第21話 自宅訪問(3)
冷蔵庫を開き食材を取り出して料理が始まった。
波原は楽しげに料理をしている涼風を見つめる。
「奥さんを持ったらこんな感じなのかな〜」
波原は小さく呟くいた。
すると、涼風はこちらの視線に気付く。
「なんか、いやらしい視線感じたんだけど〜」
「き、気のせいなんじゃない」
視線を逸らして、誤魔化す。
涼風は再び料理を作り始めた。
20分ぐらい経って料理が完成した。エプロンを脱いで、料理を食卓へ運ぶ。
「お待たせ〜!紬特製オムライスで〜す」
「おお〜!」
フワフワの卵が中のケチャップライスを包み隠し、ホカホカと暖かい湯気が昇っている。卵の上にはケチャップでにこちゃんマークが書かれている。
「本当に美味しそう。疑ってごめん」
「これで分かってくれた?分かったなら食べていいよ」
「いただきます」
お皿の手前に置かれていたオシャレなスプーンを手に取り、オムライスを一口サイズに切り分ける。それを掬い上げ、口へ運ぶ。
波原はしっかりとオムライスを味わう。そしてスプーンを置き、向かいに座った涼風の方を見る。
「涼風、味付けミスってない?すごく味濃いんだけど」
「え!?レシピ通り作ったけどな〜。スプーン借りるね」
席を立ち、こちらへ回ってくる。波原の隣に立ち、波原がさっき使っていたスプーンでオムライスを掬い、ゆっくりと口へ運ぶ。
「これは、やばいね・・・」
何とか飲み込みこっぷに入ったお茶を飲み干す。
「ごめん、作り直す」
涼風の顔は暗く、落ち込んでいるのが分かる。
波原は早足でキッチンへ向かおうとする涼風の手を掴んだ。
「僕も手伝うよ」
「いや、それじゃあ意味ないじゃん。私が料理出来るのを証明しないと」
波原は涼風の目を真っ直ぐ見る。
「卵の中にケチャップライス入れて綺麗に巻くのむずかしいんだよ!僕でもたまにミスするのに、涼風は綺麗に出来てた。ケチャップライスの中にある玉ねぎはしっかり刻めているし、鶏肉もしっかり焼けている。これだけ出来てるんだから料理が出来るのはわかるよ」
涼風の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。折角のチャンスで失敗して悔しいはずだ。
「でも・・・」
「料理って1人でするより、2人でやった方がいいじゃん」
涼風の右目に涙が流れる。ここで涼風は昔言われた事を思い出した。涼風が初めて料理をした時の事。
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「料理って楽しい?」
幼い頃の涼風はキッチンに立っているお手伝いの田原さんに質問する。
「楽しいよ。私は元々料理が好きだったんだ。
でも、1人より2人の方が料理は楽しいよ」
「それじゃあ、私が料理手伝ったら嬉しい?」
「もちろん!一緒にする?」
「してみる」
「それじゃあ、まずこの野菜を洗ってくれるかな?」
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涼風は涙を拭ってニッコリと笑う。その笑顔に波原は目を奪われる。今まで見た事のない心からの笑顔に見えた。これに目を奪われない人はいないだろう。
「ありがとう。それじゃあ一緒に料理しよう!
湊!」
波原は違和感を覚えた。今までと呼び方が明らかに違っている。
「今、『湊』って呼んだ?」
「え?気のせいじゃない〜」
「・・・そっか気のせいか」
「それじゃあキッチン行こ!エプロンは私の予備を貸してあげる」
涼風は波原が掴んだ手を掴み返して、キッチンへ連れて行った。
涼風はキッチンに掛けてあるもう一つのエプロンを波原に渡す。
「あの〜、これは涼風が着るべきでは?」
涼風と同じ水色のエプロンだが、所々にハートマークが刺繍されていた。
「いや、これは波原が着るべき!」
涼風は無理矢理、エプロンを被せる。
「後ろ結んであげるね〜」
波原の背中に周り、エプロンの紐を丁寧に結ぶ。
「可愛いね〜」
「すごく恥ずかしい」
流石に恥ずかしくて、顔が赤くなる。するとシャッター音がなり響いた。
「うんうん。これは永久保存だ」
「おい、何撮ってんだよ!」
「そうだ!ついでに一緒に撮ろう!」
エプロンを着た涼風は波原の隣に立って自撮りの体勢になる。
「ちょっと遠いな〜」
涼風はどんどん波原に近づいて、最終的に肩と肩が触れ合う。
「波原もピースして。はいチーズ!」
言われるがままにピースをする。涼風は写真を確認する。
「波原、顔赤いよ〜」
「こんなエプロン着てるんだから、恥ずかしいよ」
「後で送っとくよ。あ!他の人に見せちゃ行けないからね」
「まず、送る人がいない。あとそっちこそ見せないで!」
「分かってるよ」「こんなの他の人に見せられないよ・・・」
涼風はボソッと呟く。
「何か言ったか?」
「何もないよ!それじゃあオムライスリベンジだ〜!」
元気のいい声がキッチンに響いた。
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