第40話 給料日

波原の足取りは軽くそのままバイトに向かう。理由は簡単だった。初めての給料日だからだ。

営業が終わり、バックスペースに集まる。


「やっと給料日だ〜」


黒咲先輩はいつも通り机の上で溶けている。しかし、いつもよりテンションが高く見える。


「今回の1ヶ月は結構早かったね〜。波原はどうだった?」

「僕はとりあえずついて行くので精一杯だった」

「いや、私より役に立ってたよ〜。安心しな〜」

「本当にそうだ。黒咲ももっとやる気をだせ!」

「あ、てんちょ〜」


給料袋を人数分持った店長が来る。今時では珍しい、銀行振り込みではなく手渡し式だ。


「それじゃあ今月の給料渡すぞ〜まず、黒咲」


手渡しで給料を受け取る。


「ありがたき幸せ〜」

「次に、涼風」


涼風も手渡しで給料を受け取る。


「ありがとうございます〜」

「最後、波原」


波原も同様、手渡しで給料を受け取る。


「ありがとうございます」

「これからもよろしく頼むぞ」

「はい」


店長からの笑顔になんとか笑みで返す。


「それじゃあ今日もお疲れ!明日からもよろしく」

「「「お疲れ様です」」」


その後はそのまま流れ解散になった。

波原は久しぶりに1人で帰宅する。

給料袋の中に期待しながら家を目指す。

これで新しい漫画、ラノベ、武器スキン、なんでも買う事ができる。


ワクワクと期待を膨らませながら、歩いていると後ろから足音が聞こえてくる。そして背中に強い衝撃が走る。


「なーみーはーら!」

「痛っ」

「明日、ゲーセン行こ!」

「・・・はい?」

「だから、ゲーセン」

「ゲーセンはわかるけど急にどうして?」

「私、ゲーセン行った事ないんだよ。私にゲーセンのイロハを教えてください」


急に頭を下げられて、驚く。


「まぁ、明日は暇だしいいよ」

「ありがとう〜1人で行くには勇気がなくてさ〜」

「でも、ゲーセンなら天音さんとかに言えば来てくれるんじゃない」

「祈凛と行ってもするのはプリクラだけじゃん。私はクレーンゲームをしたいんだよ」

「いいけど、クレーンゲームは難しいよ」

「の、望むところ」


あっという間に明日の予定が決まってしまう。


「それじゃあ放課後にまた連絡するね」

「わかった」


そう言うと走ってそのまま波原を追い越して帰って行く。一緒に帰らないのは珍しく、不思議に思う。しかし毎日一緒に帰っているのが逆に非日常だったという結論に至り、妙に納得する。


「ずっと僕と一緒に帰る理由なんてないもんな」


波原は少し残念な気持ちになりつつ、再び家を目指した。

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