第12話 その頃の王城では
レオン・フラヴェンは王国の未来を担う王太子である。
王族としては珍しく、子供はレオン1人のみ。
父には妹がいたものの、昔に死去している。
さらに、父には腹違いの兄もいるのだが、そちらは遠い昔に王位継承権を返却している。
なので、正当な王位継承権を持っているのはレオンだけなのだ。
父は側妃を作らず、唯一娶った正妃もレオンを産んで死去した為、レオンが国王とならなければ国の未来はない。
いっそ民主国家にすれば良いんじゃね?などと本音を漏らしたその昔には、妹のように愛する親友から
「王政から民主政に変えるのにどれだけの努力が必要だと思っているのですか?
民主政に憧れる気持ちはお察ししますが、あれだって一長一短はありますし、そもそも昔から続いて来た体制を変えるのは大きな労力と負担が掛かります。
それを承知で挑むと言うなら応援しますが、安易にそちらの方が楽そうだから、という理由なら、賛成出来ません。
……なんて、私如きが差し出がましい事を言いました、申し訳ありません」
と、真顔で説教された。
(ライズ、あぁ……愛しのライズ……)
ライズは幼少期より城の暗部によって育てられた暗殺者だ。
当然、レオンとは立場が違う。
しかし、当時周りには仲の良い同年代はおらず、いるのは心にもないおべっかを使う者ばかりだった。
物心ついた頃、そんなレオンの遊び相手に紹介されたのがライズだった。
幼少期だけだが、共に勉強した事もあるライズは非常に要領が良く、何ならレオンよりも聡明だった。
当時は礼儀も尊重も知らなかった分、今よりも距離感が近く、レオンにはそれが心地良かった。
もちろん、暗殺者として本格的に修行が始まった後も、彼は大事な親友だ。
身分の壁がなかったら結婚したいぐらい大事である。
それを言ったら
「身分の壁がなくても同性の壁がありますが?」
と呆れられた。
もちろん、それなら同性の壁も壊す。
世はジェンダーフリー、愛しあうなら男同士結婚しても良いじゃない?そもそもライズって女の子みたいに可愛いし、いっそ女の子枠でも良くね?
なんていうアホな事を王国王太子は真面目に考えていた。
「王子……レオン王子?」
同性婚可決へ向けた具体的な根回しを脳内フル稼働で考えていたレオンを現実へ引き戻したのは、黒髪の少女だった。
(あぁ、そういえば見合い中だったか、つまらなすぎて忘れてた)
なんて、お見合い相手に失礼極まりない事を考える。
「あぁ、どうしました?聖女様」
「聖女様、なんて。
私の事は、ユティアとお呼びください」
黒髪を肩ほどまで伸ばし、サイドをテールにしたユティアはなかなかの美少女だった。
清楚で愛らしく、小柄な体格にはシンプルなワンピースに純白のマント。
なるほど、聖女と呼ばれるに相応しい、容貌だ。
聖女として認められる前から多くの異性に愛されて、友人も多かったらしいがそれも分かる。
しかし、それを見て思う。
(うさんくせぇ)
特段、人を見る目に優れているわけではないが、レオンだって王族だ。
だから分かる。
ユティア・ヒーリンレイスは隙がなさすぎる。
ここで言う隙とは、佇まいが理想的すぎるという意味だ。
清楚で可憐、愛らしく庇護欲をそそる。
ちょっぴり頼りない印象が親しみを生み、無条件に手を貸したいと思ってしまう。
どこぞの恋愛小説好きの魔王の娘に「これで乙女の何たるかを勉強せい!」と押し付けられた恋愛小説ヒロインみたいだ。
ぶっちゃけ、「私、普通の女の子だから」と言いながらあちこちのタイプの違うハイスペックイケメンの心を鷲掴みにしまくる女が普通であってたまるか、と何度もツッコんだ。
そしてユティアは、そんな恋愛小説の主人公みたいな少女なのだ。
それはとてつもない違和感だった。
「その……迷惑、でしたよね?
いきなり、お見合いだなんて」
「まぁね、でもまだお見合いだからね、気軽で良いんじゃないかな?
普段は食べられない高級ケーキ食べられて嬉しい、ぐらいに思えば良いんだよ」
「むぅ、それ、私の事食いしん坊な子って思ってますか?」
プクッと小さく頬を膨らませる姿が愛らしい。
(ま、ライズの愛らしさには劣るがな)
それに、レオンにはユティアに心を許せない理由がもう1つあった。
「ところでユティア様、こうした事を聞くのは心苦しいですが、姉君のティナシア・ヒーリンレイスについて……」
「……はい、先日、テレビで映っていたものの事ですね?」
「えぇ、聖女様を疑うなど心苦しいのですが、形ばかりでも確かめようかと」
ダンジョンガールズプロジェクト……言うのも面倒なので、国民にはダンプロと略されている。
それは、見目の良い女性犯罪者にダンジョンを攻略させて、その光景を有料配信するという政策だ。
身内の考えた政策ながら、レオン自身、父親の頭を疑った。
しかも、これが想像以上に好評で、男性視聴者だけでなく女性視聴者も少なくないというのだから驚きだ。
王国民、娯楽に飢え過ぎではないだろうか。
ダンジョン内に秘密裏に紛れた監視役の所持するカメラに撮られた映像が、テレビと直結する仕組みである。
そして、先日の放映にて、聖女の殺人未遂を犯した悪役令嬢ティナシアは、ユティアに対する殺意は一切なく、むしろ聖女であるユティアこそが禁術で己を操ったのだと、そうした趣旨の発言をした。
もちろん、極悪人としてダンジョンに送られた悪女と、癒やしの力で多くの人々を癒やしてきた聖女とで、国民がどちらを信じるかは想像に固くないが。
レオンに尋ねられたユティアは苦しみを堪えるように俯いた。
「お姉ちゃん……そっか、まだ改心してくれてなかったんだ……」
「つまり、無実だと?」
「はい、私、禁術なんて知りません。
お姉ちゃんを操って悪者になんて、そんなの考えた事だってないです」
首を振りながら俯く姿は、この期に及んで嘘を付く姉に心を痛める心優しき妹だった。
「……分かった、君を信じるよ」
「ありがとうございます、レオン王子。
信じてくれて、嬉しいです」
安堵し、微笑む目の前の愛らしい少女を微笑みを返し、レオンは内心で決めた。
彼女を監視しよう、と。
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