第51話 質問

水瀬杏。天音祈凛や涼風紬と一緒にいる女の子。波原から見ると彼女は物静かなイメージで表情の変化が余りない子。しかしカーストトップと話せるだけのコミュニケーション能力がありギャップがある。


「いや、付き合ってないよ」


波原は先ほどの問いにそう答える。なるべく表情を変えずに。


「なら、弱みでも握って従わせてる?」

「いやいや?そんな事する人に見えます僕?」

「いや、見えないね。けど人には必ず表裏がある。私も、紬にも。あの祈凛にだって必ずある」


あの2人といる時と違い水瀬杏は少し口調が変わっているように感じる。これが他人に話す時の態度、言うところの彼女の裏の性格なのかも知れない。


「なら、友達?」

「………」


僕は黙り込むしかなかった。波原から友達って事は言わないでと言ったのに自分から破る訳にはいかない。


「だいたい分かった」

「え?」

「まず君は紬と友達だね」

「いや……」

「別に答えなくていいよ。私が勝手に理解しただけだから」


波原は訳が分からなくなる。水瀬杏は何故1人で答えを導き出す事が出来たのか。


「水瀬さんが何故それが真実だと思ったのか聞いてもいい?」

「それを聞くならこれが真実だと言っているものでしょ。まぁ、強いて言うなら…」


水瀬杏は波原の顔を指差す。


「波原くんの視線、頬の筋肉の動きから考た。なるべくポーカーフェイスを保っているつもりかも知れないけど、まだまだだよ」

「なるほど。メンタリストみたいな事ができるんだ」

「そういうこと」


水瀬杏はそう言うと少し俯いた。


「そんな事出来てもいい事なんてほとんどないよ……。こんなの人間不信になる理由でしかない」


つまり、表情などで相手の事がわかるから常に相手の事を考えてしまう。


「相手が嘘ついてるとか、騙そうとしているとかがわかるから信じられないって事?」

「そんなかんじ。お陰で友達は祈凛と紬だけ。2人は信用できるし私も信じている。でも、祈凛はちょっと怖い」

「なんで?信用してるんじゃないの?」

「祈凛は裏表が無さすぎる。裏がなくて常に表。だから逆に怖いと感じる」

「裏表ないのなら信用できるんじゃない?」

「だから言ったでしょ。裏表がない人間はいない。表が大きい人ほど抱えている裏も大きいって事。でも私は祈凛はいい奴だと思ったから私の勘を信じる事にしたの」

「なるほど」

「ごめんね、君には関係のない事話して。なんか波原くんには親近感が湧いたから」

「親近感?」

「だって波原くん、友達少ないでしょ」

「いや?友達結構いるよ」


波原はここで見栄を張ってしまう。しかし水瀬杏には無駄だった。


「嘘ついてるね。私に嘘、隠し事はできないよ」

「さ、流石。でも自分も友達が少ないって言ってるもんでしょ」

「私はさっき自分から言いました。しかし後もう一回その事いったら波原くんの卵焼きを食べます」

「う、ごめんなさい」

「分かったならいいよ。所でお腹空いたので卵焼きもらっていい?」

「……好きにすれば」

「ありがとうね」


波原は水瀬杏に対して言葉がでてこなかった。





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