第9話 気遣い魔王、森で狩る
「いや、ちゃんと感謝してるぞ、リリス」
なにか謝意が口にしづらいのは気のせいか。
それはともかく、カードのおかげで昨日と比べて、明らかに強くなった感じがする。
そうだ、メインとなるリリスのカードにはアビリティスロットが『6』もあるので、ゴブリンのカードを空きスロットに合成しておこう。
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フリアエ装備中)
【闇の聖女『グレモリィ』のアビリティカード】
ランク:Unique
固有アビリティ:あらゆる魔法攻撃を吸収し、一定時間我がものとする
固有アビリティ:HP20%以下になると、一度だけ威力130%となる一撃を放つことができる
固有アビリティ:空✗4
ステータスアビリティ:各ステータスを125%にし、闇属性を付与する
ステータスアビリティ:攻撃力+2%
ステータスアビリティ:空✗4
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これでゴブリンのカードは合成に使用されて消えるが、アビリティはリリスのメインカードの方に継承されて残ることになる。
「よし、今日も行くか」
というわけで他の魔物を探すべく、森の中を歩く。
今日は南側の森だ。
「お」
ここも相変わらずゴブリンが多かったが、少し奥に進むと、木の根元から、ウゥゥ……という唸り声みたいなものが聞こえてきた。
見るとその木だけ根元が紫色に変色しており、人間の腰ほどまでの高さがある毒々しいキノコが3つ並んでいる。
見る間にも、にゅっ、とそのキノコが帽子を己に向けてくる。
横に転がって避けると、今までいた場所に白い粉状のものが舞っていた。
『ユメキノコ』という魔物である。
その場から移動はできないものの、待ち受けて眠りの粉で眠らせ、食する肉食の植物である。
暗くじめじめした場所に生え、視界が悪い相手に不意打ちをしてくる初見殺し。
だが、不意打ちさえもらわなければ、こいつはその場から動けないので、なんてことのないザコである。
「こいつは【Normal】ランクだな」
近づかぬが無難なので、倒したゴブリンから貰い受けた貧相な弓を構える。
「我こそは魔王なるぞ」
「………」
キノコは返事の代わりに粉を吹きかけてきた。
「おのれ」
軽く青筋を立てて、矢を放つ。
矢は己の闇属性のせいで黒い靄をまとい、飛んでいく。
「よし」
熟練度だけはしっかりしているので、矢は狙った場所を正確に射抜いた。
プシュー、と胞子みたいなものを撒き散らしてしぼむ。
あっさりユメキノコ3体を討伐した。
カードは出なかったが、ドロップでなにげに人間が使うお金を少々ゲット。
こいつ、以前に人を襲ってたんだな。
そしてこいつは調合素材になるはずなので、萎んで手のひらサイズになったキノコを摘み、懐に入れる。
ユメキノコは群生するので、付近にたくさん生えていた。
こいつが生えているエリアは他の魔物が出づらいので、ある意味安心でもある。
矢は6本しかないが、拾って放って、拾って放ってを繰り返し、ユメキノコを乱獲した。
「よしきた」
83体目でアビリティカードをゲット。
キノコが勢いよく粉を吹き出している絵が描かれている。
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【ユメキノコのアビリティカード】
ランク:Normal
固有アビリティ:相手の命中率を3%低下させる
ステータスアビリティ:精神+2%
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「やはりNormalか」
精神は魔法防御に関係するステータスだ。
新しい能力なので、こいつもリリスのカードに合成しておこう。
消すのはいつでもできるしな。
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フリアエ装備中
【闇の聖女リリス ソロモン七十二柱『グレモリィ』のアビリティカード】
ランク:Unique
固有アビリティ:あらゆる魔法攻撃を吸収し、一定時間我がものとする
固有アビリティ:HP20%以下になると、一度だけ威力130%となる一撃を放つことができる
固有アビリティ:相手の命中率を3%低下させる
固有アビリティ:空✗3
ステータスアビリティ:各ステータスを125%にし、闇属性を付与する
ステータスアビリティ:攻撃力+2%
ステータスアビリティ:精神+2%
ステータスアビリティ:空✗3
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アビリティカードは売買することができるので、高価そうなカードは合成せずに取引にするつもりでいる。
値段はまちまちで、同じNormalでも汎用性があるものは高くなる。
