第54話 図書室にて
週を跨ぎ火曜日の昼休み波原はサンドウィッチを手土産に図書室の扉を開けた。カウンターには水瀬杏の姿があり。カウンター内特権のクルクル回るオフィスチェアに腰掛け本を読んでいた。、
「水瀬さん、サンドウィッチ買ってきたよ」
「ありがとう。さぁさぁ入って」
水瀬杏は波原をカウンター内に誘導しもう一つのオフィスチェアに座るように促した。
「ありがとう」
波原はそう言うとオフィスチェアに腰掛けた。
広い図書室の端のカウンターに2人が座っている。
「そういえば紬と話したよ。本当に友達なんだね」
「だからそう言ったでしょ」
「そうだね。でも友達になった馴れ初めは教えてもらえなかったよ」
「僕に聞いても答えないよ」
「え〜。しょーもないよ」
「こればかりは言えないよ」
話してしまうと、同じ所でバイトをしているのがバレてしまう。涼風はバイトをしている事も隠しているから余計バレてはいけない。
「そういえば、紬と波原くんは私に借りが1つずつある訳だけど」
「え?」
「私は2人の関係を黙っておく事にしたからね。これは大きな借りだね」
「なるほど」
「だから君に1つ約束と1つお願いをしてもいい?」
「内容によるけどいいよ」
「別に難しい事ではない。まず約束から……」
サンドウィッチを1つ食べ終わり水を飲んだ後波原の方を見て話す。
「波原が火曜日と木曜日ここで弁当を食べている事を誰にも話さないでほしい」
「理由を聞いても?」
「本来図書室は飲食禁止だからね。図書委員権限でカウンター内だけセーフになってるだけ。だから他の先生に悟られないように。どこに耳があるかわからないでしょ」
一つ目は合理的な理由だった。これは波原も賛成した。
「分かった。それでもう一つのお願いは?」
「これはね……」
水瀬杏の言葉が詰まる。少し頬が赤らめているようにも見える。そして覚悟を決め、話しだす。
「私と友達になってほしい」
「……ともだち…友達っ!?」
水瀬杏から飛び出す事などほとんどないと思っていた言葉が波原に届き、動揺する。
「まさか、頭でも打った?」
「いや、私は本気。君となら仲良くやっていけると思う。それとも私と友達は嫌かな?」
余り表情を変えない水瀬杏はちょっと恥ずかしそうに波原を見ている。こう見ると表情は豊かな青春を謳歌している普通の少女のように写る。
「いや、とても嬉しい。いきなりでかなりびっくりしただけ」
「そう。なら…」
「友達なろうか。これからもよろしく」
「うん。こちらこそよろしく」
波原にまた友達が増えた。それは喜ばしい事に変わらないが、この先の波乱にも繋がっている事を波原も涼風も知る由もない。ただし、水瀬杏だけは何となく気づいていた。
(やっと私、一歩踏み出せたよ。湊くん、思い出してくれるかな?)
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