第33話 ライブ後

ライブが終わり、上の喫茶店に集まる事になった。席に座り、それぞれ飲み物を注文した。


「どうよ、私の演奏は〜」


ライブの時とは違い、いつも通りの黒咲先輩に戻っている。


「紅音先輩かっこよかったです」

「だよねだよね〜」

「でも、今の姿からは想像出来ないです」


黒咲先輩は机に伏せている。ライブ時のカッコいい姿の面影はどこにもない。


すると星乃胡桃はストローでジュースを飲むと黒咲先輩に言う。


「紅音、後輩の前でしょ。もっとしっかりしないと」

「でも〜、バイト先でもこんなんだよ〜」

「え、あかねっち先輩の威厳ゼロじゃん」


瀧月るなにも指摘され、黒咲先輩の肩身が狭くなる。


「湊くん〜」

「・・・ギャップがあっていいと思いますよ」


少し詰まりつつ、何とか返答する。すると黒咲先輩は素直に喜ぶ。


「ありがとう〜湊くん」

「いや、どう考えてもお世辞じゃん」

「え?湊くん?」

「お、お世辞じゃないですよ」


波原は懸命に否定した。その後も色々と話をしたがその間波原は中々上手く話す事ができなかった。

初めて話す人達に大人数での会話。更に周りは女の子だけ。ただでさえ話すのが苦手なのに、異性と話すのはとても緊張する。


「すみません。トイレ行って来ます」


波原は逃げるようにトイレへ向かった。深呼吸して一回落ち着く。その後ゆっくりとトイレを後にする。扉を開けた瞬間女子トイレの扉も開く。


「あ、後輩くん」

「瀧月さん。後輩くんって何ですか?」

「まぁ〜、親しみを込めて?」

「?」


トイレからでて、洗面台の前で話す。


「楽しかった?」


瀧月るなは細い廊下の反対の壁にいる波原に聞く。


「楽しかったです。演奏も上手でした」

「ありがとう、でも言いたいのは喫茶店で話してた時の事」


見透かされたように質問される。本当に話すか悩んだが、いつの間にか口が開いている。


「僕、多人数で話す事がほとんどなかったので、中々話せないんですよ。少人数だと、結構話せるんですけど」

「わかる。私も大人数で話すの苦手。中々話に割り込めない」

「わかります。声被ったら気まずいですよね」

「私達、意外と似たもの同士かも」


長い青髪を耳に掛け直しながら笑う。


「戻ろっか。逃げてちゃダメだよね」

「そうですね。戻りましょう」


机に戻ると、黒咲先輩は机に伏せて寝ていた。

帰ってきた事に気付いた星乃胡桃は手を振っている。


「お帰り〜、紅音が寝ちゃったからそろそろ解散の流れかな」

「ん。私も疲れたから家帰って寝たい」

「みんな自由人だな〜」

「それじゃあ私達も帰ります。飲み物代置いときますね」

「いや、私が出すよ。せっかく来てくれたんだし」


星乃胡桃が言うと、伝票を手に取る。


「ありがとう。私の分も奢ってくれて」

「あんたは自分で払いな」


滝月るなも甘えようとしたが、断られる。


「ありがとうございます僕の分まで」

「いいのいいの。またライブ見に来てね」


挨拶をした後解散した。外はもう真っ暗になっていた。

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