セフィーロ兄が以前「ゴブリンのアビリティカードが5000イェンで売れたと喜んでいたので、これもそれくらいの値にはなるだろう。
ちなみに1000イェン(¥)で大人ひとりが贅沢せず一日に暮らせる金額だそうだ。
貧困貴族のギューゼルバーン家は切り詰めた生活なので、6人一家で一日¥500くらいで暮らしている。
だから昨晩はみんな、ユキナが置き土産したことになったウサギ肉を塩漬けにしながら、たいそう喜んでいた。
さて、雑談はよしとして、そろそろ進むか。
「いっぱい生えてるな、おい」
もうエリアは抜けたかなと思ったが、甘かった。
南側はキノコランドのようだ。
「まあいいか」
レベル上げだと思って、ひたすら狩り続けた。
魔法も使わない、矢も回収できるのでコスト0で狩れる。
そしてたまにドロップでお金も出るし、カードも出るし、素材もキノコだけだがごっそりだ。
おいしいといえばおいしい。
というわけで、今日は日が暮れるまでここで狩りをした。
暗くなろうとも己は夜目が効くので狩り自体はできるのだが、今は家族が心配してくれるのでやめておく。
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<本日の収穫>
西部樹海産ユメキノコ 242本
お金 ¥1514
ユメキノコのアビリティカード(Normal) 1枚(合成したものとは別)
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◇◆◇◆◇◆◇
三日目。
今時期は早朝から午前いっぱい畑仕事の手伝いがあるので、森に入るのは午後2時くらいからである。
ちなみに【職業持ち】の場合は、時刻はステータス画面に表示されている。
さて、何もできないテルルのことである。
「午後は森へ行く」と言うと騒ぎになってしまうので、自室にいるふりをしてこっそり外に出る。
南の森で黙々とゴブリン、ユメキノコの排除をし、小一時間でレベル3になったので、もう少し奥に行ってみることにした。
HPは昨日より50%増えたから少し安心である。
「ふむ」
進むと、ゴブリンは相変わらず多いが、木々の密集度は低くなった。
一本一本が太く、大きくなってずっしりとしている。
何かいる、と思ってじっと目を凝らしていると、近くでもぞり、と動くもの。
「こいつか」
木のひとつが魔物だった。
トレントである。
動かぬふりをして通りすがった魔物を捉えて食う、キノコと同じ手口だ。
ここで流行ってるらしい。
「フォオォォ」
気づかれたと見るや、土から根を持ち上げ、なにかをこちらに放り投げる。
根の一部が剥がれ落ちたものとおもいきや、それはむくむくと形を成し始め、1メートルほどの人型になった。
ウッドゴーレムだ。
「案外に面白いな」
魔王ゆえに殆どの魔物の習性は知識としてあるが、トレントがこのように部下を生み出すとは知らなかった。
知っていたころより進化したのかもしれない。
「ふむ、こっちは弱いな」
殴ると、ウッドゴーレムはぽて、とあっさり倒れて消えた。
出現した意味が不明なくらいだが、まあいい、本体に行こう。
トレントは枝を腕のように振り回し、引き裂こうとしてくるが、動作は緩慢だった。
単調でフェイクのような行動もなく、レベル3でも問題なく躱せる。
いや、しつこいが、躱せるのはフリアエのステータス値が加算されているからなんだが。
弓で射掛けると、一応ダメージは通っているようだが、貧弱なのは否めない。
ゴブリンから奪った弓だからな。
しかたない。拳で行くか。
あー、剣が欲しい。
「ふんっ」
トレントの攻撃の合間に2、3発殴ってみるが、同じくこちらも貧弱なようだ。
仕方ないので、フリアエに頼み、〈
リリスのカードによって強化された魔法が襲いかかる。
ドゴォォォン!
黒焦げになって、横倒しになった。
「よかった、倒せる」
ホッと安堵。
まあかなりチートなやり方なのは、己もわかっている。
「さてさて」
倒したトレントから得られるものがないかと探る。
「ふむ」
トレントは様々な木が化け物になるが、こいつは折れた枝のところに黒い紋様があるから黒壇みたいな木のようだ。
切り出して焼けていない部分は木材に利用できないかなと思案したが、幹の中は残念ながら腐っていた。
トレントは長生きしすぎた木が魔物化することが多いので、これは仕方がない。
ドロップはお金¥286のみ。
だが経験点は良さそうなので、フリアエのMPが保つところまでトレントを狩ってみよう。
彼女も己と同じくレベル3になっているので、〈
というわけで、トレントを合計4体討伐し、後の時間はユメキノコを狩って終わった。
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<本日の収穫>
西部樹海産ユメキノコ 98本
¥1872
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