第38話 ピザ
その後、一緒にゲームをして気づけば18時になり、外は夕方になっている。約5時間ぶっ続けでゲームをした為、波原も流石に疲れる。
「もうやめるの?私もう一試合行きたいな〜」
しかし、涼風は何故か元気だった。ずっとヘッドホンを付け、腕を動かしているはずなのに疲れの表情が伺えない。それだけこのゲームを楽しんでくれたということだろう。しかしこのまま続けると身体的にも良くない。
「やめとこ。気付かないだけで目は疲れてるはずだから」
「・・・分かりました〜」
涼風はヘッドホンを外して髪の毛を簡単に整える。
「涼風は何時頃に帰る予定?」
「そうだね〜。波原のお母さんが帰ってくるまでには帰りたいかな〜。気まずいじゃん」
涼風の言う通り、一緒にゲームしている時に親が帰ってくると気まずい空気になる。男の子同士、女の子同士ならまだしも、男女でいるとなると質問攻めに会ってしまう。しかしその心配はいらなかった。
「その〜、僕のお母さん今日帰って来ないよ」
「⁉︎」
波原の言葉に涼風は驚く。
「土曜日は仕事で泊まり込みだから、明日まで帰って来ないよ」
涼風は考える。迷惑でなければまだ波原と遊ぶ事が出来る。本心として、波原ともっと遊んでいたい。けど泊まってまでは流石に急すぎる。まず、男の子家に泊まる事に緊張する。優しく波原の事だから手は出されないだろうが、色々と気を使わせてしまいそうだ。
涼風は色々と考えて提案する。
「22時。22時までいてもいいかな?バイト終わりとそんなに時間は変わらないし」
「オッケー。それじゃあ今日は出前でも頼むか」
「出前⁉︎」
「うん。もしかして出前した事ない?」
涼風はコクコクと首を振る。テンションが露骨に上がっているのがわかる。
「もしかして、ピザですか?」
「そのつもりだけど」
「やった〜!私出前のピザ一回食べたかったんだよね〜」
リビングに移動し、ソファに2人並んで座ってピザ屋のチラシを見る。
「春のスペシャルテリヤキセットに7種のチーズてんこ盛りセット。どれも美味しそう」
涼風はキラキラした目でチラシを見つめる。自分の家のソファ。更に自分の隣にこんな美少女がピザ屋のチラシをこんなにも楽しそうに見ている瞬間に立ち会った人はこの世にどれほどいるのだろうか。少なくともこれが学校でバレたら、後ろからナイフで刺されそうだ。
「涼風はどれ食べたい?」
「色々食べたいのあるけど、やっぱ7種のチーズてんこ盛りセットかな〜。いやけど春のスペシャルテリヤキセットも・・・」
「なら、2つとも頼むか」
「けど、ピザ2枚なるでしょ。2人で食べ切れる?」
「いや、このピザ屋には『ハーフ』というのがある」
「ハーフ?」
「一枚のピザで2つの味が楽しめるってやつ」
このサービスを使うとピザ一枚の半分を7種のチーズてんこ盛りセット、もう半分を春のスペシャルテリヤキセットに出来る。
「ピザの革命じゃん!それでいこう!あ、でもそれだと波原の食べたいやつが・・・」
少ししょんぼりしつつ、波原の事を思い言葉にしてくれる。しかし、波原はこのピザ屋をずっと使っている。もう既に全ての味を食べ尽くしている。
「涼風の好きなのを頼みな。僕は大丈夫、全ての味を食べた事あるから」
「そ、そう。なら私の食べたい味で・・・って全種類⁉︎20種類以上あるけど?」
「結構な頻度で食べてるからとっくの前に網羅済み」
波原は少しカッコつけるが特に自慢する事でもない。
「なら、この2つの味でお願いしよかな」
「オッケー、なら電話するね」
電話で注文した後、40分ぐらいしたら家のインターホンが鳴る。モニター越しに見るとピザ屋の配達員さんだ。
ドアを開けて配達員のお姉さんからピザを受け取る。
「いつもありがとうね〜。ピザ屋のお姉さんだぞ」
ピザを出前を頼むとかなりの確率でそのお姉さんが運んでくる。波原も良く利用する為、実質知り合いみたいなものだ。
「配達ご苦労様です」
「いつも通り2100円ね。ていうかハーフって珍しい」
「今日は、そういう気分で」
「まぁ、気分転換は大事だよね。じゃあありがとうね〜」
玄関ドアが半分くらい閉まった所で涼風がリビングのドアを開けて近寄ってくる。
「ピザ届いた〜?運ぶの手伝うよ」
その瞬間玄関のドアが開く。
「女の子だ。更にとても可愛い」
「あの〜配達員さん?」
「あ、ごめんごめん。名も知らぬ少年よ、今夜は楽しみたまえ」
お姉さんの言い方が少しいやらしく、波原は少し顔を赤くする。言い返す暇もなく玄関の扉は閉まる。
「ねぇ波原、なんで顔赤いの?」
「いや、気にしないで」
リビングでピザを開封する。冷蔵庫からはコーラを持ってきてコップに注ぐ。
「それじゃあ早速」
「「いただきます!」」
涼風はチーズのピザを口に運ぶ。チーズは伸びて、中々の長さまで伸びる。なんとかチーズを口に運び込む。そして最後にコーラを飲む。
「すごい、めっちゃ美味しい〜」
「でしょ、これが出前ピザ」
その後も食べ進めて、あっという間にピザを完食する。涼風は最後まで楽しそうに食べていた。注文して良かったと波原は思う。
「ごちそうさま。美味しかったね〜」
「そうだね、やっぱ人と食べると更に美味しく感じる」
ピザのゴミを片付けた後ソファに座り、次にする事を考える。
「波原、あれ持ってる?ちょっと前に出たパーティーゲーム」
「持ってるよ、けど買うだけ買ってやってない。その1人だから」
パーティーゲーム。その名の通り、複数でプレイするゲーム。ぼっちの波原が気まぐれで買ったのはいいが、放置されている。
「ならそれしよう!私、得意なんだよね〜」
涼風は自身ありげに言う。
「でも、一緒にする友達いるのか?天音さんとかゲームするタイプには見えないけど」
「え?あ〜、その、祈凛もたまにはするんじゃないかな〜」
涼風は、実は1人で遊んで練習しましたなんて口が裂けても言えなかった。
「ふ〜ん。それじゃあやるか」
「そ、そうだね」
なんとか誤魔化せた涼風は口から息を吐き、落ち着いた。
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