バイト先の先輩がクラスで1番可愛いと言われている女の子だった

すてら1号

第1話 プロローグ

「クラスで1番可愛い人は誰ですか」と聞かれたら、みなさんは誰と答えますか?


窓側の1番後ろの子、隣の席のあの子、学級代表のあの子など、投票結果は人それぞれの好みもあるし、考え方も違うのでバラバラになる事だろう。


しかし、僕たちの通う『星花せいか高校』

1年4組の場合は違う。僕、波原湊なみはらみなとを含めほとんどの人が彼女『涼風紬すずかぜつむぎ』と答えるだろう。決して他の女の子が可愛くないという事ではない。涼風紬が可愛すぎるのだ。


肩のぐらいまで伸びた綺麗な紫みを含んだ少し暗い、青色の髪を後ろで丁寧に束ねている。


透けるような綺麗な肌。女の子誰もが憧れるようなバランスのとれた美しい体型。縁取られた綺麗くて大きな目に凛として整っている鼻。


どこをとっても美しく可愛い。男の子も女の子も見惚れてしまう。


そんな別次元のような女の子が僕のクラスにはいる。噂をすれば教室のドアが開き彼女が入ってくる。入ってきただけで教室にいる人は彼女の方を向く。


ー今日も涼風さんが来たぞ

ー相変わらず可愛いな

ーお前、挨拶してこいよ

ーいや、無理無理


話しかける勇気のない男子達は相変わらずコソコソと彼女について話している。


「あ!おはよう涼風さん」

「おはよう、小崎さん」


「お!涼風、おはよう」

「斎藤くん、おはよう」


男女関わらず分け隔てなく挨拶するし、先生からの信頼も厚い。彼女が席に座ると、数人の女子が話しかける。


「おはよう。今日も髪綺麗だね。なんか特別な事でもしてるの?」

「別に特別な事はしてないよ。ヘアオイル塗って櫛で仕上げしてるだけだよ」

「嘘〜。そんだけでこんなに綺麗になるんだ」


彼女は週に何回か「シャンプーどこの使ってる?」や「どうやって髪の手入れしてる」などの質問責めを受け、それを毎回丁寧に返事をしている。彼女からしたらとても大変だろう。


しかし今日は珍しい質問があった。


「涼風さんって放課後すぐ帰ってるけど、帰って何かしてるの?」


思ってもない質問が来たようで、彼女も少し動揺している様に見えた。しかし、それも一瞬で瞬きする間もなくいつもの彼女に戻る。


「基本家に帰って家事かな。家族の家事担当私だから」

「そうなんだ。涼風さん、家事までして大変なんだね」


しかし学校で俺だけは知っている。彼女のさっきの質問の返事はもっぱらのなのだ。


そうこう言っていると授業開始5分前のチャイムが学校中に鳴り響く。それと同時に教室のドアが勢いよく開く。そして涼風紬の友達の天音祈凛あまねいのりが勢いよく教室に入ってくる。


「おはようつむぎん!今日もお人形さんみたいに可愛いね」


教室全体に明るく、通りのいい太陽の様な声が響き渡る。クラスの目が彼女に注目する。


ー隣のクラスの天音さんだ

ー今日も可愛いなこれで今日も頑張れるぞ

ー流石『学年1可愛い女の子』だな


近くにいる男子グループからコソコソとそのような言葉が聞こえてくる。


「おはよう祈凛。朝から恥ずかしいからやめて」

「ごめんごめん〜」


どこも乱れてなく美しい韓紅色からくれないいろのミディアムヘアの髪と大きく綺麗な瞳。これは彼女の祖母が外国人で彼女がクオーターだかららしい。


そして涼風紬と同じく透けるように綺麗な肌に

出る所は出ていて引っ込んでいる所は引っ込んでいる身体。入学してもう4回は告白されているらしい。まだ入学して1ヶ月と少しだからほぼ週1回ペースだ。


そんな彼女は『学年1可愛い女の子』と呼ばれているらしい。ぼく目線だと、涼風さんも天音さんも可愛いくて区別がつけれない。しかし、天音さんは学校内で一際目立つ綺麗な韓紅色の髪のおかげか、上級生にも広く知れ渡っている。その点で『学年1可愛い女の子』と呼ばれるようになったみたいだ。


「それで、私に何か用?」

「そうそう!今日、昼ごはん一緒に食べよう!」

「それを授業開始5分前に言いに来たの?いつも一緒に食べてるじゃん」

「それもそっか〜。あ!そういえば1時間目移動教室だった気がする!やばい後3分しかないじゃん!じゃあねつむぎん!」

「廊下で転ばないでね〜」


天音さんは手を振りながら教室を後にする。彼女の元気で明るい何事にも全力投球みたいな性格も魅力の1つなんだろう。


ところで僕はここまで何をしていたと思う?正解は本を読んでいる。なんせクラスに友達がほとんど・・・・いないからね。言うところの『ぼっち』に該当する。


中学生の頃は何人か友達もいて、結構楽しい生活を送っていた。しかしこの高校に進級した友達は1人もおらず、今の状況になった。


話しかけてくれたらそれなりに楽しく話せる自信はある。けど自分から行動を起こすのは苦手な性格なので誰かが話しかけてくれるのを待っていることしか出来なかった。その結果、スタートダッシュに失敗した。『ぼっち』になった訳だ。


しかし最近、僕は『ぼっち』ではなくなった。

僕にも遂に友達が出来たのだ。それも女の子。


チャイムが鳴り1時間目の授業が始まった。先生が教室に入ってきて点呼を取り始める。点呼中、僕のスマホが珍しく震えた。先生にバレない様に画面を見てみると噂の彼女、涼風紬・・・からのメールだった。


(つむぎ)

 さっきの見てた?

 いつ見ても祈凛は元気ね!


(みなと)

見てたよ

まぁ、天音さんが元気じゃないの      

見た事ないからね


(つむぎ)

それもそうか

私も見た事ないわw


(みなと)

それで何の用だ?

 

(つむぎ)

今日一緒にお昼ご飯食べる?


(みなと)

お前と昼ごはん食べたら

天音さんもついてくるだろ。

そんな事したら俺が男子に

何されるかわからんから

絶対に食べないぞ


(つむぎ)

冗談やってwww

本気で返信しちゃったりして

本当は一緒に食べたかった?


(みなと)

食べねーよ!

                 

(つむぎ)

まぁ、からかうのは

このくらいにしておくよ

それで今日から正式に来るの?


(みなと)

今日からだな


(つむぎ)

おっけ〜!!

それじゃあ今日からよろしくね!


(みなと)

こちらこそよろしく



何故クラスのモブで隠キャの俺が『クラスで1番可愛いと言われている女の子』天瀬紬と雑談を交えたやりとりする仲なのかというと、結構単純で理由があった。


そう彼女は・・・


「はい!注文を承ります。ラーメンチャーハンセット1人前と唐揚げ1人前ですね。注文承りました!ラーチャセット1と唐1!」


彼女は、クラスの誰も知らないたった1人の僕の友達であり、俺のバイト先、ラーメン屋「天の台所」で働いている先輩である。

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