複数能力

 そんな茶番はもういいとして、情報共有シェアリングしたXの情報だ。


 と、マスコットを追い払って、わたしは目の前に表示された情報に目を向ける。


 秘密権力上位の連中が躍起になっているだけあってあり得ない仮説をぶち込まれた文章と3Dモデルが表示された。しかし、わたしはバカにせず真剣に分析する。


 情報共有により標的削除時の報酬は分配されるけど、最終的に削除した裏企業が報酬を九割五分持っていける。これが合同企業シンジケートの協力と過剰競争の強み。そして、第六感シックス・センスの暴力的な仮説は真実を導き出すかもしれない有力なものだ――現にわたしは気になる情報を見つけた。


「【複数能力マルチプル】の可能性……都市伝説って言われているけど、面白いこと言う奴もいるのね」


「『二兎を追う者は一兎をも得ず』とは違いますが……一つを追っていたら二つを追いかけていた、そのせいで一つも得られなかった。という事が起きていたらしいです」


 訳わからん経緯で第六感が働いたのか、なんて思ったことは置いとくとして、ブレインの発言で気になったことがある。


「ということは、アルカナム以外も被害を受けていたのね」


「不可能な手口で合同企業はどこも攻撃を受けているらしいです。なので、シェアリングしたみなさんはXを疑っています……正規特異人の死亡者も出ているらしいですよ」


 なるほど、Xの出現した時期と重なるのね、そう言ったわたしにブレインは頷きを見せる。


「これほど大規模な攻撃は初めてということらしいです。そこで、Xは完成体クラスの個体と仮定しますと――<個人で攻撃を仕掛けてきた、または組織での攻撃を仕掛けてきた>」


「まあ、個人での攻撃はあり得なくはないけど……被害者のカラダに文字を残したり、地面や壁を破損させたり、ここまで派手な演出をしたら完成体ですら身バレする痕跡を残しかねない」と、わたしは情報の一部に指をさして「しかもこれ、短期間で被害は十七件。だから個人での活動には無理があるとわたしは思う」


「となると、どこかの組織に繋がるわけです」


「目的不明のテロ組織……目的やら報酬やらでどの組織も喉が渇いて仕方ないのね」

データの確認を終えたわたしはティーカップに口をつけて息抜きする。


 上位連中は<どこかの組織>までは辿り着いているみたいだけど、さすがに<シンフォニー>という組織名までは辿り着いていないらしい。


「まだわたしたちにアドバンテージがあるみたいね」


「それが……今日会った特異人たちは凄いですよ。『被害現場から歓喜に満ちた交響曲シンフォニーが微かに聞こえた』と言うのですから」


 シンフォニーなんて言葉はCECOとVIPルームにいた薬物中毒者しか聞こえていないはず。どこかで洩れたか完成体クラスの第六感ということか。


「はあ……情報共有はいいんだけど、やっぱり上位ランクとの競争は疲れる」


 と背伸びすると、マスコットからやかましい連絡が入る――<イェーガーとブレイン。なんか上層から呼ばれているらしいから早く行ったほうがいいよ>


 そんなことを言われたらのそのそと移動したくなってしまうが、わたしとブレインは誰かに操作されているようなテキパキした動きをするのだ。


 ここまできてわたしが言いたいのは、「わたしには天国も地獄も相応しくないこと、わたしは過去も未来も嫌いなこと、わたしのセカイは完成されていない駄作だということ」その三つ。

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