第45話 相合傘
外は暗く雨が降り続けている。基本的に廊下の電気は付いていなくて、冬の暗くなるのが早い時期だけついている。よって廊下は薄暗く、微かな外からの光が差し込んでいる。涼風と波原は靴に履き替えて、校舎の出口で止まる。
「結局、私は入れてもらえそう?返事聞いてないけど?」
「まぁ、状況的にそれが一番かなと思うから。い、入れてあげる。流石にこの雨の中に走って帰れ!とは言えないよ」
「そっか、ありがと」
空気が付き合い始めのカップルみたいな甘酸っぱい雰囲気になる。波原は黒い傘を開ける。いつもなら肩を支えに斜めに持つのだが、今回は垂直に持つ。鞄は左肩にかけてなるべく傘内にスペースを作る。校舎から一歩出て、涼風が入ってくるのを待つ。
「えっと、失礼します」
涼風は少し遠慮しながらゆっくりと傘の中に入ってくる。ゆっくりと正門に向かって歩き出す。
「これが相合傘か〜。なんか新鮮だな〜」
「余裕振ってるけど実は恥ずかしいでしょ」
合わせないようにしてた目線が合う。2人とも程よく顔が赤く、無理矢理普通を保っている感じだ。
「無理しなくてもいいんだよ〜波原」
「いやいや、涼風だって恥ずかしがってるくせに」
2人で言い合ってるうちに段々恥ずかしさは消えていったが、相合傘をしていると言う事実が消える訳ではない。学校を出て街の道路へ出る。歩いていると、ちょうど前から同じ高校の生徒が歩いてくる。それが見えた瞬間2人は黙り込む。波原の場合はバレないかもしれないが、涼風の場合は声を聞かれただけでバレる可能性が高い。黒い傘のお陰で顔はバレないが、男女で相合傘をしてるのは服装でバレてしまう。
「相合傘してな〜い、なんか初々しいね〜」
「若いね〜。私達にはもう過ぎた青春か」
「いやいや、私たちも高校生でしょ、後一年もないけど」
わざわざ、涼風と波原に聞こえるぐらいの大きさ言わなくてもいいのではと思いつつ、すれ違う。
「波原、別に気にしなくてもいいよ」
「僕は気にしてないよ。別に付き合ってる訳でもないし」
「そういえば、相合傘の定義ってなんだろう?付き合っている2人が一緒の傘に入るのが相合傘なんかな?」
「仮にそれだったら、これはただの相合傘か」
芯を突いていないのに何故かそれっぽく聞こえてしまう感じに波原が言うと涼風は笑う。
「ただの相合傘って何?それはもう相合傘だよ」
「確かに」
結局相合傘の定義は分からず、そのまま家へ向かう。いつもなら公園で分かれているのだが、今回は涼風の家まで送っていく事にした。
雨が少し弱くなっていき、涼風の家に到着した頃には小雨になっていた。
「ありがとう、傘に入れてくれて」
「当然の事をしただけだよ」
涼風は屋根のあるロビーに入り、波原の方を振り向く。
「この仮は必ず返すね…」
「うん、それじゃあまた明日」
波原は振り返りここを後にしようとした時に急に手を掴まれる。
「待って!」
傘が揺れて傘についていた雨粒は細々と跳ねて地面に落ちる。
「波原の腕辺り濡れてるじゃん」
「あー、ちょっと濡れてるだけだよ。大丈夫」
「なんで傘を貸した人が遠慮してるの。私が入れてもらってる側なのに私はどこも濡れてないよ」
傘に入れて貰った感謝、涼風自信に気を使ってくれた嬉しさ、波原が遠慮した結果波原の服が濡れている事に気づかなかった自分への怒り。涼風は色々な感情が混じった表情で波原を見つめる。
「風のせいで雨の中に傘が入ってきただけだから気にしないでいいよ」
「ダメ!風邪引いたらどうするの?」
「そんなぐらいじゃ風邪は引かないよ」
涼風はもっと強く手を掴み、そのまま波原をロビーに引っ張る。波原は傘の雨粒が涼風にかからないように咄嗟に傘を下に降ろす。
「私の家よっていきなよ。お風呂も沸かしてるし」
「…お風呂?」
「風邪ひく前にあったまりなよ」
「……へ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます