第20話 やはり魔法は使える



 西の空が赤く染まる夕暮れ時。

 夜鳥たちが針葉樹のてっぺんにとまり、やってくる夜を待っている。


 冒険者ギルドを出た僕は、公衆浴場で湯浴みを済ませた後、軽く食べ物を口にして、王都の南側にあるソウス草原に来てみた。


 ここは森の中とは違って見晴らしがよく、丘の上から眺めていれば魔物の位置や数を見て取ることができ、戦いやすい。


「……静かなる炎よ、猛けよ」


 狙いやすい位置で単独行動をしていた大きな蜘蛛に後ろからそっと近づき、魔法を唱える。


 ジャイアントスパイダー。

 たぶんこいつが、カノーラさんが蜘蛛と呼んでいた魔物だ。


 口から糸を吐き出し、相手を絡め取ろうとしてくる攻撃がある。

 レベルは20相当だけど、見える範囲ではこいつが一番弱い。


「〈炎の矢ファイアアロー〉」


 手に入れたワンドによる後押しもあって、炎の矢は先日のものより遥かに強化され、極太のランスとなって勢いよく駆け抜けた。


 ジャイアントスパイダーは振り返ることもできずにその胴を貫かれ、崩れ落ちてそのまま亡骸となる。


 何ら支障なし。

 イメージ通りの流れで倒すことができた。


「やっぱり唱えられる……」


 僕はワンドを握る右手を見つめた。


 今まで生きてきて、地下の書物に出会ってからは、魔法はいつも僕の隣にいた。

 何度も何度も成功し、目をつぶっていても放てるほどに練習したし、今でもできないイメージの方がわかないくらいだ。


仮の者ペルソナ』でも、やはり魔法を唱えられる。

 なにかこの職業に誤解があるとか、そんな感じなのかもしれない。


 同じように孤立している大蜘蛛を見つけ、再び魔法を詠唱する。

 僕が手にしている、最強の魔法。


一雷槍フラッシュスピア〉や〈轟雷ライトニング〉よりも強力な、雷系の魔法。


「――〈落雷ラムザ〉」


 ドオォン、と轟音が響き、大地が揺れた。

 空からまばゆい光が落ちたのだ。


 大蜘蛛は当然のように、跡形もなく消し飛んでいた。


「よし」


 昔、初めて唱えて大木を割った時よりも、威力は数段上がっている。

 これがあれば、このあたりの魔物は倒せる。



 ――――――――――――


 <本日の収穫> 


 蜘蛛の糸    4束


 ¥280



 ――――――――――――






 ◇◆◇◆◇◆◇




 木々の梢で、小鳥たちがさえずる朝。

 今日は時折小雨がぱらつく、曇りがちな空だ。


「〈炎の矢ファイアアロー〉」


 翌日も同じソウス草原で、朝からひたすら魔物を焼いていく。

 レベル22までは適正になるはずなので、ここで狩っていくつもりだ。


 日中は僕と同じようにこのエリアを狩り場にする人がいて競合するかも、と思ったけど、全くそんな心配はいらなかった。


 このレベル帯の人は、もうほとんどいないらしい。


 ドロップする素材も安いんだろうし。

「蜘蛛の糸」とか、¥10とかで売っていたもんね。


 ここらのアビリティカードも、¥800とか破格の安値で売られていた。


 ある程度大蜘蛛を倒し終わったら、次はレベル21のワイルドウォームに挑んだ。

 2メートルくらいの大きなミミズだ。


 近づきすぎると粘液をかけられて毒効果を受け、しばらく視界が霞んで見づらくなるが、それさえ気をつければ動きは遅めなので、怯えることはない。


「〈凍気の棺フリージング・コフィン〉」


 これは、『氷属性』の魔法。

 あたかも棺に入れたかのように敵を包む空気だけを冷やし、相手の動きを鈍らせるものだ。


 直接的にダメージを入れるわけではないため、魔法書での扱いは低めだ。

『用途が限られる上にもっと有効な魔法が多々存在する』として、このアウトローな魔法に批判的で、載せていない本もあるらしかった。


 だが、僕はつべこべ言わず、本にあったすべての魔法を片っ端から修めた。

 なにがどう役立つかわからないし、魔法をひとつひとつ手にしていくのはとてつもない幸せだったから。


 冷やされたミミズはどぅ、と音を立てて横倒しになり、戦うどころではなくなる。


 そう、この魔法はミミズなど皮膚呼吸をする魔物に著効する。

 体表を凍りつかせることで呼吸を妨げ、即死に近い効果を発揮するのだ。


 巨大なミミズだから、1分ともたない。


 よし、討伐成功。

 ワイルドウォームがドロップしたアイテムを拾う。


 この魔法、結構使い道があると思うんだけどな。

 まあ消費MPが多めだから、乱発はできないけど。


 次は蜂の群れが相手だ。

 殺人蜂キラービー、3体。


 こいつはレベル22。

 経験値が高めで、素材『蜂の巣』のドロップがあると、『大回復薬ハイ・ポーション』の素材になるので、それなりで売れる。


 もっと狩られてもいいと思うのだけど、毒状態にされるし、3体がまわりをうざったく飛ぶので近接、遠距離系職業のどちらにとっても、戦いづらいのだろう。


「〈必中の風刃去来ウィンド・ブーメラン〉」


 僕が唱えた魔法は【風属性】。

 文字通り、風の刃がブーメランとなって飛来し、直接ダメージを与える魔法だ。

 威力が弱めだけれど、ブーメランは周囲の敵の6体までを減衰することなく順に切り裂く。


 そして詠唱が少々長く、難しくなるけど、実はこの魔法には必中効果を追加することもできる。

 ページの枠外のコラムにおまけ的に書かれていたので、試しにやってみたら、本当にできた。


 この殺人蜂キラービーたちにはちょうどいい魔法だ。

 魔法を当てづらいこの三体でも、一度の詠唱であっさりワンパンできる。


 よし、討伐成功。

『蜂の巣』は出なかったけれど、ドロップを拾う。


「やっぱりレベル18にもなると、MPに余裕があるなぁ」


 大蜘蛛4体、大ミミズ1体、殺人蜂キラービー1集団を倒したところだが、MPはまだ3割しか減っていない。

 昔と違って、全然余裕だ。


 だがこれだけ格上を倒してもレベルが上がらないのは不思議。


 レベル20になるってとっても大変なんだな……。

 カノーラさんとか、あんなに若くみえるのにすんごく努力してきたってことだよな。


 うん、僕も頑張ろう。


 そうそう、気になっていたドライアド召喚をしてみたら、緑髪のすごくかわいい女の子が出てきて、隣に来て一緒に戦ってくれた。


 嬉しいのだけど、どっちかというとやられはしないかと気になって、僕の方が戦いに集中できない。


 倒されても復活するというのはわかるのだけど、やはりこんな子がやられる姿は見たくはないものだ。


 相手の動き方がわかってきたので、途中から蜂以外は手持ちの弓矢で戦い、MP消耗を抑える戦い方をすることで、狩りの効率はずいぶん上がった。



 ――――――――――――


 <本日の収穫> 


 蜘蛛の糸    34束

 蜂の蜜     43個

 蜂の巣      3個

 ミミズの体内石 12個


 ¥2080


 殺人蜂キラービーのアビリティカード(Normal)1枚


 ――――――――――――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る