第5話 秘密の友達

春が過ぎ徐々に夏に向かかっている5月でも夜の風は少し冷たい。しかしそんな事を感じている暇も余裕も今の僕にはない。なんせ僕の隣にはクラスで1番可愛い女の子涼風紬がいるのだから。


「帰り道一緒に歩かない?」と言われて断る事もできず、今一緒に夜の町を歩いている。しかし何も喋る事はなく5分は経過した。聞こえてくるのは自転車を押す音と僕と涼風紬の足音だけ。


「ごめんね。私から誘ったのにいざ話そうとしたら、何から話したらいいか分からなくなっちゃった」


緊張して何も考えてなかった僕とは違い彼女はずっと何から話そうか考えてくれたみたいだ。

今更だが、自分が惨めに感じる。


ちょうど横には公園が見えた。そこで僕は1つ案を思いついた。


「公園にベンチあるから一旦座ります?」

「お!気がきくじゃん。そうさせて貰おうかな」


公園に入り、僕は自転車をベンチの横に停める。先のベンチに座ると涼風紬はペットボトルを2本抱えてこっちに走ってくる。


「波原くん、コーラとサイダーどっち飲む?」

「じゃあ、コーラ貰います」

「オッケー」


渡されるコーラを受け取り、僕は財布からコーラ分のお金を取り出そうとしたら、財布を無理矢理閉じさせられる。


「私からのアルバイト合格祝いだよ」

「それじゃあ、頂きます」


涼風紬が隣に座る。ベンチに女の子と一緒に座るなんていつぶりだろうか。いや、まず座った事があっただろうか。


「とりあえず何か私に質問ある?」


聞きたい事は沢山あるが、とりあえず1番の疑問を解消したい。


「僕目線、学校と今では涼風さんの雰囲気が違うけど何か理由があるんですか?」

「やっぱりそこだよね。う〜んどこから話そうかな?」


少し考えたのち、涼風紬はゆっくりと口を開く。


「見たら分かる通り、私は学校とそれ以外では性格が違うんだ。学校では本当の私を隠している。今が素の私だね。自分で言うのもアレだけど中学校の頃の私は人気者だったんだ」

「何となく分かります。みんなから好かれそうですし」

「だから私は沢山頼られた。私は最初頼られる事が嬉しかったんだ。けど徐々に私に押し付けたら大丈夫みたいにな雰囲気になったんだ。基本的に断らなかった私は今更断る事ができなくなっていったんだ」


思ったよりしんどい話が来て、僕は何て反応したらいいかわからなくなった。涼風紬はそのまま口を開き続ける。


「私はそれがトラウマになった。だから高校では自分を隠そうと決めた。けど別に学校生活が楽しくないってわけではないよ。祈凛とかと話したり遊んだりするのは楽しいし。けど素の自分の方が楽だから誰もいない所では素が出てるって感じ。まぁそんなとこかな。ごめんね重い話で」


涼風紬にも色々苦労している事がわかった。


「大丈夫ですよ。でもなぜ僕に本当の事を話してくれたんですか?」

「いや、君が質問してきたでしょ!」

「それもそうですけど・・・」

「この事、絶対他の人に話してはいけないよ!言ったらどうなるか分かる??」


涼風紬の顔が少し怖かった。しかしそれについては問題ない。なんせそれを話す友達がいないからだ。


「そんな事をしませんよ。てか言っても誰も信じませんよ」


少し落ち着いて、お互い飲み物を一口飲み、キャップを閉める?


「ねぇ、波原くん私と友達になってくれない」


思いもよらない言葉につい驚き、コーラを吐き出しそうになる。


「え??」


「だから私と友達になってよ。私の秘密を知ったし、これからバイトも一緒なんだから」

「僕と友達になってもいい事ないですよ」

「友達になる事に損得は関係ないよ。それに波原くんは見てて面白いし」

「そうですか・・・」


僕に友達が出来る。それはとても嬉しいが問題もある。


「友達になるのはいいんですけど1つお願いがあります」

「お願い?」

「学校では友達って事を隠してくれませんか?

僕みたいな陰キャが涼風さんみたいな人と友達って事が広まったら在らぬ噂がたつし、それじゃあ涼風さんに迷惑かかってしまうから」

「波原くんがそう言うならいいよ。私も波原くんに迷惑をかけるのは嫌だし。それじゃあ・・・

私たちは秘密の友達だね。よろしく」

「よ。よろしくお願いします」


僕は『秘密の』って所に妙にドキッとする。言わば彼女との『秘密の関係』って事だ。


誰もない公園で人知れず僕たちの友達関係がスタートした。

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