日付変更は最悪の気分だ。
「シャワー浴びよう」
こうしてわたしは、ふたりの咎人――罪――を最低なセカイから消し去った。
(ありがとう、ブレイン。ごめんなさい、裏社会。わたしに紅いお花は似合わないみたい)
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