第25話 悪役令嬢ティナシアの告白

真夜中の王城。


見張りの兵士や一部の使用人以外いない城は、少しだけ不気味だな、とティナは感じた。


客室を抜け出し、ティナがやって来たのは客人用に設置されたサロンだった。


「やぁ、ティナシア嬢」


「あ……レオン王子、待たせてすみませんでした」


「構わないよ、別に遅刻したわけでもないし」


ティナはペコッと一礼して、レオンの座るテーブルに座る。


「それで、話ってなんですか?」


ほんの3時間ほど前、ティナは使用人を介して、レオンが話をしたがっていると聞いた。


しかしティナには、王子が、己と話したがる理由が分からず、何か粗相でもしただろうかと怖くなった。


「君は、ライズをどう思う?」


「?お兄ちゃんですか?

えっと、大好きです。

優しくて、私の話を聞いてくれて、分からない事たくさん教えてくれます」


「ふぅん、それは、恋愛的な意味で?」


レオンは目を細めて尋ねる。


「そういうのじゃないです、お兄ちゃんはお兄ちゃんです、大事な家族です。

本当は家族じゃないのに、妹みたいに接してくれて、お兄ちゃんって呼んでも受け入れてくれる……家族よりも、家族だと思ってます」


「へぇ、家族よりも、ねぇ。

ちなみに僕は彼の実兄なんだけど、それについて思う事は?」


「実兄でも、今まで兄弟って知らなかったんですよね?

それなら私と立場はあんまり変わらないと思います。

でも、小さい頃からずっと一緒にいられたっていうのは、凄く羨ましいです」


「へぇ、なるほど……うん、まぁ、気色悪い聖女様よりはマシかな。

ちゃんと生身で喋ってる気がする」


「?聖女様って、ユティアですか?」


「他に聖女様はいないよ、

実は、今僕は彼女の婚約者なんだ」


「えっ?婚約……?」


ティナは脳内で必死に辞書を探った。


7歳以降、まともな教育も勉強もしていないティナは、変なところで一般常識が欠落していた。


「あ、えっと、昔ユティアとおままごとでやりました!

綺麗なドレスを着て、キラキラの指輪を交換しあうんですよね!」


「うん、そこまで行くと結婚しちゃってるけどね。

婚約っていうのは結婚の約束だよ。

遠い未来で夫婦になるって約束してる関係」


「え……王子とユティアが結婚するんですか?」


「今のままならね」


「したくないんですか?」


「まぁね、僕には心に決めた人がいるから」


「好きな人がいるのに、他の人と結婚するんですか?」


「王族貴族の結婚なんてそんなもんだよ。

僕は愛するライズ……じゃなく、愛するあの人以外と結婚するぐらいなら死んだ方がマシだけど」


「……あの、私、結婚の事詳しくないんですが、男の人同士や兄弟では結婚出来ないのでは?」


「知っている、だから僕が国王になったら法律を変える。

同性婚を可決した上で、近親婚も認めさせる。

これで僕とライズはハッピーエンドだ」


ハッピーエンドなのはレオンだけだ、とツッコめる者はここにはいなかった。


「……ま、というわけで、はっきり言えば君の妹との婚約は邪魔だね」


「じゃあ、なんで婚約したんですか?」


「政略的なものだよ。

聖女の血を王家にって、神殿側から押し付けられた。

神殿は国への寄付金も大きいから、逆らいにくいんだよ。

後は、婚約した方が監視しやすいから」


「監視?」



「彼女の不正疑惑について、調べやすいだろう?

君だって、暴きたいんじゃないのか?

ユティア・ヒーリンレイスは偽りの聖女であるって」


「っ!」


「ダンジョンでの君の話は、僕らも聞いてるんだ。

信じていない者が大半……僕も、半信半疑だね」


「……はい」


「ただ、君の力が高い事も事実。

少数ではあるけど、君の発言を検討すべきと考える者もいるんだ。

僕もその1人だ。

仮にユティアが偽りの聖女だった場合、彼女を裁かなければいけない」


「……」


「?ティナシア嬢?」


優れない顔のティナに、レオンは首を傾げる。


「その……私は、ユティアを裁きたいわけじゃないんです。

あの子が聖女として居続けたいなら、それでも構いません、私は聖女になりたいわけじゃないから」


「しかし、それでは君の汚名は晴れないぞ?」


「それは……思うところもあります。

でも、私は虐められさえしなければ良いんです。

でも、ユティアは……あの子は怖がりだから、私がいると落ち着いていられないと思います。

それなら、私は早いところ国外にでも逃げて、ユティアを安心させるべきかな……なんて」


世間知らずなティナではあったが、今回のダンジョン攻略で己の能力がどれほどのものかは分かったつもりである。


高い回復能力と上級の光魔法……これらがあれば、国外へ渡ってもやっていける気がした。


もちろん、楽観論かもしれないが、それでもいつユティアに襲われるかもしれない国内にいるよりは外国の方が安全だろうと、ティナは判断していた。


「国外……か。

確かに、君の力なら問題ないだろうな。

むしろ、悪女の汚名がない分、やりやすいだろう」


言いながらもレオンは難しい顔をする。


もしかすれば聖女よりも高い能力を持った人間を海外へ流出する……それは、王族の身からすれば避けたい事だったからだ。


「それなら、その手続きは僕ら王家に任せてくれないか?」


「え、レオン王子達に?」


「あぁ、海外へ渡航……ましてや定住するとなれば色々手続きが複雑だしね。

その間、城で泊まっていてくれて構わない」


「それはありがたいですけど、良いんですか?」


「もちろん。でも発生しない限り、近いうちに渡航パスポートを発行出来るはずだよ」


「そうですか……それなら、お願いします」




それから、海域に海賊が出現しただの、船が火事で焼けただの、渦潮が大量発生しただの、あれこれ理由が付けられティナの国外行きは延期となった。


そして、王城滞在が1週間になろうとした時。


ティナは、聖女の名誉を毀損した大罪人として神殿へ連行された。

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