第19話 定番のからまれはスルーします
「な、なんですか」
近くからじっと見られて、さすがに戸惑った。
「いい顔してるじゃん」
ちょっと興味湧いちゃった、とカノーラさんが僕をじっと見る。
「あのさ、普通はこんなこと訊かないんだけど……キミ、どうして冒険者になりたいの」
「幼なじみのためです」
即答した僕を見ながら、カノーラさんが、へぇぇ、という顔をした。
「女の子なんですけど、『四紋』に選ばれたんですよ」
さすがにこの言葉にはカノーラさんも驚いたようだ。
形の良い目が、ふんわりと見開かれた。
「びっくり。……もしかしてユキナさん?」
「あ、知ってるんですか」
まさか驚きで返されるとは思わなかった。
初対面の人がもう知ってるなんて。
「あは。今の王都はその話でもちきりよ。てか、魔王討伐が近々行われることの証なのだし」
カノーラさんはまた頬杖をつき、伏し目になりながら得意げに言った。
「でもあんな人と幼なじみとか、すごいね。聞けばかなりの腕前だそうじゃない」
「そうなんですか?」
「うんうん。だってさ、まだ磨かれてもいない原石なのに、腕試しで王国精鋭隊の剣師範代から三本あっさり取ってしまったって」
「うへぇ」
言葉にならない音が、僕の口から漏れた。
さすがユキナだなぁ。
でも、驚くことないか。
ユキナは小さい頃から剣の家庭教師をつけてもらって、日々頑張ってきたもんな。
まだまだ磨かれる余地はあるんだろうけど。
「あたしより若いのに。『四紋』に選ばれるだけのことはあるわ」
おまけにとんでもない美少女じゃん、と、カノーラさんは僕の顔を窺うように見る。
「……そうですよね」
赤面しながら言った僕を見て、カノーラさんはくすくすと笑った。
「ごめん、話が逸れちゃったわ。それで、キミはユキナさんのために冒険者になるのね」
カノーラさんが話を戻してくれる。
僕は頷いた。
「ユキナを死なせたくないから」
「……ふーん……」
カノーラさんが笑みを浮かべながら、また僕をじっと見ている。
「な、なんですか」
けっこうな美人のこの人に、この至近距離で見つめられると、さすがに……。
「キミ、考えることがマジでかっこいいよね」
「そ、そうですか?」
「だって『護衛隊』になりたいってことでしょ?」
「はい」
「それこそ身を挺して死ぬ仕事じゃん。魔王なんてバカツヨなんだから。それでもさ、キミは死を恐れずユキナさんの盾になりに行くってことでしょ」
「まぁ、そうなりますけど……」
いや、自分が死ぬとか、そこまで思考が及んでいなかっただけです。
「おい、カノーラぁ、まだ終わんねーのか! こっち手伝ってくれ」
入り口の方向からカノーラさんを呼ぶ声がした。
馬車が止まっており、なにやらギルドの建物への荷物搬入もあるらしい。
カノーラさんは慣れたことのようで「もう少し待って」と返すと、こちらに向き直った。
「ふふ、ごめん。随分余計な話ばかりしちゃったわ」
カノーラさんが思い出したように、鉛筆を僕に渡してくる。
「じゃあこの枠内を全部埋める感じで書いて。NGな仕事とかあったら、それも備考のとこに」
「あ、はい」
僕は言われた通りにサインする。
NGな仕事なんて思いつかないから、とりあえず空欄で。
「………」
あー、なんか顔上げづらい。
書いてる間、またカノーラさんは頬杖ついたまま、至近距離から僕の顔を見ている。
「見てもいい?」
書き終わったのを見てとり、カノーラさんが声をかけてくる。
「どうぞ」
僕は紙の向きを変え、カノーラさんに見せる。
「ふぅん。キミ、テルルくんって言うんだね」
「はい」
「ふぅん……」
カノーラさんが上の行から視線をゆっくりと滑らせていく。
「……えっ」
突然、カノーラさんは驚いたような声を上げると、その後に「ぷっ」と吹き出すように笑った。
「……あ」
だがすぐにその顔に、後悔の表情が浮かぶ。
