第25話 3人で図書館

波原はテスト1週間の為、バイトの数は減らして貰っている。しかし完全に休む事はできず、平日と休日にバイト時間を少なくしてもらい、1回ずつ入る事になった。


波原がバイトが始まる前に英語の単語帳を見ていると黒咲先輩が話しかけてきた。


「定期テストの勉強?」

「残念ながらそうです」

「バイト前によくやるね〜。私には無理」

「大学生ってテストあるんですか?」

「あるよ〜。めっちゃめんどくさい」


大学生になってもテストからは逃げられない事が分かり波原は少し落胆する。


「でも、先輩から過去問とか貰ったりするから対策しやすいよ。似た問題出るし」

「なるほど」


黒咲先輩は波原の隣に椅子を運び、座る。そして波原の単語帳を覗く。


「懐かし、私も覚えたな〜」

「黒崎先輩って頭いいんですか?」

「う〜ん?高校生の頃、学年順位だと50位には入ってた気がする」


バイト終わり毎回溶けている黒崎先輩が実は学年順位TOP50で波原は驚く。


「そんなに驚かないでよ〜。私だってやる時はやるんだから」

「すみません」


すると扉が開き、涼風がやって来る。


「お疲れ様で〜す!」

「ん、お疲れ〜」

「涼風、お疲れ」


涼風はこっちに近づいてくる。


「偉いね。バイト前に勉強だなんて」

「覚えるの苦手だから、なるべく見ておきたいんだよ」

「私に勝つつもり?私記憶力いいから英単語は全部覚えたよ」

「マジかよ・・・」


突然のとんでも発言に驚きを隠せない。


「2人は勝負してるの?」

「そうなんですけど、僕が恐らく負けます。涼風、賢いんですよ。毎日授業しっかり受けてるし」

「そうなんだ〜、意外」

「意外ってなんですか!」


バイトでの涼風と学校での涼風は雰囲気が違うので黒咲先輩が思うのも無理はない。

すると黒咲先輩は1つ提案をする。


「そうだ湊くん。折角だし、私が勉強教えてあげるよ。私、明日バイトないんだ〜」

「え?いいんですか?」

「いいよいいよ。偶には先輩っぽい所見せないと」

「ありがとうございます」

「それじゃあ明日学校終わったら図書館集合ね」


徐々に進んでいく話を聞いていて、涼風は少し不貞腐れる。涼風にとって波原が誰に教えてもらおうと誰と遊びに行くのも自由だが、涼風の心の奥が少し苦しくなる。気づいたから涼風は口を開いていた。


「私も・・・私も行っていいですか?」

「いいけど、急にどうしたの?」

「紅音先輩が本当に教えれるか心配です」

「な⁉︎私の信用みんなゼロなんか〜。ならどちらが分かりやすく教えれるか勝負かな」

「いいでしょう!黒咲先輩負けませんよ」

「現役大学生を舐めない事だよ〜」


2人の間に火花が散っているのが見えた。

明日、3人で図書館に行く事が決定した。


次の日の放課後になり、近くの図書館に向かう。この図書館はとても大きく幅広い分野の本が置かれている。隣には大きい公園があり、大通りも近くアクセスがいい。


「紅音先輩もう居るみたいだよ〜」


図書館に入り、中を探索する。すると机に座っている黒咲先輩の姿が見えた。こちらに気付き、手を振る。


「制服じゃん。高校生だね〜」

「実際高校生ですよ!」


黒咲先輩の第一声に涼風が返した。


「それじゃあ早速勉強しよか〜。湊くん、私の隣座りなよ」


黒咲先輩に促されて波原は隣の席に座る。

ここは6人用のテーブルで端に黒咲先輩、その横に波原が座っている。この場合涼風は黒咲先輩の前に座るのが一般的だが、波原の隣に座る。


「なんで、そっちに座るの?」

「こっちの方が教えやすいです」


涼風と波原は勉強道具を取り出した。黒咲先輩はカバンから雑誌を取り出す。表紙を見ると音楽系の雑誌だった。


「湊くん。分からない所あったらいつでも聞きなよ〜」

「ありがとうございます」


波原は英語の問題集を開いて、問題と向き合う。しかし中々集中出来ない。なんせ両隣に美少女がいるからだ。ついラブコメの主人公になったかと錯覚してしまう。一旦切り替えて、英文を読む。


「黒咲先輩、これ教えてもらっていいですか?」


早速分からない問題があり、黒咲先輩に聞く。

そしたら雑誌を閉じて波原の問題集を見る。


「長文か〜」


軽く、英語の長文を読み問題を確認する。


「筆者の考えを4つの内から1つ選べね〜。よくある問題だ」


少し考えた後、答えの問題番号を指差す。


「答えは3だね。筆者の考えって基本的に文中の最初か、最後に書いてあるからそこを見たら分かるよ」

「なるほど、ありがとうございます」


意外な事にしっかりと教えてもらい、理解する事ができた。


「まさか、本当に教えれるなんで・・・」

「コラ〜。紬ちゃん聞こえてるよ〜」

「ごめんなさい。つい本心が・・・」

「余計酷いよ〜」


黒咲先輩はわざとらしく泣く真似をした。

そのまま、勉強を続けるがまたペンが止まる。


「この問題教えてもらいたいです」

「いいよ〜!」


次は涼風は最速で反応して返事をする。


「えっとね〜、これはここを見て・・・・・・」


涼風が説明する。前回と同じく丁寧な説明で、よく理解する事ができた。


「紬ちゃん、教えるの上手だね〜」

「これでも私、学校では頑張ってます」


このまま分からない所を交互に教えてもらう。

時間はあっという間に過ぎて、日が沈みそうになる。


「もう6時か。私そろそろ用事あるから帰るね〜」

「分かりました」

「湊くん。しっかり勉強して、紬ちゃんをギャフンと言わせてね〜」

「紅音先輩は波原の味方ですか?」

「もちろん。なんせ隠キャ同盟を結んでいるからね」

「そんな同盟結んでないです」


黒咲先輩はトートバッグに雑誌を戻すと立ち上がり、大きな荷物を背負う。


「そのギターケース紅音先輩のだったんですか?」


涼風が質問する。波原は黒崎先輩は音楽系の雑誌を読んでいた事を思い出す。


「そうだよ〜、ビックリした?」

「結構ビックリしましたよ!」

「友達とバンド組んでやってるんだ〜。今日は練習あるからバイト入ってなかったって訳。そうだ!」


トートバッグの中を探り、何かを探す。そして2枚の紙を渡す。


「これ、ライブのチケット。この日だったらテスト終わってるんじゃない?是非来なよ〜」


チケットを受け取る。チケットには日付が書かれている。ドリンクも1杯無料見たいだ。


「ありがとうございます」

「それじゃあ、波原と2人で見に行きます」

「それじゃあ頑張りな若人達よ〜」


そう言って黒咲先輩は図書館を後にした。


「紅音先輩、本当にギター出来ると思う?」

「普段からは想像できないけど、もし弾けるならかっこいいね」


チケットをクリアファイルに挟み、再び勉強に戻る。

波原はここで1つ気づいてしまう。先ほど涼風は「波原と2人で」と言っていた。つまり・・・


『2人で出かける⁉︎これは実質デー・・・』


つい力が籠り、シャーペンが芯が折れてしまう。


涼風もまた同じ事に気づく。


『私さっき2人で行きますって言っちゃった!実質私が誘ってるみたいなものじゃん!やっちゃった〜』


動揺して消しゴムで消さなくていいところまで消してしまう。


2人は問題集に向き合ってる振りをしながら、脳内を全力で整理した。

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