第47話 本来の

「お風呂ありがとう」


波原はYシャツとスラックス姿に肩からタオルをかけて出てくる。風呂上がりのせいでまだ体から少し湯気が出ている。前髪は濡れていると目にかかってしまい邪魔なので上にあげている。

涼風は今日初めて、波原の別の顔を見た。

しっかりと整っている目に二重瞼が涼風の目に映った。


「ちょっとストップ」


涼風は手を前に出し、波原に停止を促す。そしてグルグルと波原の周りを回りながら観察する。

気が済んだのかソファに座り、口を開いた。


「波原って、女装いけそうだね」

「……はい?」

「目も綺麗だしまつ毛は長くて二重瞼。体は細いし、身長も高いって訳ではない。これはいけるよ。」

「いやいやいや。僕にそんな趣味はないよ」

「試しに来てみても良いんじゃない?あ、冷めないうちにほら私の上着貸してあげる」


涼風は机の上に畳んであった上着を渡す。


「あ、ありがとう。…あの、これって着ないとダメ?」

「うんうん。冷えちゃったらどうしようもないでしょ」


波原はもこもこでピンク色の上着を渡される。フードには猫耳が付いている。波原は躊躇しながらもその上着に手を入れる。


「あら〜。可愛いね〜」

「うるさい!脱ぐぞ!」

「え〜もうちょっと来てなよ〜」


涼風の鑑賞タイムは3分程度続き、涼風はスマホにその姿を捉えようとしたので波原は急いで脱ぎ、乾かしてもらったブレザーを着る。


「写真撮りたかったな〜」

「そこまでは許せません」


少し言い合った後は普通に雑談タイムになった。気がつけば雨は止み、地面の水たまりには夕陽が反射していた。


波原が涼風の家を後、涼風はお風呂に入った。

涼風は鏡に写る自分の顔を見ながら考えた。


「波原の顔、結構かっこいいな〜。いや、あれはもう美形だな。なんか私負けちゃいそう。……いや!ただでさえゲームで負けてるのにここでは負けられない!」


お風呂に浸かりながら涼風はふと思った。


「波原のあの顔を知ってるの学校では私だけなんだ」


勝手に頬が緩み、ニヤけてしまう。


「違う違う!その事をを別に知っててもそれがどうしたのよ。……それだけだよね」


涼風は湯船に口まで浸かり色々と思い考えたが結局わからず、とりあえずお風呂を満喫する事にした。


波原は家に帰り、制服からラフな服装に着替えていた。その時に気づいてしまった。


「ヤバッ、ネクタイ涼風の家に忘れてしまった」


波原はすぐに涼風に電話した。涼風は幸いすぐに電話に出た。


「あの涼風、僕ネクタイ忘れてしまって」

「あーちょっと待ってね」


電話から途切れ途切れに歩く音が聞こえる。


「あ〜あったあった。ネクタイ脱衣所に忘れてるよ」

「分かった、今から取りに行ってもいい?」

「いや、外はもう暗いし明日学校で渡してあげるよ」

「でも、門に立っている先生に見つかったら指導だよ」

「なら、ちょっと早く集合しようよ。知ってる?先生が門前に立つの8時5分以降なんだよ」

「へぇ〜。知らなかった」

「なら、8時に波原がぼっちで昼食食べているとこでいい?」

「おい、ぼっちとか言うな。とりあえず分かった」

「うん、それじゃあまた明日」

「うん。また明日」


電話はあっという間に終わりを告げた。そして夜は明け新しい日が始まる。






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