第23話 出来上がった剣
「待っておれ。期待に応えられる一品が出来上がったぞ」
翌日、『
まもなくして、店主は鞘に収められた剣を両方の手の上に載せ、戻ってきた。
「これだ」
「おお……」
銀色の鞘に包まれた、1.3メートルほどの長さの剣。
握りの下にある柄のところには、角と同じ色をした石が埋め込まれている。
「すごい迫力……」
仕舞われて安置されている状態ながらも、なにか重々しいものが感じられる。
角の持ち主の気配とでも言おうか。
そっとその鞘に触れてみると、静かに脈打つ波動が感じられる。
「鞘から抜いてみい」
「はい」
柄を握り、そっと鞘から抜き放つ。
「おお」
見惚れるほどの見事な剣だった。
黒い刀身の中に銀が散りばめられていて、さながら星空のように輝いている。
しかしなにより、第一印象はその軽さ。
「ちょっと振ってみてもいいですか」
「うむ。そこの広いところでやれ」
言われた奥のスペースで、剣を振ってみる。
大きな鏡が置かれていて、手に持った見た目もチェックできるようになっている。
「軽い……これ、ほんとに剣なのか」
驚くほどに取り回しがしやすそうだ。
「
「すごい……そうなんですね」
武器としての怖さを感じてしまうほどだ。
けれど、兼ね備える頼もしさは今まで敬遠していた気持ちをなくすに十分だった。
「それからな、その剣は予想通り、魔法の発動を助ける力も備わっておる」
「おお、ホントですか」
「うむ。ワンドは無用の長物となろう。なんなら置いていっても良いぞ」
店主は冗談まじりにそんなことも言う。
「一応持っておきます。これもお気に入りなので」
「そうかそうか……む?」
話しながら新しい剣を振り回していると、店主が急に険しい顔になる。
店主の視線は剣の刀身に向けられていた。
「どうしました?」
「剣が曇りよる……そなたもしや、【属性】持ちか?」
僕は首を横に振る。
「ないと思います。これって属性なんですか?」
僕は剣に纏う霧のようなものを指さしながら言った。
何歳から現れたとかではなく、初めて武器を持った時からずっとこれはあった。
その後、武器は全くと言っていいほど握らなかったので、忘れていたくらいだ。
「そう思うのだがな。武器を変えてもこれは消えんか?」
僕は頷いた。
「……でもこれといって特別な効果もないと思うんですが」
「ステータス欄やアビリティカードには属性が記載されておらぬか」
「ありません」
ふむ……と店主は軽く唸る。
「属性持ちは攻撃力が1.25倍になる。自分の攻撃がレベル以上に強いと思ったことはないか?」
「………」
2つ目の問いかけに、僕は言葉に詰まる。
それはなくはない。
格上の敵をかんたんに屠れてしまうのは、まさにそれだから。
でもたかが1.25倍になったところで、そんなに大きくは変わらないだろう。
属性ではなく、相手が
「思うところはあるのか」
店主がもう一度訊ねてくる。
「いえ、うぬぼれなだけだと思います」
「まあ体感ではわからぬか……。ワシも長いこと生きておるが、このもやりとした形は初めて見る」
店主は腕を組み、右手で顎をさする。
「ところでお前さん、職業は?」
「
「……ほう。奇遇だな」
ドワーフの店主は眉間にシワを寄せながら、僕の握る剣をじっと見ている。
「店主さん、
「今はこんな暮らしをしているが、ワシは元冒険者だ」
店主さんが咳払いをしながら、それとなく胸を張った。
「おお」
そうだったのか。
じゃあ冒険者ギルドに行かずとも、この人にいろいろ聞けばよかったのかな。
「やっぱり弱い職業なんですよね」
「
店主は首をひねる。
言わんとしていることはすぐにわかった。
「はい。僕、魔法が使えるんです」
店主は頷いた。
「
店主さんは
「そうなんですね」
「妻の剣には、そんなまとわりつくような霧はなかった。
ふーむ、と唸りながらも、知り合いに訊いておこうということでその話は終わった。
「あ、もうひとついいですか」
今まで使っていた『騎士団の弓』の耐久度が98/100と限界に達しつつあったので、店主に相談してみた。
「ふむ」
店主は弓を受け取ると、専用の片目眼鏡をかけ、細部を観察する。
「ひとまずはこれで使い物になろう」
痛みつつあった箇所に黒い油のような薬を塗り、硬い布を巻き付けて補強してくれた。
「ありがとうございます」
さすが匠だ。
5分とかからなかった処置で、耐久度が58/100まで減った。
「もし見つかれば、樫の木の素材を持ってこい。弓でも魔法を使えるものを格安で作ってやろう」
「はい。その時はよろしくおねがいします!」
僕は深く頭を下げた。
今の僕にとっては、本当にありがたい人だ。
王都に来てすぐにこの人に会えて良かった、とつくづく思う。
◇◆◇◆◇◆◇
あの後、僕は旧国立墓地に向かい、昨日同様に
この剣のおかげで一層歯ごたえのない敵になっていたけど、慣らしにはなったから、まあよしとしようか。
ちなみにレベルはふたつ上がって、レベル22。
一日に2も上がるんだから、今までのことを考えると悪くない。
あ、そうそう。
~~~~~~~~~
【
ランク:Common
固有アビリティ:
固有アビリティ:
ステータスアビリティ:精神+5%
ステータスアビリティ:
~~~~~~~~~
得られた能力は限定的だが、なかなかいい。
ひとまず、ナッコがユメキノコのカードだったから、取り替えて装備させておこう。
「ごちそうさまでした」
「まいどさま」
泊まっている宿で夕食を頂戴し、部屋に戻ると、木製のベッドの上で横になる。
「うーん、明日の狩り場はどうしよう……」
頭の下で手を組んで、蝶型のシミの付いた天井を眺めながら、思案する。
まあ楽勝だけど、レベル32の敵まで狩れるから、もう少しあそこでがんばろうかな。
数日やれば、あとひとつかふたつくらいは上げられそうな気がする。
何度も言うけど、ユキナに会いたいからと無理な狩り場に急ぐことはしない。
頑張れる範囲でレベルを上げて、それでもし、ウェアウルフを狩れそうだったら……考えようか……な……。
「むにゃ……」
MPを使い切って帰ってきたせいか、横になったらすぐに眠気が襲ってきた。
――――――――――――
<本日の収穫>
死霊の魂のかけら 18個
月の粉 32個
¥8440
――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます