第46話 お風呂
涼風に言われるがまま、家に連れて行かれる。片腕が濡れているだけなので風邪を引く心配などほとんどないのだが。波原は涼風のその優しさが少し嬉しかった。
「そういえば風呂はいつ沸かしたんだ?」
「帰り道に沸かしといたよ。最近はスマホの操作で沸かせる事ができるんだよね」
ドアを潜り、家の中に入る。
「お邪魔します」
「はーい、とりあえずこのタオルで頭とか拭いてね〜」
涼風からタオルを渡されて波原は濡れている箇所をタオルで拭いた。
「はい、ならブレザー脱いで、そしてお風呂へGOー」
「そんなに急かさなくてもいいでしょ」
「いいから、早く!」
涼風は波原からブレザーを受け取ると脱衣所に波原を押し込こんだ。
「脱いだ服は棚にある箱に入れる事!そのままならしばく!」
「流石にそのままにはしないよ!」
涼風はブレザーとタオル、ドライヤーを抱えてリビングへ向かう。ソファに腰掛けブレザーをタオルで拭く。
「私のバカバカバカ!何普通に家に連れて来てお風呂に入れさせてんの!?」
普段とは全く違う波原でも知らないポンコツな顔で、しかし丁寧にブレザーを拭く。
「はぁ、しっかりと説明しないと。このままだったら誰でも家に連れ込んでると思われてしまう。」
ドライヤーの冷風でブレザーを乾かした。そして何か覚悟を決めて立ち上がった。そのまま脱衣所のカーテンを開け脱衣所に座り込む。
「ねぇ、波原?」
「ん?どうした」
お風呂の中から籠った声の波原が返事をする。
「あの、わ、私!そんな誰これ構わず人を家に連れ込んでいる訳じゃないから勘違いしないでね」
少し早口になりつつ、なんとか言い切る。涼風の顔は風呂上がりのように赤くなっている。波原は少し笑うと口を開く。
「そんな事分かってるよ。けど、そう易々と男子をお風呂に入れるのはどうかと思うぞ」
「そ、そうだよね。ごめん」
涼風の三角座りが更に小さくなりおにぎりみたいになる。
「でも、僕を心配してくれた事はとても嬉しいし、すぐに行動に移したのもすごいよ。でも少し後先考えた方が良いかも」
思ってもいない言葉の返しに涼風は顔を上げる。波原の言葉が涼風の心に響く。
「まさかそんな返しが来るとは思わなかったよ。普通の女の子だったら惚れてるよ」
「なら、そんなぐらいじゃ涼風は動かないな」
涼風の心が少し動いたなんて言うにも言えず黙り込む。
「とりあえずそれだけ。それじゃあ、ごゆっくり」
「うん、ありがとう」
涼風は、脱衣所を後にした。その時の涼風の顔は嬉しそうで、少しテンションも高かった。しかし顔にはまだ少し熱が残っていた。
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