第22話 旧国立墓地へ
「『祝いの会』の冒険者参加枠は30名まででね。王国に貢献している証として、各地で悪さをしているウェアウルフを狩る必要があるの」
「ほうほう」
ウェアウルフか。
僕が住んでいた地区にはあまり出ない魔物だけど、魔物辞典に詳細が書いてあった。
レベルは確か42の【Common】クラスの魔物だ。
「倒したことないよね」
「はい、見たこともないです」
ウェアウルフは普段、森の中に潜み、夜になると民家に現れて畑を荒らしたり、人を襲ったりする。
その爪と牙を武器にする物理攻撃しかない魔物だけど、夜目が利き、必ず3体で群れるので、一人で出遭った時は注意を要する。
「それがあれば、参加できるんですね」
「参加希望者が多ければ抽選になるだろうけど、実際はそんな会に出たがる冒険者の人ってそう多くないと思うから、きっと大丈夫よ」
カノーラさんがウィンクする。
「わかりました。努力します」
情報ありがとうございます、と頭を下げる。
まぁ、ユキナに会えたら嬉しいけど、無理な背伸びをして僕が死んでは元も子もない。
そこで会えなかったら終わりというわけじゃないし。
ともかく、今の僕に適切な狩り場を見つけるのが先決だ。
「話変わりますけど、ひとつ訊いてもいいですか」
「なに」
「レベル25からの狩り場だと、どのあたりが適切でしょう」
「え、もうそんなに上がったの?」
カノーラさんが目を輝かせた。
「いえ、まだ19です。先々のために」
「なるほどね。それだと」
カノーラさんは僕を手近なテーブルに案内し、地図を書いて、丁寧に説明をしてくれた。
「ありがとうございました」
僕は感謝して地図を受け取ると、背を向け、そのままギルドを立ち去ろうとする。
「ま、待って! テルルくん」
そんな僕の背中に、慌てたような声がかかる。
「はい?」
「テルルくんのことだから、ウェアウルフの討伐証を取れるようにレベル上げするんでしょ?」
「そうですね」
「ならさ、ちょっとバイトしない?」
「……バイト?」
「うん。あたしたちと一緒に来るだけでいいの」
はて。
聞き間違いだろうか。
「カノーラさんたちと一緒に、と言いました?」
「うん。『エンゼルスカート』と。あたしが頼んであげる」
カノーラさんが、いつものようにウィンクする。
「無理ですよ。バイトどころか荷物にしかなりません」
『エンゼルスカート』はレベル80以上の猛者たちだ。
レベル19のひよっこは、ひたすら足手まといになるに違いない。
「大丈夫。戦わずにアイテムを拾ってくれるだけでいいし。あたしたちが守るし、安全は保証するから」
がっぽり儲けて、レベルも上がって一石二鳥よ、とカノーラさんが笑う。
「………」
僕はカノーラさんをじっと見る。
鈍感な僕でも、カノーラさんがレベル上げを手伝おうとしてくれている空気を感じ取ることができる。
「カノーラさん、どうしたんですか」
「なにが」
「僕を誘ってくれる理由がわからなくて」
ドロップを拾う役目など、誰でもできる。
そんな美味しい話、僕に降ってくること自体が変だ。
なぜ僕にそこまでしてくれるのだろう。
「……この間のお詫びよ」
カノーラさんが僕から目を逸らし、料亭側を眺める。
「お詫び?」
「……その……笑っちゃったでしょ、あたしも」
カノーラさんが目を泳がせ、言いづらそうにする。
「なにを?」
「……職業のこと。
カノーラさんが、そっと僕の顔を覗き見る。
「ごめんね、ホントは笑ったの、レベルじゃなくて職業のところだったの」
「いえ、気にしてないですよ」
確かにカノーラさんの友人たちに爆笑されたのはちょっと遺憾だったけど、カノーラさんのなんて、笑われたうちに入らない。
僕がそう言っても、カノーラさんは真顔のまま首を横に振った。
「人の職業を笑うとか、絶対に許されないことよ」
「だから、気にしてないですよ」
今の今まで、本当に忘れていたくらいだ。
「待ってて。みんなにもちゃんと土下座して謝らせるから」
カノーラさんは絶対させてやるから、と息巻いている。
「みんなって?」
「こないだのユースたち。ユースは一応、あたしの彼氏なんだ」
「ああ」
納得した僕を見て、カノーラさんは行く気になったと誤解したのか、にっこりと笑った。
「だからさ。明後日の朝にここで待ってるから。身支度して来てね」
