第24話 図書室

波原は学校にある図書室のドアを開ける。家ではゲームの誘惑に誘われて集中出来ない為、今日は図書室で勉強する事にした。


図書室の中は静かで本特有の匂いが漂っていて本好きにはたまらない。


カウンターに図書室の先生がいるが放課後だからか、それ以外に人は見当たらない。


端にある良さげな椅子に座り、机に数学の問題集を開く。


10分ほど問題集と睨めっこするがペンは動かず、回すだけ。


「私が教えてあげようか?」


隣から声が聞こえて、振り向く。そこにはいつの間にか涼風紬が座っていた。


「ビックリした。いつ来たの?」

「5分前ぐらいかな?波原の中々進まないペンを眺めてた」


そう言うと、カバンの中から眼鏡を取り出す。


「この、涼風先生に何でも聞きなさい」

「眼鏡ってかけてたっけ?」

「ただの伊達メガネ」


波原は教えてもらおうか悩む。もしかしたら「こんな問題も解けないの?」って煽られるかもしない。しかし点数が取れず赤点を取ってしまうことの方が良くない。覚悟を決めて聞く。


「それじゃあ、このページの2番教えてもらっていい?」

「いいよ〜!」


涼風は椅子を波原に寄せてくる。波原の目の前にある問題集を覗き込む。


「この問題ね〜。確かにこれはややこしいよ」


垂れてきた髪を耳にかけ直して、波原を見る。

あまりの近さに顔を少し後ろに下げてしまう。


「煽らないの?」

「私を何だと思ってるの?私も最初、この問題分からなかったし」


そのまま涼風は問題を説明する。涼風の説明はとてもわかりやすく、丁寧だった。


「最後にこれを公式に当てはめて完成」

「ありがとう。涼風って教えるの上手だね」

「そう?ありがとう」


髪をクルクルと回す。他にも分からない所を次々に教えてもらい、あっという間に1時間が経過する。


「数学の範囲終わった〜」

「お疲れ様。よく頑張ったね」

「とりあえず、欠点はないよ」

「私が教えたんだから、平均点以上取らないとダメ!」


波原は、可愛らしく言う涼風のその姿につい照れてしまう。


「なるべく、頑張ります」


時間は17時になる。日も徐々に落ちてきて外はオレンジ色で染まる。


「そろそろ帰ろかな。夜ご飯作らないと行けないし」

「オッケー、それじゃあ私も帰る〜」


荷物を片付けて、図書室を後にする。廊下に2人の足音が響き渡る。


「この時間帯だと、誰もいないね〜」

「部活もこの時期だとやってないな」


運動場には普段運動部が練習しているが、テスト前の為誰もいない。


「なんかこの世界に私と波原、2人だけいるみたいだね」

「・・・そうだね」


その後一言も喋らず、靴箱まで降りる。夕日に当てられた周りの景色と、さっきの発言をした涼風がとても美しく、幻想的だった。


余韻に浸ったまま、学校を後にする。


「波原?」

「うん?どうした」

「ずっと黙ってるけど考え事?」

「まぁ、そんな感じ」


帰り道に自販機が見えたので波原はお金を入れてコーラを購入する。


「教えてくれたお礼」

「いいの?大した事してないよ」

「僕からしたらとても助かったから」

「それじゃあ遠慮なく貰うよ」


涼風はコーラを受け取り、美味しそうに飲む。


「やっぱりコーラが最強!」

「本当にコーラ好きだよね」

「私の体の8割はコーラで出来てます」


冗談混じりの雑談をしつつ、そのまま公園まで歩いて解散する。


「ゲームの誘惑に負けないでよ〜」

「わかってるよ!」


家へ帰る涼風の背中を少し見送り、波原も家へ帰る。数学は涼風のおかげでかなり理解する事が出来た。しかし・・・


「他の教科どうしようかな」


生物、化学、国語、英語など中学生とは比べ物にならない数の教科のテストがある。テストまではまだ時間があるといえど、かなり大変だ。


家へ帰る波原の足取りは少し遅くなった。

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