第2話 クラス1可愛い女の子との偶然の出会い
「お金がない」
僕は何度も財布の中身を確認するが中にはお札が入っておらず小銭と小銭がぶつかり弱々しく虚しい音が聞こえてくる。
「まずい、このままだと今月発売の漫画買えないし、ゲームで武器の新スキン出るから買いたいのに・・・」
僕は何とかしてお金を練り出そうと脳をフル回転させる。しかし良い案は思いつかない。
なので、最後の手段を行使する事にした。
「バイトするか・・・」
僕は自室のベットに寝転がりながら、アプリでバイト募集の掲示板を見始めた。
ファーストフード店のバイトから引越しのバイト、中には少し怪しそうなバイトもあった。
10分ほどスマホの画面をスクロールにてバイトを探すが、中々いい条件のバイトは見当たらない。
切り替えて他のサイトを見ようと思った時、僕の目に1つのバイト募集が止まった。
ラーメン屋『天の台所』バイト募集!
・条件、高校生以上
・平日1時間1100円
土、日、祝、1200円
・時間帯17時〜21時
『天の台所』は家の近くのラーメン屋で地元の人やラーメンマニアの中で有名だ。1回テレビでも紹介されていて何より時給が高い。僕は迷う事なくそこに即応募した。
数時間後には折り返しのメールが届き、面接の時間が決まった。
そして面接日当日になった。
僕は面接の5分前に店を訪れた。ドアを開けると付いていた鈴が揺れ『チリンチリン』と音を立てた。中にはテーブルが5席とカウンターテーブルが7席、そして吹き抜けの厨房。テーブルと椅子は木で作られており、年季を感じる。
これぞ隠れた名店ラーメン屋みたいな雰囲気だ。
しかしまだ開店前なのか客の姿はもちろん、店員さんの姿まで見えない。
すると、鈴の音で気づいたのか奥のドアから1人の女性が出て来た。
「あ、すいません。まだ準備中で〜」
「あの、バイトの面接に来たんですけど」
「うん?あ、ちょっと待ってね〜。そういえば今日面接あるって店長言ってた気がするな〜」
腕を組んでなんとか思い出そうとしてくれている。5秒ほど粘った後、何か思い出したようだ。
「君、もしかして波なんとか君?」
「あ、波原です」
「そうそう、波原だった。面接だよね。店長のとこ案内するわ〜」
なんとか店長に取り次いでもらい奥の部屋に案内された。
部屋に入るとは20代後半ぐらいの金髪の男性がパイプ椅子に座っていた。この店の店長なんだろうか。少し怖そうな雰囲気で僕の苦手なタイプだ。
「店長〜、バイト面接の子連れて来たよ」
「おう、てかお前はもうちょいやる気出せよ。店の印象悪くなるじゃねーか」
「私、これでもしっかり働いてますよ〜」
「はぁ〜、まあいい。ちょっと更衣室の中で待っとけ」
「わかりました〜」
そのまま彼女は奥の女子更衣室に入っていった。
店長は再びこっちをみる。
「とりあえずそこの椅子に座りな」
「し、失礼します」
言われるがまま、僕は店長と机を挟んで向かいに置いてある椅子に座った。
「俺は店長の滝沢だ。早速面接を始めるぞ」
「よろしくお願いします」
何の前置きもなく突然と面接が始まった。基本履歴書は出さないといけないのだが、最近はいらないというところも増えて来ているみたいだ。この店も先ほどの後者にあたっている。
僕は最初の質問は何だろうと気構える。
「お前料理出来るか?」
「・・・できます」
年齢や志望理由を聞かれると思ったら、いきなりの実技的質問だった。間髪入れずまた質問が飛んでくる。
「何が作れる?」
「色々ですね。写真見ますか?」
「見せてくれるか」
そう言って僕はスマホのフォルダから写真を見せる。僕はいつも母の弁当と休日の晩御飯を作っている為、基本的な料理は全て作ることができる。
店長は写真を何枚か見た後、別の質問をしてきた。
「お前シフトどれだけ入れる?」
「そうですね。少なくとも週4日は入ります」
5秒ぐらいの沈黙の後に店長の口角が少し上がる。
「よし、お前合格だ!」
「へ?」
僕の聞き間違いじゃなければ、店長は今「合格」と言った。
僕まだ名前も名乗っていないですけど・・・。
「だから合格って言ってんだろ!今日からいけるか?あ!そういえば名前聞いてなかったな」
そう言いながら笑っている。これが彼の本来の姿なんだろうか。こんな面接でいいのだろうかと思いつつ、その問いに僕は答えた。
「星空高校1年波原湊です。とりあえず今日から働けます」
「是非そうしてくれ!それじゃあ一緒に働く頼もしい仲間を紹介しよう!」
そう言うと店長は僕がいる部屋の右にあるドアを開けた。ドアにかかっている看板には『女子更衣室』と書いてある。さっきの店員が入っていったところだ。それは結構まずいのではないかと思う。
「店長、女子更衣室をノックなしで開けるなんて、常識ないんですか〜?」
中からはさっき案内してくれた女性がでてきた。
鳥の羽が水に濡れたようなツヤのある綺麗な黒色の髪。髪のインナーは赤色で染めていてクールな感じが漂っている。
「さっきはどうも。やはり君からは私と同じ陰の雰囲気を感じる。ここは陽の者しかいないから助かったよ。私は
「波原湊です。これからよろしくお願いします黒咲先輩」
「ん、よろしく〜」
黒咲先輩は壁に立て掛けてあったパイプ椅子を組み立て、座る。
「波原には、今日から働いてもらう事にした」
「え?店長その、書類云々は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ!ここは俺が店長だ」
絶対ダメな気がするが、まぁ店長がいいと言うからいいのだろう。
「そういえば『すずかぜ』はどこにいる?」
「んー、まだ見てないですよ」
「何やってんだ?もうすぐ開店時間だぞ」
今、店長から驚きの一言が聞こえた。
「すずかぜ」という言葉が出て俺は反応してしまう。なんせ名前が俺たちのクラスの「クラスで1番かわいいと言われている女の子」の涼風紬と同じ苗字だったからだ。彼女の名前は流石の僕でも覚えている。しかし漢字が違うかもしれないし、別人の可能性もある。
そんな事を考えていたら、店の入り口の方からドアが勢いよく開く音が聞こえ鈴が大きく揺れる。走る足音が徐々にこちらに近づいて来る。そして部屋のドアが開いた。
「店長!ごめんなさい遅れました。お願いします減給だけは勘弁してください!」
「やっと来たか、バイトはまだ始まってないから減給はしないけど集合時間には間に合ってくれよ」
「よかった〜。店長まじ神!」
入って来たのは紛れもなく涼風紬本人だった。しかし、学校での雰囲気とは全然違うように見える。明るくて、とても元気。どちらかというと『学年1可愛い女の子』と言われている天音祈凛の方に近い雰囲気だ。
「え?涼風さん?」
驚きのあまりつい言葉に出してしまった。僕の声に反応して天瀬さんはこっちを見る。ピタッと彼女と目が合い、部屋は一瞬にして静まり返る。
「え!なんで同じクラスの波原君がここにいるの⁉︎」
偶然か運命か、僕はここで初めて彼女と関わりを持った。
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