第49話 ネクタイ②
「それじゃあ、動かないでね」
「は、はい」
涼風は波原の付けているネクタイを一度外す。
そして丁寧にネクタイを結び始める。襟の下にネクタイを通す為涼風は更に近くに寄る。涼風の息が肌に伝わりそうな距離に波原の心拍数は上がっているがそれがバレる訳にはいかないので、顔には出さないように頑張る。首に通し終わった後、そのまま結び始めた。
波原はここでふと思う。このシチュエーションって夫婦が朝しているあれだと。普通同級生にネクタイ結んでもらう事なんて無いしありえない。では何故涼風が今そんな事をしてくれているのかと考えると1つの憶測が思い浮かんだ。
涼風はまだ目が覚めてなくて、ノリやテンションでこの状況になっているのではないかと。もし今段々と涼風の目が覚めていてこの状況について理解してしまうと、羞恥心に包まれてしまう。しかし負けずに嫌いな涼風は最後までやり通してしまうだろう。その為波原は一度聞いてみる事にする。
「あの〜涼風さん。今更だけど目、覚めてる?今の状況分かる?」
「え?私が波原のネクタイを結んでるね。更に寝ぼけてもない。校舎裏日が当たらなくて肌寒いからすぐに目が覚めたよ。別に無理してしてる訳じゃないよ。まぁちょっと恥ずかしいけど自分から言ったからね」
微笑しつつネクタイを結びながら続ける。
「私がしたくてネクタイ結んでいるから何も気にしなくていいよ」
驚きの発言で波原は言葉を失った。喜びと羞恥心が波原に流れる。
「ありがとう」
「え?」
「改めて友達になってくれてありがとう」
「え?うん。こちらこそありがとう。お陰で私も毎日が楽しいよ」
「これからもよろしくお願いします」
ネクタイを結び終わった涼風は少し離れるとそのまま軽くお辞儀する。
「こちらこそよろしくお願いします」
涼風はスカートの上から掛けていた波原のブレザーを返す。そして立ち上がった。
「それじゃあ、教室行こっか」
「いやでも人に見つかったら」
「偶々登校時間が被った風にしようよ。人が見えたらそのままただの他人みたいに振る舞ったら大丈夫だよ」
「りょーかい」
波原もブレザーを着て立ち上がる。そのまま教室へ2人へ向かった。
「それで朝ごはんはご飯派?パン派?」
「あ〜…僕はどっちも食べるからな〜。強いて言うならご飯派」
「へ〜私と一緒じゃ〜ん」
「………」
そんな2人を後ろから見つめる1つの人影があった。波原も知っている人で涼風のいつメン、水瀬杏の姿があった。水色の長い髪をクルクルと弄りながら呟く。
「最近何かあるなぁ〜と思っていたらまさかの波原くんと密会か。意外だった」
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