第13話 書店にて

アニメショップのエスカレーターを使い上の階へと上がっていく。周りの壁にはアニメのポスターやイベントの宣伝ポスターが貼られている。4階までは特に問題はないのだが、4階から5階へ上がろうとした時に、異変を感じる。


「ねぇ?私をどんな店に連れていくつもり?周りのポスター際どい女の子多いんだけど」

「いや、ただの書店だ。けど奥は行ってはいけない」


周りには、露出度の高い服を着た女の子のパネルや恐らくエロゲーと思われるポスター。先ほどまでとは雰囲気が変わり周りにピンクっぽさが増える。


エスカレーターで5階に着き、店に入店する。


「手前には漫画、その奥にラノベって感じ俺達が行っていいのはそこまでだ」

「何となく察したよ。つまりそれより奥は18歳になったら行っていいよって訳だ」

「その考えで間違いはない。早く目当ての本を見つけてここをでるぞ」


ラノベゾーンに着き、探していた本を探す。


「あったあった。ちゃんとリーフレットも付いてるよ。更に特典でブークカバーだってさ!」  

「それじゃあさっさと会計するぞ俺は店の出口で待っとくから」

「え、波原は買わないの?」

「僕は買い物は1人でする派だ。また今度1人で来るよ」


波原の一言で涼風は1つ勘違いをしてしまう。この店でそういう風に言ってしまったのが運の尽きってやつだ。そう誤解されても仕方ない。


「まさか、1人の時に奥の方言って買い漁ってるの?」


涼風は店の奥の方を指差しながら、ニヤニヤしている。波原自身、店の奥にも行った事がないし、そう言ったものを購入した事もない。ただ買い物するなら1人が好きってだけだ。


「全くもってそう言った事実はないです」

「ふ〜ん・・・」


睨み合いが少し続くが波原にとってはとんだ勘違いな訳なので目を逸らすなんて事はない。


「折角来たんだし、何か買えばいいのに」


恐らく涼風も諦めたんだろう。しかし一応誤解しない為にもここで何かを買っておきたい。しかし本棚を見渡すが目を惹く作品は見つからない。新作のコーナーに行くと何冊のも新刊が縦積みで並べられていた。


「こう見たら凄いな、最近出版された本でもこんだけあるんだぞ」

「そうだね、なんか新しい命が生まれているみたい」


面白そうなラノベを見繕い、2人でレジへ向かう。


「新作ラノベは一杯買うんだね」

「だって、将来そのラノベが人気になって重版したり、コミカライズやアニメ化したら初版ってレアでしょ。それで古参アピールよ」

「因みに古参アピールをした経験は?」

「古参アピをできるラノベは何冊か持っているけど、した事はない」

「意味ないじゃん」

「ごもっともです」


SNSに上げれば不特定多数に見てもらえて凄いと思ってもらえるかもしれないが、そんな度胸を持ち合わせてない波原にはアピールする対象がいない。


ぼっちの弊害をまたしても感じつつレジを済ませて再びエスカレーターに乗る。


「いや〜、初めての体験だった〜」

「まぁアニメショップ今日初で更にあんな所まで行ったんだからな」


3階〜2階へ降りようとした時、1つ前の段にいた涼風が180°回転してこちらを向く。


「私達どっちも18歳になったら一緒にさっきのお店の奥行ってみる?」


ほとんど身長が変わらない2人だが、エスカレーターの1つ下の段にいる涼風は必然的に背が低くなってしまう。その為上目遣いで波原の目を覗く。そう言う場合涼風は少し幼く見えてしまうだろうが、波原の目には服装と言動が相待ってか、少し年上のお姉さんの様に見える。


「いや、そう言うのは興味ない」


軽く赤面している顔を隠しながら、言葉を返すが説得力は全くない。


「まぁ、冗談だよ。一人暮らしとはいえ、部屋に胸丸見えのお姉さんの本は置きたくないな」


案外さらっと引いた涼風に波原は安堵する。


外に出ると日は完全に日は落ちていて夜が始まっていた。肌寒い風が顔の赤面を拭き取り平常を取り戻す。


そして落ち着いてやっと気づく、お腹が空いている事を。5時間バイトしてその後すぐに買い物とっくにお腹は限界を感じていた。


「あの〜涼風」

「ん?どうした」

「夜ご飯食べない?」

「確かに言われてみれば餃子食べた後何も食べてないね。気づいたらめっちゃお腹空いてきた」


webでおすすめの店を探すと、とても食欲をくすぐる、とても美味しそうな店を見つける。


「ここどう?ハンバーグがとても美味しいらしい。更にサラダバーがあって釜炊きご飯食べ放題。少し値段は高いけど、絶対美味しい」

「確かに美味しそう。特にサラダバーが魅力的だね」


店はここの近くで、歩いて10分もしない所だったので早速足を動かした。


ふと波原は上を見上げた。雲一つない、少し暗い青色の空。基本的に繁華街は24時間電気が付いている為、星を見る事ができない。見えるのは人工衛星の光と飛行機の点滅してる光のみ。


『最後に満天の星空を見たのはいつだっただろう』


波原が5歳ぐらいの頃、家族全員でキャンプに行った以来かもしれない。


『そういえばキャンプ行った時誰かと仲良くなったな』


波原は頭を回転させて思い出そうとするが思い出せない。10年以上も前の話だから仕方ない。


それは忘れる事もなく波原の記憶の端にずっと残っている。波原にとって思い出せなくても忘れる事はない大切な一時の思い出だったのだろう。

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