第42話 服選び
休憩と言う事で、再び陽キャがよく嗜んでいるコーヒーショップに来た。2回目だが、波原はここの雰囲気に慣れる気がしない。
「ご注文は何にしましょう?」
店員からの質問に、涼風は朝宮同様呪文を唱えている。涼風の友達を見れば、涼風がここに慣れているのは当たり前だ。
「波原はどれにする?」
涼風からの声で顔を上げる。しかし、今日ここにいる波原は今までの波原ではない。再びここに来る可能性を考慮して、波原も呪文を覚えてきたのだ。その為、恐る事はない。
「えっと…」
波原も呪文を唱え始めた。最初の方は順調だった。しかし最後の方でミスをしてしまう。そう、噛んでしまったのだ。
「クスクス…噛んでる」
隣にいる涼風から、笑いを耐えながら小さい声で言葉が飛んでくる。波原は恥ずかしさに耐えながらなんとか注文を済ませる。ドリンクを受け取った後、席に向かい合って座る。
「惜しかったね〜。後少しで完璧だったのに」
「最後の最後でミスしてしまった。練習してきたのに」
「練習したの⁉︎面白すぎる」
笑っている涼風は楽しそうだが、当人の波原は小さくなる事しか出来なかった。恥ずかしさを冷ますようにドリンクを飲み、喉を潤す。
「それにしても、クレーンゲーム楽しかった〜」
「でも、沼にハマらないようにしなよ。お金なんて一瞬で溶けるから」
「先人のアドバイスは参考になります」
波原はここに来るたびに思う。いや、まだ2回目なんだが。このジュースは大きい。故に飲んでいる時間が長いのでその分話が無くなっていく。しかし、涼風の場合そんな必要はなかった。
「この前波原の家でゲームやったじゃん。あの後、色々調べたんだよね〜」
「お?!あのゲームハマった感じ?」
「そうそう、早くプレイしたいよ〜」
「ようこそ、こちら側へ」
「両足とも、どっぷり浸かったよ」
波原の思っている以上にゲームにハマっていて、教えた側としてはとても嬉しいものだ。
そのまま、教えれる事や小技を、教えていたらあっという間にドリンクを飲み干した。
「あの、買い物手伝って欲しいんだけどいい?」
ドリンクの蓋を開け、ゴミ箱に捨てている時に涼風から提案される。
「荷物持ちか?余り期待しないで欲しいけど…」
「いや、一緒に服選びして欲しくて」
「……服選びね。うんうん服選び。……服選び⁉︎」
波原は理解するまでに少しの時間を要した。女の子の服選びをする。それは青春に身を置いた男女がする事であって、俺のような陰キャが経験する事ではないはずだ。
「僕のセンス終わってるぞ」
「この機会に新しい服の種類が欲しいんだよね〜」
「それなら、天音さんとかの方が的確じゃない?」
店を後にしながら、波原は言う。しかし、涼風は『分かってないな〜』みたいな雰囲気を出しながら発言する。
「ちゃんと気づいてよ〜。私は波原に選んで欲しいんだよ〜。鈍い男は将来彼女出来た時、困るよ〜」
「いやいや、まず僕に彼女出来ないよ」
「まぁ、人生何があるかわからないよ」
それを言われたら確かにそうだ。だって今涼風と買い物に来ている事さえ、前の自分からは想像できない。
「分かった。とりあえず服を選べばいいんだな」
「分かったならよし、なら早速服屋さんにGO〜」
1つ上の階に上がり、オシャレな服屋に入店する。波原の場合、老若男女みんな大好き安くて最強の大手服屋に行くがこう言う店は久しぶりだ。
更にレディースのブースに行く為、そこはもう未知の領域になっている。
カーディガン、スカート、上着から小さいアクセサリーまで取り揃えられている。
「さぁ、今日は私を着せ替え人形にしていいからね。でも、ちょっと露出の多い服は恥ずかしいからやめて欲しいかな〜。どうしてもっていうなら、着てあげない事もないけど」
波原は突然の発言に対して言葉をどう返したらいいかわからない。しかし、否定する事は確実だ。
「しないよ。これで、涼風との関係にヒビを入れたくないしな」
涼風は波原の意外な発言に少し、頬を赤くする。波原にとっては学校唯一の友達だ。失うわけにはいかないのだ。
「そうだね。私がいないと波原ぼっちになるもんねか。それじゃあ信頼してるよ」
そうやって涼風は服を見始めた。波原も周りを見渡して服を選び始めた。
数十分経って、涼風に何セットかの服を渡した。
「ほうほう、これだけも選んでくれたんだ。任せて、全部着るよ!」
そう言ってフィッティングルーム入って行った。カーテンを閉めたと思ったら。再び開く。
「覗きはダメだぞ」
「社会的に死ぬ」
反射で言葉を返すとそのまま、フィッティングルームへ入って行った。
ここで波原に問題が発生した。涼風が着替えている間、波原はどうすればいいのだろうか。周りはレディースの服だらけ、男子1人で居るのは少し気持ちが落ち着かない。かと言って離れたら涼風に何を言われるか。
そんな事を、考えていたら再びカーテンが開く。
「いい?そこから動いたらダメだからね」
「…はい」
逃げ場がなくなり、おとなしく待つ事にした。
5分ぐらいが経ち、涼風はフィッティングルームから顔だけを出した。
「着替え終わりました〜。任した私が言うのもアレだけど、服のサイズよく分かったね〜」
「わからないよ!これぐらいかな〜で選んだだけ」
「なんか、私のサイズバレて恥ずかしいよ。」
そう言った後、カーテンを大きく開けて服装が公開された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます