第53話 スクールカースト

「私をカラオケに誘ったのはそれを聞くため?」

「歌いたいのは事実だよ。でもこの事を聞かないと気持ちよく歌えないかな」


水瀬杏はタブレットを机に置きコップに入っているジュースを飲む。


「紬と波原くんの関係をいつ知ったかだったね」


水瀬杏は淡々と話しだした。


「何かおかしいなぁって思い始めたのは1ヶ月前ぐらいかな。明らかに一緒に帰る機会が少なくなったし、一緒に遊ぶ機会も少なっている。最初は偶然かと思ったけどつい最近確信に変わった。朝早くから校舎裏で波原くんと密会してるなんてね。紬って性格からしてこんな事はしないと思っていたよ」


涼風は思い返していた。朝早くから校舎裏に集合して波原にネクタイを結んであげた出来事を。これを友達の水瀬杏に見られていたと思うと羞恥心が溢れ出して頬が赤く染まる。誤魔化すように涼風は炭酸を口にしてから口を開いた。


「因みにどの辺りから見てたの?」

「波原くんのブレザーで温まっている所から至近距離でネクタイを結んであげた所まで」

「ほとんど全部じゃん……。恥ずかしい」

「一応聞くけど本当に友達?」

「え?友達だよそれ以上でもそれ以下でもないよ」

「紬って付き合っている男女がしそうな事を簡単にするね」

「ちょっと恥ずかしいけどね。私がしてあげたいって思ったからしただけだし」

「まぁ、紬がいいって思ったならいいけど……」


頬に溜まっていた熱も段々と引いてくる。少し取り乱していた涼風は通常運転へと切り替える。


「それで杏、お願いなんだけど。私と波原が友達って事秘密にしてくれない」

「まぁ、学校で人気の紬がある男の子と仲がいいなんて噂が広まったら大変だからね」

「波原も最初そう言ってた。私は気にしないけどな〜」

「私は波原くんが言っている事は正しいと思うよ。波原くんの事を悪く言うつもりはないけどスクールカーストの地位が離れすぎているから。簡単に言うと、貴族と平民が結婚したら基本将来破滅に向かうでしょ。それと同じ」

「つまり、私と波原が仲良くしている事に気に食わない人達がいてその人達が波原に何かするって事?」

「そうそう。だから波原くんは秘密にしてって言ったんだよ」

「なるほど、やっとあの時の波原の言葉の意味を理解したよ。でも今時そんな事する人いるの?」

「表面的には無くなっていると思う。最近は温厚な人が多いし問題行動起こしたら進学にも影響が出るからね。でも少なからず学校に何人かはそういう人はいる」

「怖いな〜。今度からはしっかり注意を払うよ」

「私も紬と波原くんの関係が良いものになるのを願っているよ」

「ありがとう私も頑張るよ。やっぱ杏は優しいな〜」

「う、うん」


そして2人はタブレットで曲を選び歌う曲を探し始めた。


「そういえば波原くんといつ頃友達になったの?」

「結構最初の方偶々知り合う機会があってね」

「そうなんだ、何で知り合ったの?」

「それは……」


涼風の口が止まる。涼風はバイトしている事を隠している為バイトで会ったとはいえないのだ。


「秘密だよ」


涼風は満面の笑みを浮かべ答えた。


「ふ〜ん。いい出会い方したんだね」




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