第16話 思い出

海のように感じるほど大きい、日本最大級の湖。それを眺めながら当時5歳の涼風は砂浜に三角座りをしてぼ〜と眺めていた。時間は夕方に刺さりかかろうとしていて小さな波が定期的にリズムを刻み、草っ原は風に揺らされている。


「ねぇ、こんな所で何してるの?」


そんな時に1人の男の子が話しかけてきた。


「ただ、湖を眺めてるだけ」

「何言ってるの?海だよ!」


その男の子はカラッとした笑顔で言う。本当にここを海と思っているようだ。


「知らないの?ここって日本一大きい湖」

「へぇ〜、そんなんだ!物知りなんだね」


男の子は涼風の隣に座る。


「もうすぐ、暗くなるよ。家族は?」

「私は家族と来てない、お手伝いさんと一緒に来た」

「お手伝いさん!もしかしてどこかの国のお姫様?」

「そんなんじゃない、ただちょっと家が裕福なだけ」


表情変えない涼風を純粋な目で見つめる男の子

それに嫌気が刺したのか、涼風は立ち上がってその場を去ろうとする。


「ねぇ、どこ行くの?」

「自分のテントに戻ろうと思ったの」

「僕のテント知らない?」

「・・・君、迷子だったの」


流石の涼風もその時ほっとくのは不味いと思い一緒に探してあげる事にした。


「君、どっちから来た?」

「う〜ん?こっちかな?」


男の子の曖昧な記憶を頼りに男の子のテントを探す。30分が過ぎたが見つからず、太陽も完全に落ちた。


「ねぇ、ここどこ?」

「もう私にもわからないよ」


これ以上歩き回るのは危険な為近くの木製のベンチに腰掛けた。


「ねぇ、ねぇ見て!お星様綺麗だよ〜」


涼風も空を見上げた。そこには満点の星空が広がっていた。今日は7月7日の為天の川も見える。


「そうだね。星なんて久しぶりに見た」

「お姉ちゃん、やっと笑った!」

「え?」


涼風は手をほおに当てる。口角が上がってるのがわかる。


「そうね、それにしても急なお姉ちゃん呼びは何?」

「だって僕よりしっかりしてるもん」


そのまま2人でじっと星空を眺めていた。

しかしそんなに時は長くも無くすぐに終わりを迎えた。


「あー!やっと見つけた!どこ行ってたの?」 

「あ、田原さん。ちょうどいい所に」

「ちょうどいい所じゃない!それでその子は?」


お手伝いさんの田原さんはその男の子を指す。


「迷子の子、一緒に家族探してた」

「それで?」

「私も迷子」

「はぁ〜。手助けはいいけど程々にね。何かあったら私は奥さんに何されるか・・・」

「私に何かあってもあの人はどうとも思わないよ」


ボソッと吐いた涼風の言葉に田原さんは気づかず先の事を考える。


「とりあえずその子はキャンプの受付の方に連れて行こう」

「わかった」


ベンチから立ち上がり涼風は手を出す。


「家族を探しに行くよ」

「うん!お姉ちゃん」


男の子は元気に立ち上がり手を掴む。


「すっかりお姉ちゃんだね」

「田原さんうるさい」


小さい手で田原の足を小突く。


男の子をキャンプのロビーまで連れて行き、事情を説明した。そしたら放送してくれる事になった。放送終了後直後、受付に電話が入り親が見つかった。


「今からここに家族が迎えに来てくれるって」

「そうなの!お姉ちゃんありがとう」


男の子はポケットを探り1つの物を取り出した。


「これ、お礼。僕は使わないから」


手のひらには星型の付いたヘアゴムがあった。

涼風はそれを手に取り後ろで結ぶ。


「ありがとう。似合ってる?」

「うん!とっても可愛い!」


涼風は急な可愛いと言う褒め言葉に顔を赤く染める。


「あ、ありがとう」


小さな声で返すがその言葉は男の子に聞こえているか分からない。


「私達もそろそろ戻るよ」

「わかった」


田原さんがそう言ったので男の子に別れを告げる。


「それじゃあ私行くね。ヘアゴムありがとう」

「うん!またどこかで会おうね〜!!」


受付を出て行くまで男の子は笑顔でずっと手を振っていた。私も手を振り返しその場を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


朝の光が目に入る。しつこくなるアラームを止め時間を確認する。月曜日の6時30分。新しい1週間の始まりだ。


「懐かしい夢だったな〜」


涼風は大きく伸びをして立ち上がる。そして机の上の収納を開けて星型の付いたヘアゴムを取り出す。


「あの子、今何してるんだろう?」

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