話を終えようとしたカノーラさんを引き止める。
「そのお気持ちだけで十分ですよ」
ありがとうございます、と頭を下げた。
「……え? 行かないの?」
カノーラさんが驚き、とたんにやりきれない表情になる。
この人、根が優しいのだろう。
だから笑ったくらいのことを気遣ってくれてるんだろうな……。
全然いいのに。
「他の方を誘ってあげてください」
「ホントに心配いらないよ? それに、あたしたちが手伝った方が絶対早いし、楽だよ?」
「笑ったことはカノーラさんも忘れてください」
「ま、待ってテルルくん」
「ありがとうございました」
頭を下げて話を終わらせると、僕は冒険者ギルドを出た。
「て、テルルくん……」
カノーラさんの誘いが、美味しい話なのは間違いない。
だが自分の及ばぬ超高レベルの狩り場についていくということは、とりもなおさず自分の生死を他人任せにするということ。
どんなに大丈夫と言われても、それはできない。
それに、手早く強くなれたとしても、それでは戦いの場での自信なんて持てない。
生死を背負って地道に戦い抜くからこそ、自信になるのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「こっちだな……」
カノーラさんが書いてくれた地図を片手に、歩を進める。
武器が明日にできるけれど、そう遠くないので下見だけしておこうと、教えてもらったその日に、地図の新しい狩り場に向かってみた。
王都の南側にある広大な国立墓地を抜けると、様変わりした『旧国立墓地』があるという。
そこが目的の場所だ。
「あっ、あそこからかな」
整然と白い墓石が置かれ、澄んだ空気と落ち着いた雰囲気だった墓地を抜けていくと、空気は淀み、急に荒廃した光景になったのですぐにわかった。
旧国立墓地は、過去に行われた魔法実験の名残で様々な
「
あれだな。
前傾したまま歩いている、気味が悪い亡骸の魔物。
レベル25の
「……うわ、なんか、弱そう」
しかも正面だけしか見ないで歩く無警戒さ……。
あれでレベル25なの?
ここから届きそうなので矢だけ射てみよう、と僕は弓を構えて狙いを澄ます。
シュッ。
狙った頭部にぐさっと刺さり、
「………」
終了していた。
◇◆◇◆◇◆◇
3時間後。
「なんだこれ……」
もうレベル32のレイスまで倒しているのに、全然歯ごたえがない。
こいつらまとめて倒せるくらいの相手なんだけど。
なんでこんなに相手が弱く感じるんだろう。
そうしているうちに、レベルが上がった。
レベル20だ。
〈テルルが【斬撃3】、【
「おお、やった」
節目となるレベルまで来たのでスキルの能力が上がったようだ。
見てみよう。
【斬撃3】……攻撃力の180%の威力で敵を斬りつける
対象武器 剣
再使用時間 35秒
【
再使用時間 30秒
【斬撃】の攻撃力+20%、再使用時間が-5秒されている。
【
「うーん、これだけか」
レベル20の節目だから、なにかもうひとつくらい覚えるのかなと思ったけど。
ま、いっか。
でも高レベル相手に戦い抜くためには、やっぱり剣を持って【斬撃】を使えるようにしておいた方がいいよね。
そう考えられるのは、戦い慣れて、剣に対する心理的な抵抗が弱くなったのだろうけど。
などと考えていた時だった。
〈フリアエが〈
「……は?」
もうひとつ、音声が流れていた。
「フリ……アエ?」
フリアエって?
しかも、変な名前のスキルをたくさん覚えたように聞こえたんだけど……。
僕はステータス欄を開いてくまなく確認するが、そういった名前の項目はどこにもなかった。
「なんだったんだろう、今の……」
なにかの間違いだったのかな。
近くで狩りをしている人のアナウンスが聞こえちゃったとか……?
人はいないようだけど……。
「よくわからないなぁ……」
フリアエさんなんて、会ったこともないし。
――――――――――――
<本日の収穫>
死霊の魂のかけら 3個
月の粉 5個
¥2230
――――――――――――
~~~~~~~~~
【
ランク:Normal
固有アビリティ:
ステータスアビリティ:HP+2%
~~~~~~~~~
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