第6話 現実味を帯びない出来事
「波原も素になっていいんだよ?」
「え?」
「だって今の波原、素じゃないでしょ。私は素で話してるのに波原だけ取り繕うのはずるいよ」
僕の顔を真っ直ぐ見て涼風紬は言う。
中学校の頃の数少ない友達とはもっと砕けた言葉で話していたが急にこんな可愛い女の子と砕けた言葉使いで話すってなると話が変わってくる。しかしこのままだと不公平なので僕も覚悟を決めなければならない。
「急に涼風さんのような住む次元が違うような人と友達になると思ってなかったから固くなってただけ。それじゃあこれからは敬語無しで普通に話すよ」
「お、いい感じじゃん。こっちの方が絶対いいよ。後は呼び方かな?友達なんだし涼風さんはないよ」
そういえばさっきから涼風紬は僕の事を波原と呼び始めている。確かに友達同士で『くん』や『さん』は硬い気がする。
「それじゃあ涼風って呼ぶよ」
「え〜、別に紬って呼んでもいいんだよ」
「それは流石に無理」
「ふ〜ん。なら涼風でよろしく」
その後はくだらない世間話をした。気がつけば時計の針は23時を回っている。
「流石にそろそろ時間ヤバいね。警察に見つかったら1発で補導だ。私、一応学校では真面目で通ってるから見つかるわけにはいかないよね」
「親は心配しないの?」
親の事を聞いたら涼風の顔が一瞬暗くなるのを感じた。彼女に親の話はよくないようだ。
「私、一人暮らしだから親の心配は大丈夫だよ」
「そ、そうか」
気まずい空気感になってしまったが、涼風は手を叩いてその流れを断ち切る。
「それじゃあ解散しよう!けどその前に・・・」
涼風はカバンから自分のスマホを取り出し、ある画面を見せる。
「これ私のQRコード!友達追加よろ」
「お、おう」
まさか連絡先を交換するまで行くとは思っていなかった。スマホを取り出しアプリを開く。しかし友達追加の方法が分からない。なんせ友達追加の機会が滅多にないからだ。
「あれ〜⁇もしかして友達に追加の方法が分からないの〜?」
からかうように俺のほっぺをツンツンしてくる。距離が近くて、照れているのを隠すので精一杯だ。
「う、うるさい」
「仕方ないな〜」
涼風は僕のスマホを操作して、QRコード読み込み画面にする。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
僕はQRコードを読み込んで涼風を友達追加する。とりあえず手を振っているスタンプを送る。
すると涼風もスタンプを送ってくる。兎のスタンプだった。
「これでいつでも話せるね。私の声が聴きたくなったらいつでもかけてね」
「何回もからかうのはやめてくれ」
「え?今始めてからかったけど?」
「へ?」
その言い方だと、今までのはからかうに含まれていないと言うことになる。無自覚なのか、わざとなのか今の僕には判断できない。
飲み終えたペットボトルをゴミ箱に投げ入れ、自転車のスタンドを倒して公園を後にする。
「それじゃあ私こっちだから」
「送って行かなくて大丈夫?」
僕もこんな真夜中に女の子1人で帰らせるほど腐ってはいない。
「ありがとう紳士的だね〜。でも大丈夫だよ1人で帰るのは慣れてるよ」
「そう?気をつけて帰ってね」
「うん、それじゃあおやすみ〜」
僕も自転車を漕いで家に帰る。
さっきまでの事が夢のように感じる。なんせ現実味を帯びないような出来事だったから。
家に帰るとリビングの電気が付いていて、母が夜のドラマを見ている。
「あら、おかえり〜。こんな時間に帰って来るってグレたの?」
「いや、バイト始めたから」
「え!?頼むから弁当だけは作ってね」
母は慌てて手を合わせる。
「わかってるよ」
「あ〜・・・湊大好き!!」
「はいはい」
たまに、母の性格が羨やましいと思う事がある。僕も母みたいな明るい性格だと人生が変わっていたと思う。友達もいて、1人で寝たふりをする事もなかったのかもしれない。しかし、考えた所でその事実が変わる事はない。
お風呂に入り、冷蔵庫に作り置きのご飯を食べる。時間はあっという間に日を跨いでいる。
今日は初めてのアルバイトでとても疲れた為、
ゲームもせずにベットへダイブした。
それにしても今日は沢山の経験をした。
初めてのアルバイトをして、そこの先輩にはクラスで1番可愛い女の子涼風紬。何よりその涼風と秘密の友達になった事。
そんな事を考えている間に眠気に襲われてて眠りについた。
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