第7話  新しい日々

『7時30分』


「ちょっと湊〜、なんで起こしてくれなかったの?」

「何回も起こしたでしょ。それに毎回わかった〜って言ってたじゃん!」

「私、そんな言ってないよ〜!!」

「それじゃあ、僕は学校行くから!弁当は食卓の上に置いてあるから忘れないでね!」


僕は玄関に座り、靴を履く。


「ねぇ湊、学校はどう?」

「どうって・・・普通だよ」

「友達できた?」

「できたよ・・・1人」

「そう、それじゃあその子を大事にしなよ」

「うん。それじゃあ行ってきまーす」

「行ってらっしゃい。ヤバッもうこんな時間」


母はすぐにリビングの方へ消えていった。料理が苦手な母でもしっかりと僕の事を気にかけてくれる。たまにそれが僕の心を削る事になるが。


明け方の涼しい風が僕を迎え入れる。自転車に跨り高校を目指す。


学校は家から40分ぐらいかかる。電車で行く事も可能だが、朝の通勤ラッシュの時間帯に電車に乗る勇気がない。


学校の校門に着き、教室のドアを開ける。まだ時間が早い事もあり、クラスメイトはいない。

自分の席に座る。スマホを取り出してソシャゲのログインボーナスとデイリーミッションを終えてカバンから本を取り出す。


少し時間が経つと徐々に教室のドアが開く回数が多くなり騒がしくなってくる。

そして、昨日初めて友達になった「クラスで1番可愛い女の子」涼風紬が入ってくる。


ここでプロローグの部分に戻ってくるのだが、それは誰も知らない事。


このまま2時間目の授業が始まる。今回の授業は日本史。時期に還暦を迎えるであろう先生が1時間ずっと話しているだけの退屈な授業。


クラスメイトのほとんどはスマホを触ったり、近くの友達とコソコソ話したりと自由にしている。


そんな中でも涼風紬はノートと教科書を開いて

シャープペンシルを片手に授業を受けている。

本当にそういう姿には尊敬の念を抱かざるを得ない。


そして今日も完璧な姿で学校を終える。放課後になり僕はバイト先の「天の台所」へ向かった。


「お疲れ様です」

「おう湊!おつかれ!」


いつでも元気で若干うるさい店長が迎える。店長は今日の仕込みをもう始めている。


「多分奥で黒咲がダラダラしてるから叩き起こして早く手伝えって言っといてくれ」

「了解です」


奥の部屋に入ると店長の言う通り黒咲先輩は椅子に座り机と一体化しそうになっている。


「お疲れ様です」

「お!湊く〜ん。お疲れ〜」

「店長がダラダラせずに手伝えと言ってましたよ」

「私今日クソみたいな講義4コマ受けてそのまま来たんだよ〜。そんな私にバイト開始前から手伝えだなんて、店長鬼かよ」


体制は崩れないまま、動く気配は一向にない。このままだと僕まで怒られてしまいそうだ。


「じゃあ、僕がすぐ準備しますので一緒に手伝いましょう」

「え〜、ゆっくり着替えておいで〜」


僕は更衣室で5分で着替え終える。戻ると黒咲先輩更に机と一体化している。


「じゃあ、手伝いに行きましょう」

「やっぱ紬ちゃん来るまで待とうよ〜。もしくは私をお姫様抱っこして連れて行く?」


急な黒咲先輩のお姫様抱っこ発言に顔を赤面させてしまう。


「お、お姫様抱っこですか?」

「私、お姫様抱っこされるのが夢なんだ〜」


30秒ほど僕は考えた。しかし最初の考えから変わる事はなかった。

お姫様抱っこする恥ずかしさと店長に怒られるかもしれないと言う不安。二つを天秤にかけた結果、店長に怒られる覚悟を決めた。


「じゃあ、涼風が来るまで待ちましょう」

「お!それじゃあ湊くんも机と一体化しよう」

「いや、遠慮しておきます」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「店長から聞いたよ!波原、紅音先輩!何サボってのー!」


数分後扉が勢いよく開いて涼風紬が入ってくる。


「紬ちゃ〜ん、もう来たの?」

「まぁ、直にバイト時間ですから」

「涼風、店長怒ってなかった?」

「怒ってなかったと思うよ」

「ありがとう涼風、お陰で怒られずに済むよ」


なんやかんやありながら、僕の正式なアルバイトが始まった。

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