第36話 誤解と感謝
土曜日になり、集合時間に公園に向かう。5月も終盤に近づき、徐々に夏が近づいてくる。
公園に着くと、いつものベンチに座っている涼風の姿が見える。
「時間通りだね」
「人間として時間は守るよ」
涼風はいつもの明るい表情ではなく、少し暗く怒り気味のように見える。
そのまま波原の家に向かって歩き出した。何故かジ〜と見られ、波原が涼風の方を見るとすぐに目線を外される。話す事もなく、波原の家に到着する。
「着いたよ、ここの12階」
「うん」
全13階建てのマンションに到着する。そのままエレベーターに乗って扉の前まで行く。
「どうぞ」
「お、お邪魔します」
家に入り、そのまま涼風にはリビングに腰掛けてもらう。波原がコップにお茶を入れてテーブルに置く。
「ねぇ、波原ちょっと座って」
「は、はい」
涼風の言葉に波原は緊張する。何かしてしまったのではないかと考えるが波原は思い当たる節がない。
「昨日の放課後会っていた女の子誰?」
「え?」
コップに手を当て、口をまた開く。
「昨日、校門で女の子と会ってたじゃん」
「あ〜、朝宮の事?」
「朝宮?」
「僕の幼馴染」
「へぇ〜、それで付き合ってるんだ?」
「いやいや、付き合ってないよ。てか、朝宮に彼氏いるよ」
「え?」
キョトンとした表情で波原を見る。
「じゃあなんで、一緒に帰ってたの?」
「あ〜、えっとそれは・・・」
内容を話すとプレゼントの事がバレてしまう為、言葉が詰まる。
「もしかして、私に話せない事でもあるの?」
顔を膨らませて、ジーと見つめてくる。このままだと、話がこじれてきてややこしくなる予感がした。波原は帰りに渡そうと思っていたプレゼントを今渡す事にした。
「プレゼント選び手伝ってもらってたんだよ」
「へぇ〜、誰のプレゼント?」
「涼風の」
「・・・・・・⁉︎」
涼風は驚きの言葉にビックリする。
「勉強沢山教えて貰って感謝してるし、学年順位も8位でしょ。勉強頑張ったんだからお祝いしたくて・・・。ごめん、身勝手にプレゼントなんか選んで。」
「いやいや、そんな事ないよ。こちらこそ無愛想にズカズカと聞いてごめん。プレゼント、とても嬉しいよ」
涼風はプレゼントの中身を確認する。中からは、ステンレス製の白色のマグカップが出てくる。マグカップにはおしゃれなデザインも入っている。
「とてもいい!ありがとう〜」
「気に入ってくれたら何より」
「私も波原にプレゼント用意しとけばよかったな〜」
「これは僕の自己満足みたいな所もあるし、クラスの人達が涼風の努力を『天才』の一言で片付けてたのが気に食わなくて・・・」
再び、波原の発言で涼風は驚く。そして嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ふ、ふ〜ん。私の為にここまでしてくれてたんだ。確かに私の努力を『天才』で終わらされたら嫌だな〜」
涼風はマグカップの縁を手でなぞると、丁寧に元の箱に戻す。
「ありがとう、大切にするね」
「うん」
袋にマグカップを入れて涼風はカバンの横に置く。涼風はいつもの調子に戻っている。
「あ!今度私にプレゼント選ぶ時は私も連れて行く事!」
「それじゃ、プレゼントの意味ないじゃん」
「いやいや、私の為にプレゼントを選んでいる波原を見たいんだよ」
波原は少し恥ずかしくなり、そのまま視線を下に逸らす。
「次のテストで順位8位以上なら何かプレゼントしよかな?後、勉強教えてください」
「後半が本音だな〜。いいよ、私が教えてあげる」
涼風は、手を上に伸ばしてグ〜と伸びる。
「テスト明けだし、今日は沢山ゲームするぞ〜!まずは何からする?」
「やりたいって言っていた、PCゲームする?」
「いきなり本命来た〜!波原の頭ぶち抜いてやるぜ!」
「僕に勝つなんて100年早いって教えてあげるよ」
「おや、テンション高いね」
「僕、ゲームになるとテンション上がる人だから」
「それじゃあ、普段と違う波原が見れるって訳だ。楽しみ。」
涼風はまた笑みをこぼした。
「なんか、怖いな。写真には気をつけよう」
「撮らないよ撮らないよ〜」
「ならそのスマホはポケットに入れといて」
スッとスマホを隠すが、バレバレだった。涼風は大人しくポケットにスマホを入れた。
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