「……ご、ごめ! 笑っちゃった」
カノーラさんが謝ってくる。
でも、僕はどこが可笑しかったのかわからない。
「ごめん!」
黙っている僕を、気分を害したと勘違いしたらしい。
カノーラさんが頭を下げ、本気で謝ってきた。
「いえ、でも、どこかおかしかったですか」
「……あのね」
「はい」
「その若さであんなカッコいいこと言うから、相当強いのかなって……テルルくん、レベル18なんだね」
「あ、はい」
「……本当に18? 108じゃなくて?」
「はい、18です」
頷くと、カノーラさんはひどく残念そうな顔になった。
「
「はい、ないかと」
属性を後天的に獲得する方法はない。
つまり、神に与えられた職業によって決まるのだ。
ちなみに、属性持ちかどうかはひと目でわかる。
【風の槍術士】、【水魔導師】など職業名にそれが含まれるからだ。
属性持ちは概して攻撃力が高く、冒険者たちの間では当然、ワンランク上の存在となる。こういった冒険者カーストが垣間見える場所では、それなりの敬意が払われるに違いない。
「テルルくん……」
「はい」
カノーラさんの表情はさっきまでとは180度変わり、失意に染まっていた。
「
「はい。レベル上げが足りないのはわかってます」
言われても仕方がない。
今まで、戦いと向き合ってこなかった自分が悪いのだから。
でもいくら笑われようと、自分は今からでも強くなってユキナを助けたいのだ。
「よく王都まで出てこれたわ。蜘蛛とか大丈夫だった?」
「街道を通ってきましたから」
「……そう。運が良かったわ」
カノーラさんは深くため息をついた。
「まずはレベル上げを頑張って。ユキナさんを助ける以前に、ここの依頼を受けるにはレベル20以上が必須よ」
「いつまでこいつの接客してんだよ、カノーラ」
そんな折、僕たちの横から不満げに声をかけてくる者がいた。
ジャラジャラとしたチェインメイルをまとい、薄緑色の髪を肩まで無造作に伸ばした、20代くらいの男だ。
その後ろには連れらしい二人の男がいる。
「ユース。な、なんでもないから」
カノーラさんは急に慌てた様子を見せて、手元を隠そうとする。
しかしユースと呼ばれた男は目ざとく見つけ、カノーラさんの手から紙を奪った。
「あっ、だめ」
カノーラさんは取り戻そうと手を伸ばすが、その手はユースの反対の手に握られただけに終わった。
「……ん? なんだこいつ。
ユースが、途端に大口を開けて笑う。
カノーラさんはばつが悪そうに、僕の顔をちらりと盗み見る。
「は?
「それたしか、剣は半端、魔法は使えない職業ですよねぇ」
ユースの後ろにいた男が、わざとらしく思い出すような素振りをしながら言った。
「しかもレベル18だとよ!」
「ぷぷっ。18っつったら、筋力40とかじゃん!」
ユースたち3人が「無理」と爆笑しながら、僕を見ている。
「ユース、もうやめて」
カノーラさんが耐えられない様子でカウンターから出てきて、僕たちの間に割り込む。
「………」
僕は眉をひそめていた。
うーん。そんなことないと思うんだけど。
だって魔法使えるし、筋力ももっとあるし。
まぁ、あえて教える必要はないか。
「おかげでいろいろわかりました。ありがとうございました」
僕はカノーラさんに深く頭を下げると、彼らに背を向けた。
「て、テルルくん……」
ひとまずレベルが足らないのは間違いないようだから、当面はレベル上げだな。
戦いから逃げていた自分が悪いんだし、尻を叩いてもらっただけでもここに来た意味はあるな。
――――――――――――――
著者より)
雑魚系ヘイトキャラが登場しましたが、ざまぁ(強め)への前フリです。
ここが最大ヘイトになりますので、どうぞ気にせずお読みくださると幸いです。
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