第19話 自宅訪問(1)
バイト終わり、波原と涼風は一緒に帰る事が増えて来ている。今日も2人並んで夜の街を歩いて帰る。
「今日の昼休みの事なんだけどさ」
「波原が祈凛に鼻の下伸ばしてた時がどうかしたの?」
「だから伸ばしてないって!それでその時思ったんだけどさ涼風の弁当の中身全部冷凍食品でしょ」
急な指摘に涼風は視線を逸らして下を向く。少しの無言の後、吹っ切れる。
「そうですけど!何か問題でも??」
「もしかして料理苦手だったりする?」
「そ、そ、そ、そんな訳ないじゃん」
涼風はとても慌てる。バイトでの風景を見るに出来ると思っているが、さっきの慌て様を見るに苦手かもしれない。
「卵焼き作れる?」
「作れるはず・・・多分」
「怪しい〜」
波原は勘繰る様な視線を送る。
「そこまで言うなら私の料理してるとこ見る?」
「え?」
「だから、そこまで疑うなら私の料理しているところを見せてあげる」
「どこで?」
「私の家」
「いつ?」
「今から」
とんでもない発言が涼風から飛び出す。普通ならこんな発言は出ないだろうが、波原が疑うから少しムキになってしまったのだろう。
「その、流石にそれはまずいのでは」
涼風は一度落ち着いて考える。
「流石にそうだね。こんな時間に家に呼ぶのは良くないか。時間もないし」
「もしかして気にしてたの時間?」
「え?そうだけど」
表情1つも変えずに言う。涼風は本気でそう思っている様だ。
「その、身の危険は感じないの?僕も一応男なんだけど・・・」
「え?もしかしてそんな事考えていたの?ヤラシ〜」
ニヤニヤしながら、波原の頬をツンツンと突く。
「まぁ、私に手を出したらそれが学校に広まって人生詰むよ?仮に手を出しても物理的に潰す!」
言葉に力が籠っていて波原は身震いする。
「そんなリスク犯す人ではないでしょ。それに信用してるし」
涼風がさらっと吐いた言葉に波原は少し嬉しくなる。
「大丈夫。流石に分かってるよ」
「わかってるならよろしい。それじゃあ明日の放課後行ける?私、バイトないから」
「僕もちょうどバイトない」
「じゃあ明日、私が手料理を奮ってあげよう」
こうして涼風の家への訪問が決まった。
次の日の放課後になった。
「つむぎん、今日の帰り遊びに行かない?美味しいスイーツの店ができたんだって」
終礼が終わるとクラスに天音祈凛が入ってくる。隣にはもう1人の姿が見えた。
「今日なら何と全品30%オフ。紬、行くしかないよ」
女の子中でも小柄で、綺麗な水色の髪を腰の辺りまで伸びている。彼女の名前は、
「ごめんね、今日は用事があるから2人で食べて来て。」
手を合わせて謝る涼風。
「そっか〜、それなら仕方ないね」
「写真は任せて」
そう言って、少し残念そうな天音祈凛と水瀬杏は教室を後にした。
波原は、一度家に帰り着替える。そして集合場所の公園へ向かった。公園では夕方の為、夜と違って小学生達が遊んでいる。涼風は、バイト初日の夜涼風と波原が座ったベンチに座っていた。
「集合時間通りだね」
「流石に集合時間は守るよ」
今日の涼風はジーパンにパーカーのラフな格好だ。髪は結ばずそのまま降ろしている。
「家に直行したい所なんだけど、その前に1つ手伝ってくれる?」
「何を手伝えばいいの?」
「スーパーでの買い出し。波原、君を私の専属荷物持ちに任命します」
「マジか〜」
最寄りのスーパーへ到着し、入店する。
波原は積み重なったカゴを上から1つ取り、手に持つ。
「それで何買うの?」
波原が涼風に質問すると頬に人差し指を当てて話し出す。
「えっとね〜、卵、玉ねぎ、鶏もも肉、パセリ、牛乳、バター、サラダ油かな!」
「作るのはオムライスとみた」
「な⁉︎なぜ分かった」
大袈裟なリアクションをする涼風に淡々と説明する。
「毎日料理してたら、何となく分かってくるもんだよ」
店の中を歩き、涼風は必要な食材をどんどんカゴに入れていく。サラダ油は中々重く、一気にカゴの中が重くなる。
「カート持ってきたらよかった」
「あれれ〜、もしかして非力ですか〜?」
「いや、余裕だし」
波原は、カゴの重さに耐えつつ、取り繕った表情で答えた。
欲しい食材をカゴに入れ終わった後、お菓子コーナに寄った。
「やっぱポテチは欠かせないよね〜」
そう言って塩味のポテチをカゴに入れる。
「波原は何味が好き?」
「僕はコンソメが好き。味濃いし」
「わかる〜、それじゃあコンソメも買っちゃおう!」
コンソメ味をカゴに入れる。
「そしてポテチの相棒と言ったら・・・」
「「コーラ!」」
いい感じに声がハモる。
「フフッ、波原分かってるじゃん」
「王道こそ正義だよ」
涼風はドリンクコーナで1番大きいコーラをカゴに入れる。カゴの中が更に一段と重くなった。
レジに到着し、レジ台にカゴに置く。店員さんが一つずつ丁寧にバーコードを読み取っていく。すると店員のおばさんに話しかけられる。
「2人仲良く買い出しかい?一緒に住んでいるんかな?」
急な発言に涼風と波原は慌てる。
「一緒に住んでないですよ!」
「僕たち、高校生です!」
一斉に否定するが、質問は止まらない。
「それじゃあ付き合ってるんかい?」
恥ずかしくなって2人は顔を赤くする。
「付き合ってもないですよ〜」
「彼女は友達です」
「友達ね〜、これは『今はまだ』ってやつかな?青春だね〜」
おばさんの質問は止まらずレジがすごく長く感じた。何とかレジを終えて、スーパーを後にする。
「すごいおばさんだったね」
「次は気をつけないとね」
「あれれ〜、また私とスーパーへ行く用事があるのかな〜」
「言葉の綾だ。後、そんなに顔を赤くして言っても説得力ないぞ」
「そっちこそ、赤いじゃん」
「いや、これは夕日のせいだ」
「何それ、そんなんで誤魔化せると思ってる?」
涼風は小さく笑い、手を後ろに組みながら歩き始めた。
波原は両手に袋を持ちながら、涼風の隣を歩いた。
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