第9話 休憩の餃子は美味しい
土曜日であっても起きる時間は変わらない。いつも通りの時間に起床して母の弁当を作る。今日の弁当は卵焼きにピーマンとちくわのきんぴら。朝から揚げる時間は流石にないので唐揚げは冷凍食品に頼ることにした。
「11時ぐらいには行くね〜」
「今日は帰ってこない感じ?」
「ごめんね。私の会社、土日めっちゃ忙しいから。日曜日の夜には帰ってくるよ。ご飯代は机の上に置いとくからね」
母は机の上に5000円札を置いて、忙しそうに準備をしている。あっという間に11時になり慌てて靴を履く。
「それじゃあ行ってくるね。寂しくなったらいつでも電話していいからね」
「俺も子供じゃないんだから。いってらっしゃい」
ドアが閉まる。家はさっきとは違って静まり返る。このままダラダラとゲームをしたいところだが、1時間後にはバイトが始まるので身支度をする。必要な物を鞄に入れて家をあとにした。
12時前にバイト先に到着した。この店には裏口というものがなく普通の扉から入るしかない。
扉を開けると席は埋まっておりガヤガヤと明るい雰囲気だった。
「湊来たか、すぐに手伝ってくれ」
「了解です」
店長に急かされ、急いで着替える。準備を整えて厨房に早足で入る。
「波原!マジで助けて腕もげそう。こんなにタコになりたいと思った日はないよ」
ラーメンを茹でながら餃子を焼いている。見ただけでも疲れが伝わってくる。
「それじゃあ僕がラーメンを作るよ。涼風は餃子とかのサイドメニューに集中して」
「ガッテン!頼りにしてるぜ相棒」
テンションが妙に高い涼風に背中を軽く小突かれる。相棒と言う言葉に少し疑問を持ちつつ自分の仕事を全うする。
そのまま無心でラーメンを作り続けた。1時を過ぎた頃にはだんだんと空席が増えていった。
「デスタイム終わった〜。」
「なにこれ2日目でこなす事じゃないだろ」
落ち着いて涼風と一緒にゆっくりと皿を洗う。乾燥は自動でやってくれる為、少しは楽だ。
「それにしても波原すごいね」
「バイト3日目にしてあのデスオーダーを捌き切るなんて」
「店長もラーメン作るの手伝ってくれてたからだよ。涼風だって1人でサイドメニュー全部作ってたじゃん。職人技だよ」
「えへへ〜、照れるなー」
そう言いながら涼風は少し照れながら頭をかく。
「お前ら、皿洗い終わったら休んどけ!今は客も少ないし俺1人で大丈夫だ」
「「わかりました」」
いい感じに声がハモり、2人顔を合わせてフフッと笑ってしまう。
皿洗いを終え奥の休憩スペースへ向かった。
「やぁ〜2人とも、生きてるかい?私はこの通り後少しの命さ」
また机と同化している黒咲先輩がいる。
「2人もやる?こうしたら机がいい感じに冷たくて気持ちいよ?」
「いや大丈夫です」
「私も遠慮しまーす」
壁にかかっているパイプ椅子を組み立て座る。約1時間立っていただけだが足にすごい疲労が溜まっているのを感じる。
すると、扉が開き店長が入ってきた。
手には餃子が乗った皿がある。
「お前らぶっ倒れる前に食っとけ。食い終わったらすぐに手伝いに来いよ」
「お、待ってました〜」
黒咲先輩は餃子を見た瞬間体が起き上がる。
「店長ありがとうございます」
「店長、気がききますね〜」
店長はすぐに厨房に戻って行った。各々お箸を取り、取り皿に餃子のタレをかける。
「「「いただきまーす」」」
餃子をタレに付け、口へ運ぶ。中から肉汁が出てきて柔らかく口の中へ溶けていく。冷凍餃子や自分で作る餃子とは格別の美味しさがある。
もう一つ、もう一つと皿から口に運ぶと餃子の皿はすぐに空っぽになってしまう。
「う〜ん、何回食べてもここの餃子は美味しい〜」
涼風は幸せそうに餃子を食べている。学校の涼風からは想像も出来ない笑顔につい見入ってしまう。
「うん?もしかして顔になんかついてる」
お箸を置き、涼風は顔の周りを触って確認する。
「いや、なにもついてないよ」
咄嗟にことばを返して目線を逸らす。
「ならいいけど」
そう言ってまた餃子を一つ、口へ運ぶ。
夢中に食べているうちに皿の上は空になってしまった。
「それじゃあ、バイトに戻りますか〜」
「紬ちゃん待ってもう少し休憩しよ」
「ダメですよお給料貰ってるのにサボりは」
そう言って涼風に黒咲先輩は厨房へひ引っ張れていく。
「助けて〜!湊く〜ん」
「先輩、僕も涼風と同じ意見です」
「な!湊くん裏切ったな!」
「仲間になった覚えはないですよ」
厨房に戻り、しごとに戻る。まばらに入って来る客の注文した料理をつくだけなので、先程と比べたら比較的に楽になる。
客足が止まり落ち着いた所で涼風が隣にやって来る。
「お疲れ〜、どう?結構慣れたきた?」
「そうだね、ラーメンはもうマスターしたかも」
「お、すごいね。私なんて慣れるのに2週間かかったよ」
皿洗いなどをしつつ、ちょっとした雑談に花を咲かす。話がひと段落した所で涼風が質問して来る。
「それで波原、一つ質問なんだけどアニメショップ行った事ある?」
「アニメショップってあれかあの青いやつ」
漫画からキャラクターグッズ、期間限定グッズからCDまで取り扱っている最強の青いお店の事だ。僕も時々漫画やラノベを買いに行っている。
「そうそう」
肯定すると涼風の顔が徐々に近づいてきて目が輝いている。
「まぁ、あるけどそれがどうかした?」
「バイト何時まで?」
「えっと・・・5時までだけど」
美少女の顔が目と鼻の先にあり、照れるのを隠すのに精一杯になる。
「お、それじゃあ私と一緒だ。バイト終わった後用事ある?」
「ないけど・・・」
少し間が空き涼風がゆっくりと口を開く、そして思いがけない言葉が飛んでくる。
「それじゃあ、私と一緒に買い物しない?」
衝撃の言葉に耳を疑う。まさかこんな美少女に一緒に買い物しようなんて言われる日が来ようとは・・・。しかし疑問もある
「え、アニメショップにか?涼風ってアニメ好きなの?」
「アニメはあまり見ないけどライトノベルはよく読むよ」
「え?意外すぎる」
「まぁ、普段の私からは想像出来ないよね。それでいく?行かない?」
恐らく2人で行くことになるだろう。そこはとても恥ずかしいがそれより涼風がライトノベルが好きって聞いて興味が湧いた。
「いいよ」
「やった!!」
涼風は小さくガッツポーズをして喜んでいる。小動物見たいで可愛くみえる。
「それじゃあ、6時30分に駅集合でいい?」
「集合するの?そのまま行けばいいじゃん」
「波原くん察して。バイト終わり、働いている所ラーメン店、服に匂い付いている。オッケー?」
要するに服とかの匂いが気になるから一度帰って着替えたいと言うことだろう。僕は今までそう言う場面に遭遇することがなかった為気づけなかった。
「理解した。それじゃあ6時30分に駅前集合で」
「うん。遅刻厳禁だからね」
そう言って元の立場へ戻っていった。
僕はゆっくりと先ほどの話を思い返しながら皿を洗う。そして1つの事実に気づいてしまい、皿を洗っている手を止める。
『これ、実質デートじゃないか⁉︎』
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