第49話 迷宮攻略と帰環①

40階層


水の迷宮と同様、祭壇のようなものが置かれたそこには、茶髪の髪に茶色の神官服を身に纏った少女がいた。


「よく……訪れた。

私はアストナ、アクアニアスより話は聞いてる、王家の人」


か細い声で喋る、物静かな印象の少女だった。


「なんか、ニーシェとキャラ被ってね?」


リースレットが指摘すると


「違う……わたし、あんなに喋らない」


ニーシェが否定するが、ライズもキャラ被ってるなぁ、と思った。


「私はダンジョンボス、このダンジョン……そして、秘宝を守る存在……でも、面倒だから秘宝はあげる」


アストナは祭壇から秘宝を取り出すと、ライズの手を取ってブレスレットに嵌めた。


「お父さんを倒すって、決めたんだね」


「あ、あぁ、うん。

君達にとっては不本意なんだろうけど」


「確かに、火や、風や、闇はお父さんに懐いてたから。

たぶん、戦わなきゃ無理。

私と、アクアニアス、アナスタシアは、お母さん子だったから」


「お母さんって……」


「優しい人、お母さんがいなくなって、お父さんは変わっちゃったから」


アストナの無表情な顔立ちに、微か悲しみが宿る。


「お父さんを、止めて。

あの人の復讐はもう終わった。

現代に生きる人にまで、過ちの償いをさせるのは間違ってる」


その時、床の魔法陣が光った。


「……でも、ゼオを殺したら、君達は……」


「良いの、そもそも、200年前に生まれた人間が今まで生きてられるのは、おかしい……よね?」


「っ、それって……」


「私達は時の流れに取り残された……本来生きる事を許されない、時の罪人だから」


それ以上の言葉はなかった。


ライズ達は、光の奔流に飲み込まれるのだった。




「お兄ちゃん!」


光が晴れた途端、ライズはティナに抱きつかれた。


「ちょ、ティナ!?なんで城に!?」


確かにティナは聖女として神殿で暮らす事となったはずだ。


いかに王城といえ、そう簡単に抜け出せるとは……


「お兄ちゃんの事、早く迎えたくて。

急いで馬車を用意してもらって、飛んで来たの」


「そっか……ただいま、ティナ、少し背伸びた?」


「うん、お兄ちゃん聞いて、私、神殿で今勉強教えて貰ってて、難しい本もちょっとずつ読めるように……」


「ティナシア嬢、積もる話はあるだろうけど今は他に話すべき事があるだろう?」


後ろからレオンがやって来る。


ティナはしゅんとなり、


「あ、ごめんなさい、久々過ぎて、嬉しくて」


「いや、構わないよ。

私もティナに出迎えてくれた事は嬉しかったよ」


ライズがティナの頭をポンポンと叩きながら言うと、ティナは顔を赤くさせた。


それから、ティナは話をレオンに譲るという意思なのか横へ引いた。


そして


「あぁ……!ライズ!会いたかったよぉ!」


ティナ同様、抱きついて来た。


「くんくん、スーハー、あぁ、ライズの匂いがする……僕の、僕の中に、ライズの一部が……」


「再会早々語弊を招く言い回ししないでください。

あと、シャワーは浴びていたとはいえずっとダンジョンに籠もっていましたしかなり臭うと思うんですが……」


「ぜぇ、はぁ、ライズの匂いならどれだけ強くてもむしろウェルカム!

何なら興奮して絶頂する!」


(あ、ダメだ、この人)


しばらく見ない間に変態レベルを上げてしまった王太子に頭を抱えながら、引き剥がした。


「と、言うわけでライズ成分も補充出来たところで本題に入って行こうかな。

ライズ以外の皆もご苦労だったね、ぶっちゃけ臭いから城の浴場にでも後で浸かってね」


「お主、ライズとその他で扱い雑過ぎだろう……」


「むぅ……拙者、身体の洗浄は常にしているでござるのに……」


アリスティアは呆れ、寿は真に受けて自分の身体の臭い嗅ぐ。


「まず、こうしてダンジョンを攻略してくれた事、感謝する。

これでゼオの呪い解除に一歩近付いたからね」


「まー、あたしという名のベテラン冒険者がいた訳だしねー!

そんで、今回の恩赦は?

あたしこれでダンジョン2つもクリアしちゃったよ?」


リースレットが期待満々に言い出す。


レオンは溜息を吐いて


「あの反省も悔い改めもない状況でなぜ恩赦を出すと?

もう一度出直してこい」


「えぇ!あたし頑張ったのにー!」


ブーブー不満を垂れながらも、さほど残念そうには見えなかった。


「今回、恩赦を与える人間はすでに決めている。

ニーシェ・ドワルノ」


「いや」


レオンに名を呼ばれたニーシェは、即答で首を横に振った。


「恩赦貰ったらダンジョンで暮らせない。

だから、いや」


なんとも、らしすぎる理由で、ニーシェは首を横に振った。


レオンは息を吐き


「かける言葉を間違えたかな?

ニーシェ、君に恩赦を与えないわけにはいかないんだよ、君の容疑である宝石怪盗の疑惑が、解消されたから」


「……それ、どういう事?」


「国側で逮捕した宝石怪盗は3人だがな……実は、残りの行方を掴めなかった3人が突如自首をして来た」


「はぁ!?」


ライズは驚いた。


寿だけはキョトンとしていたが、他のパーティメンバーは目を見開いている。


「あの、残りの宝石怪盗って、シャインジュエルとダークジュエル、アクアジュエルですよね!?

変装技術も逃げ足も速くて誰も捕まえられなかったあの……」


「あぁ、そいつらが揃って自首したんだ。

だから、ニーシェの宝石怪盗疑惑は晴れた」


「くっ、宝石怪盗……余計な事を……!」


ニーシェは項垂れ、床を叩く。


(この子どんだけ土のダンジョン気に入ってたんだよ……)


「でも、なんでいきなりそんな事に?」


「あぁ……それなんだが……どうやら、彼らもダンプロの放送を見ていたみたいでね。

……それで、出演したいと言って来た」


「はぁ!?」


「「こんな最高のエンターテインメントに出演出来ないなんて歯痒さしか感じ得ない!僕が出演すれば、視聴者にもっと素敵なショーを見せる事が出来るのに!」……と」


「うっわぁ、怪盗って随分と奇特な思考してるねぇ。

あたしも目立つ事のは嫌いじゃないけど、流石に共感出来ないわぁ」


リースレットが呆れた。


「そして、父はそれを了承した」


「なぜ!?」


「金になりそうだから、と」


「あぁ……なるほど……」


ライズは納得してしまった。


あの国王もとい実父なら絶対に言う、と。


「でも確か、シャインジュエルに関しては男性じゃ……」


「まぁ、すでにライズの事が国民に知れているしな。

シャインジュエルはかなりの美形だし、怪盗という犯罪者の身でありながら市民人気も高い。

今まで後回しにしていた女性視聴者の分野を本格的に開拓出来る、と父上は踏んだらしい」


「もう趣旨が滅茶苦茶ですね……」


(美少女だらけのダンジョン攻略はどうしたんだろう)


「というわけだから、ニーシェ・ドワルノ、素直に恩赦を受けてくれ、君は自由の身となった」


「むぅぅ……」


唇を尖らせるニーシェはどう見ても恩赦を受けた犯罪者のものではなかった。


「あ、そうそう、殿下ー、あたし、1つ報告したい言葉あるんだけど」


「ん、何?」


リースレットは挙手したままで



「アストナの言ってた大魔女ベテルだけどさぁ、あたしのご先祖様と同じ名前なんだよねぇ」

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