第24話 王家のスキャンダラスなネタバラシ③

とんでもないカミングアウトだった。


「私と、アリスティア以外……?

あの、それってもしかしてアリスティアも……」


「うむ、アリスティアは私の姪に当たる」


「でも、彼女は魔王の娘なんじゃ……」


「いわゆるハーフという奴だな、我は魔族の王である父と、父が王国より攫った母の間に産まれたのだ」


(スキャンダラス過ぎる……)


「元々、私は魔族というだけで罪もない子供を罰するなど反対だったんだ。

しかし、当時は魔族への強い当たりもあったし、魔王の死後、その風圧はアリスティアへ向かっていた。

そこで、彼女を保護する為に、大罪人として幽閉する事にした」


(幽閉された罪人の割に対応がVIP扱いだったのはそのせいか……)


「まさかライズとアリスティアがパーティを組む事までは想像出来なかったがな。

仮に別パーティだとしても、どちらかが攻略出来たところで片方にも恩赦を出して開放する予定だった」


「何とも行き当たりばったりだな、それで我やライズが途中で倒れたらどうするつもりだった?」


「そこは心配したが、エーデルガルトとフライアに尋ねたところ、「あいつなら平気だろ」と言われたのでな」


「はぁ〜、あの師匠は、何とも無茶苦茶な……」


フライアとは、この国の騎士団長であり、血塗れの大鬼ブラッディ・オーガの異名を持つ人物だ。


アリスティアの剣術の師匠でもある。


「ドラゴン戦の時など、「あんなトカゲ1匹倒せないなんて情けねぇ、帰ったら鍛え直してやる」と憤慨していたな」


「我は腹痛で剣を握れる状態ではないと言っておいてくれ」


顔を引きつらせながら逃げようとする姿勢が、彼女と師匠との関係性を物語っているように見えた。


「というかさ、ライズとアリスティアだけ救い上げる予定だったって事は、もしかしてあたしらガチ罪人組は……」


「安心しろ、こちとら無理ゲーを押し付けた自覚はあるが、攻略まで行き着いたのは確かなのだ。

考えるぐらいはしよう。

ティナシア・ヒーリンレイスはダンジョン内での素行も極めて良好だったし、コトブキ・マカベも問題行動は全くなかった。

検討の余地はあるだろう。

……だが、リースレット・エヴァンエテル、お前はダメだ」


と、途端にどこからか湧いて出た兵士がリースレットの脇をガシッと拘束する。


「えぇ!?ちょ、あたしだって頑張ったのにぃ!」


「とりあえず土の迷宮にでも放り込んでおけ!」


「ちょ、よりにもよって苦手属性!?

勘弁して〜!

せめて、せめて休ませてからにして〜!」


ズルズルと引き摺られ、リースレットは玉座の間から消えた。


「……それにしても、良いのか、王よ?

先程から、国民に知られては不都合な事ばかり話しているが。

我もライズも、カメラは装着したままなのだぞ?」


「あぁ、構わん、知っているだろう?

我が国は赤字だ。

何なら借金多すぎて破産してないのが不思議なぐらいに不味い。

犯罪者にダンジョン攻略させて、娯楽品として国民に売るだけでも借金返済の目処は立つが、それでも足りない。

魔物に襲われた町の復興とか魔物の被害に遭った国民への援助金とか各地で未だ暗躍する魔族の残党や盗賊団への対策費とか冒険者ギルドへの援助金とか災害による土砂崩れの後始末とか違法行為やりまくりの貴族共の内部調査とか……。

まぁ、借金を返せたとして、活動費には遠く及ばないわけだ。

というわけで、我々は売れるものなら何でも売る!

たとえば、我が家のスキャンダルだらけな家庭の事情とな!」


「そこを売り飛ばす王家って何!?」


ツッコむライズに国王は真顔で


「良いか、ライズよ、世の大半の人間はな、スキャンダルが大好きだ。

アイドルの恋愛とか既婚者の不倫とか隠し子疑惑とか難病の事実とか、そういうネタが大好きだ。

なら、私も売る!」


「ライズ、今すぐこのアホ王殺して僕が王位を代わりたいんだが、どう思う?」


「証拠に残るのでオススメしません」


遠回しに、証拠に残らなければ良いみたいな言い方をしてから


「あの、ところで、ダンジョンを巡らないとゼオの呪いは解けないのですよね?

それならなぜ、先程ダンジョンを攻略する気はないという趣旨の発言を?」


「仕方なかろう、ダンジョンは資源だからな。

確かに高難易度ダンジョンには苦しめられる事も多かったが、恩恵も多かったのだぞ?

武器や魔導具の材料だけではない。

薬や衣類、家具や食材など、一般国民への恩恵も多大なのだ。

しかし、ゼオの呪いを解けばこれらの資源は失われるだろう。

長年、高難易度ダンジョンの恩恵に依存して来たというのに、今更それを失えばそれこそ混乱の元となってしまう。

何より、大事な息子をそんな死地へ送りたがる父親がどこにいる?」


ライズは目を見開いた。


正直、ライズにとって国王は仕事の上での上司的な立場であり、良くても叔父さん程度の感覚しかなかった。


(陛下は……私の事、子供として見てくれていたんだな)


それが、少しくすぐったかった。


「……と、なんだか結構長く話していたな。

今日はもう疲れただろうし、皆休んでくれて構わない。

ティナシア嬢とコトブキ嬢には、客室を用意しよう」


「あ、ありがとうございます!」


「せ、拙者如きが王族の屋敷に泊まるなど……しかし、折角のご恩、謹んでお受けいたしまする」


こうして、ライズ達は久しぶりに暖かな布団で寝る事となるのだった。




「あ、そういえば、お姉ちゃん……?」


「ん、どうしたの?」


「お、男の人……だったんだね」


「……あ」


「うむ、我も言われるまで気付かなかったぞ)


「せ、拙者もてっきり女子おなごかと……」


「その、えっと、それでね……改めて、なんだけど、お兄ちゃんって呼んでも、良いかな?」


「……うん、構わないよ」


そんな感じで思ったよりもあっけなく平穏に終わったライズの女装問題。


この時、国民の間で『お兄ちゃん笑』『おにぇちゃん』『おねにいちゃん』などとあだ名を付けられていたとは、ライズは知る由もないもないのだった。

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