第50話 衣替え

6月も終盤に差し掛かり蒸し暑い日が増えてくる。雨の日も段々と減少し梅雨明けもすぐに訪れるだろう。

そして明日は制服の衣替え日。今日からは半袖の制服になる。今時珍しい夏は半袖制服指定なのだ。


「明日から衣替えなんだ〜。私の学校は夏用制服なかったから、めっちゃ暑かったよ〜」

「そうなんですか。大変でしたね」


波原は今、バイト終わりに黒崎先輩とバックヤードで話している。最近はバイト終わりにここで話す事が多くなっている。バイト終わりは疲れていてすぐに動くのはしんどいからだ。


「ブレザー脱ぎたくても脱げないんだよね〜。汗かいてるから恐らく透けてる」

「とりあえず、時と場所を選んで言いましょうね。一応僕いますので」

「大丈夫だよ過去の話だし。気にしない気にしない」


波原も一応思春期なので急にそういう話はやめてほしい。なるべく意識しないようにする。


「湊くん視線には気をつけてなよ〜。女の子は視線に敏感だからね〜。凝視してたら嫌われるよ」

「え、急にどうしたんですか」

「だって湊くん。私の顔ばっか見てくるから」

「話す時は人の顔見るでしょ!」

「冗談冗談。でも視線に敏感ってのは本当だから、女の子見る時は程々にね〜」

「僕は女の子ばっかり見る変態だと思ってません?」

「いやいや。波原くんはからかい甲斐がある後輩だと思ってるよ」

「そうですか。とりあえず今日はもう帰ります」

「気をつけて帰りなよ〜」


波原はちょっとムキになりながら店を後にした。そして今度スキがあったら必ずからかうと心に決めた。


次の日の昼休み。波原はいつも通り学園の森で弁当を食べていると、暖かいはずなのに頬に冷たさを感じた。振り返るとそこには炭酸を持った涼風がいた。


「こんなに暑いのによく外で食べれるね」

「ここはまだ日当たりも悪いからちょっと涼しいかな。けど7月になったら別の食べる場所探すよ」

「食堂で食べたらいいのに。1人で食べてる子も何人もいるよ」

「いや、食堂は人が多すぎて落ち着かない」

「そうなんだ。それで何か言う事はある?」


涼風は机に炭酸を置きグルッと回転する。そして波原を見てくる。


「えっと、衣替えした?」

「せいかい!」

「でもそれは全員でしょ」

「細かい事は気にしない!更に私は悪い子なので第一ボタンを開けています」

「ふーん」


波原は興味ない振りをする。しかし本当は目が一瞬動いた。危なかった。このままだと変態を烙印を押されていたかもしれない。


「開けるのは個人の勝手だけど、お前は一応学校では真面目で通ってるだからちゃんと戻しとけ」

「は〜い」


涼風は仕方なくボタンを閉める。すると思い出したかのように炭酸を持って走る。


「やばっ!祈凛待たせてるんだった。それじゃあ」

「あれ?もう1人いつメンいなかった?」

「ああ〜杏ね。あの子は今日委員会だって」

「そうなんだ」

「それじゃあね〜」


涼風は食堂の方へ走っていった。

波原は再び弁当を食べようとした。しかし再び頬に冷たさを感じた。また涼風が戻って来たと思い、振り返る。


「涼風今度はどうした……」

「どうも、紬のいつメンの杏です」


波原は幻覚かと思い一度冷静に前を向く。すると再び頬に冷たさを感じる


「大丈夫?波原くんだっけ。喉詰まったならリンゴジュースあげるけど」


手元には果汁100%のリンゴジュースがあった。


「大丈夫です。それで何か用です」


波原は、内心焦り散らかしている。何故このタイミングで委員会な筈の杏、水瀬杏がここにいる。波原の頭の処理が追いつかないまま水瀬杏は波原の前に座る。


「質問なんだけど」


水瀬杏は口を開く。続きは手を取るように分かる。しかしここで言葉を遮るように話すのは論外。前回の涼風とのネクタイの一件で学んでいる。もしかしたら見当違いの質問が飛んでくるかもしれない。波原は唾を飲み込みつつ神に祈る。どうか見つかっていませんようにと。


「波原くんって紬と付き合ってるの?」


波原は薄々分かっていた。そんな都合のいい事は起きないと。


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