第13話 悪意ある罪人

10階層までやって来る。


「迷宮は10階区切りで難易度が大幅に変わるって言われてるから、ティナは気を付けてね」


「うん、お姉ちゃん」


素直に頷くティナの頭を、ライズは撫でた。


水の迷宮攻略を始めてから2週間程度か。


ライズは、ティナにかなり心を許しているな、と感じた。


もちろん、心の底では信頼まではしていない。


しかし、戦闘面において彼女は非常に頼りになるし、性格的にもかなり善良だ。


赤髪と青髪の罪人冒険者に会って以来、探索中に満身創痍のパーティを見掛ける事があったが、その全てをティナは「今後自分らが困っていたら助けて欲しい」という返される見込みゼロの約束を報酬にして治療してきたのだ。


これで聖女の件さえなければ……と、少し憂鬱になる。


と、そこで前方から走って来る人影が3つほど。


「そ、そこのお姉ちゃん達!助けて!」


「えっ、子供!?」


ティナが驚く。


走って来たのはティナと同じぐらいの背丈をした子供達だった。


ティナは実年齢よりも圧倒的に幼い容姿している。


そんなティナと同程度の外見という事は、12、3歳程度の子供という事だった。


走る子供達の後ろには、ガッシャガッシャと音を立てて剣を振り回すスケルトンナイト。


見た目には、動く骸骨だ。


ティナは真っ先に子供達の元へ走り、「アタックアップ」と唱えた。


そして杖でスケルトンナイトを殴り倒した。


高レベルのアンデットになると光魔法でなければ倒せなくなるのだが、スケルトンナイトまでなら殴打でも問題はない。


スケルトンナイトは瞬く間に蒸発し、ドロップ品である古びた本を落す。


「おぉ……!魔術書なんて超ラッキーじゃん、日頃の行いってやつ?」


リースレットが目を見開いた。


魔術書……一言で言えば魔法のレシピであり、特定の魔法の使用方法が書いてある。

大体は市販で売られているが、極稀に魔物がドロップする事もあった。


ティナは魔術書を拾って、腰に括り付けた収納ポーチに突っ込む。


子供達はそんなティナに駆け寄ってきた。


「あ、助けてくれてありがとう!お姉ちゃん!」


オレンジ髪にヘアピンを付けた少女が頭を下げる。


「これくらいどうって事ないよ、怪我はない?」


「おう!この通りバッチリでぃ!」


同じくオレンジ髪……しかしこちらはショートカットの、男勝りな印象の少女が胸を張った。


「うぁぁ、でもラッキーだったよぉ、あーしら、死ぬかと思ったし!」


こちらもオレンジ髪、ツインテールに、髪飾りを複数付けており少しギャルっぽい。


「ふむ、全員子供か……。

罪があればダンジョン送りに年齢は関係ないだろうが、まさか子供らだけでここまで来られるとは思えん。

誰か同行者がおったのではないか?」


アリスティアが尋ねるとヘアピンの少女が


「う、うん、親切なお姉さんがいて、私達とパーティ組んでくれたの。

でもさっき、あの骸骨に殺されて……」


「オレ達、命からがら逃げて来たんだ!」


「はぁ〜、足手まとい3人も抱えて攻略なんて、無茶な奴もいたもんだにゃあ」


「そこは、恩赦狙ってたっぽいよ?

普通にダンジョン攻略したって恩赦貰えるか分かんないしぃ?

子供の保護をしながら攻略したら、善行が認められて恩赦貰えるかもって」


ツインテ少女が教えてくれる。


しかし、その説明にライズは「ん?」となった。


そもそも、ここに送られるのはいつ死刑になってもおかしくない極悪人だけだ。


子供とはいえ彼女達も罪を犯している為、そんな人間を無理に保護しても恩赦の対象になる事はありえない。


つまり、その『お姉さん』とやらはそんな事も考えられないアホ……もしくは、恩赦というのは口実でこの子供達を見張っていたかった……


監視役である可能性があった。


(後で遺体を調べれば分かるか)


監視役なら、カメラを持っているはずだった。


「ねぇ、お姉さん達、お願い!私達を上の階まで連れてって?」


ヘアピンの少女が手を合わせて拝んでくる。


「え〜、やだよ、めんどい。

足手まとい引き摺ってわざわざ退却とかかったるいわぁ。

ま、何か見返りがあるなら別だけどさぁ」


子供相手でもリースレットは安定のクズだった。


「やれやれ、お主は到底、恩赦を貰えそうにはないな」


アリスティアは呆れ果てていた。


ライズも同意見だった。


子供達は顔を見合わせる。


「見返り……ったってなぁ?」


「あーしら、何も持ってないしぃ?」


「うん、報酬に出来そうなもの、全然ないもんね」


子供達は顔を見合わせ、困り顔を浮かべる。


「あ、あの!だったら私だけでこの子達を送るっていうのは……」


「却下。

高難易度ダンジョンの10階層以下をヒーラーなしで進むとかありえないんだよねぇ」


ティナはしゅんとする。


と、そこでショートカットの少女が


「んだよ、ケチ!

子供がこんな危険な場所に取り残されても良いとか、とんだ鬼畜だな!

イチカ、ミカ、行こうぜ、こんな心の狭い大人なんて頼ってらんねぇよ!」


子供達はドンッと直ぐ側にいたティナにぶつかりながら、ライズ達の側をすり抜けようとする。


が、それは叶わない。


「ちょっと待ってくれるかな?」


「うわぁ、これ現行犯だよねぇ、あ、おたくもすり抜け禁止ね?」


ライズがショートカットとツインテの少女を。


リースレットがヘアピンの少女の首根っこを捕まえる。


「ちょ、おい!?何すんだよ、離せよ!」


「話す前に、今盗ったもの返してね?」


ライズはツインテの少女の腰に巻いたリュックへ手を突っ込んだ。


そこから、先程スケルトンナイトからドロップした魔術書が現れる。


「え?え?なんで!?」


ティナは目を白黒させて自分のポーチの中身を確かめた。


「初歩的な集団スリだよ。

1人が視線を集めている間に、共犯者がスリを実行する。

手際もかなり良かったし、間違いなく常習だね」


「まぁ、いずれこういう展開に巻き込まれるとは思ってたけど、まさか子供とはねぇ」


「ふむ、これは少し、調べる必要がありそうだな」


リースレットは笑顔を浮かべているが、彼女のがめつさとクズさを考えると、心中穏やかではないだろう。


基本寛容で良識人なアリスティアも、流石に窃盗犯に情けを掛けるつもりはないらしい。


(ま、自業自得だな)


顔面を蒼白にしながら己等を見上げる少女達に、ライズは冷たくそう思った)

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