第39話 パーティーゲーム
リビングのテレビに家庭用ゲーム機を繋ぎ、パーティーゲームを始める。ソファにボスッと座り、早速ミニゲームを選ぶ。
「やっぱ対戦しないと楽しくないよね〜」
涼風はコントローラーを操作して「スキージャンプ」を選択する。操作は簡単でジャンプする瞬間にボタンを押すだけ。しかしタイミングによって飛距離が変わってくる。
「まず、波原からやってよ〜。私が後の方が絶望せずに済むぞ〜」
「なら、僕からやるよ」
横からニヤニヤした視線で見てくる。それは余裕からか、ただの挑発かは分からないが波原はテレビに注目する。テレビに映っているキャラクターが滑りだし、徐々にスピードにのっていく。飛ぶ瞬間に波原はボタンを押しいい感じにジャンプする事に成功する。記録は130メートルだった。
「どう?中々じゃない?」
「まあまあかな、けど私には敵わない!」
勢いよく言葉を発するとコントローラーを握る。テレビに集中しているのがよくわかる。
キャラクターが滑りだし飛ぶ直前まで来る。
飛んだ瞬間にボタンを押す。それと同時に涼風の背筋もピンッと伸びるた。結果は140メートルとかなりの差が空いてしまった。
「どうよ!これが実力ってやつよ」
これがゲーム関係の勝負だと涼風が初めて勝った事になる。
「おーすごいすごい」
「ボー読みやめいっ」
ビシッとツッコミが飛んでくる。
「でも、ボタン押した瞬間背筋が伸びたの面白かったよ。やっぱゲームと体ってリンクすることあるよな」
「え?私もしかして無意識に動いてた?」
「うん。ソファも少し揺れた」
涼風の顔に熱が昇っていき、顔が赤くなる。
「恥ずかしい〜」
「いやでもさっきのは・・・」
波原は先ほどの涼風を『かわいい』と思った。
しかし、それを急に口に出す訳にはいかなかった。
「何〜、面白かった?バカみたいだった〜?」
「そんなんじゃないよ」
詰め寄ってくる涼風に合わせて後ろに下がる。
「言いたい事があるならハッキリと言ってよ〜」
「背筋伸びてて、おばあちゃんになっても腰曲がってなさそうだな〜と思って」
「まぁ私なら、年取っても美貌のおばあちゃんだろうね」
涼風は冗談で言っているだろうが、波原は本当にあり得そうだと思った。
その後もパーティーゲームで対戦を繰り返した。波原も勝つ時はあるが、涼風の勝ち越しで終わる。
「強いな、流石1人で練習してただけはある」
「いやいや!1人じゃない。友達としただけだから!」
波原は勘づいているが、そう言う事にしとく事にした。
時間はあっという間に10時だった。
「そろそろ帰らないとな〜。ありがとう波原。お陰で楽しかった」
「楽しかったなら何より」
「でも、PCゲームできなくなるのはちょっと残念だな〜」
少し残念そうにしながら、玄関に向かう。波原は考えた結果、1つの提案をする。
「まぁ、土曜日だったら別に家来ていいよ」
「!!」
涼風はすごい勢いで波原の方を振り返り、両手を波原の肩に置く。
「いいの?」
「いいよ。バイトの兼ね合いもあるだろうけど」
「やった〜!めっちゃ嬉しい!ありがとう」
そう言って、涼風は波原の背中に手を回し、抱きつく。涼風の暖かさが直接的に感じる。急な事で波原は呆然とする。自覚した途端身体中の体温が上昇し、波原の心拍数は速く、うるさく感じる。涼風に聞こえてないか心配だ。波原はやっとの思いで声を出す。
「あの〜、涼風さん?」
「あ〜ごめん!テンション上がってしまってつい抱きついちゃった」
涼風はとても嬉しそうな顔をしている。抱きついた事の恥ずかしさは感じられず。波原は勘違いしているような気分になる。
「それじゃあ、毎週一緒にゲームできるね!」
「そ、そうだね」
今考えると、これから都合が合う限り、涼風は毎週波原の家を訪れる事になる。この事は更にバレてはいけないような気がする。
「この事は絶対他の人には言わない事結構マジで頼むよ」
「勿論。毎週男の子家に行ってるなんてバレたら私のイメージが・・・」
「バイトでもダメ。黒咲先輩とかにバレたら、絶対しつこく聞かれる」
「確かに・・・。また、秘密が増えたね!」
「そ、そうだね」
波原の人生は涼風によって大きく変わっていっている。あの日、バイト面接で『天の台所』を選んでいなかったら涼風とは出会っていない。
偶然の重なりが今このような日常に繋がっている。そう考えたら奇跡みたいなものだ。
「涼風・・・」
「ん?」
「これからもよろしく」
「もちろん!波原は私の大切な友達なんだから」
そう言って今日は解散した。さっきまでの賑やかさが嘘みたいに部屋は静かになる。波原自身の足音しか聞こえず、少し寂しさも感じる。
「来週が楽しみだ」
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