第14話 お仕置きは何にしよう

「やっぱり、か」


窃盗の現行犯でオレンジ髪の3人娘を確保した後


ライズ達は階層を進み、開けたフロアに人が倒れているのを発見した。


ライズは真っ先に鑑識を担当し、遺体の女性を調べる。


ポーチや服の中には、金目のものや武器が一切なかった。


そして、耳たぶのところにピアスのような青い石が嵌め込まれているのを確認した。


(安全が確保されていないとはいえ、まさか監視役が死ぬ事になるなんて……)


ライズはこっそりとカメラを回収し、パーティの元へ戻った。


「完全に、死んでるね。

しかもあれ、魔物によるものじゃない。

複数の刺し傷があったから、それの影響だよ」


ライズは子供達を強く睨む。


名前も前職も知らなかったとはいえ、同じ監視役同士だったのだ。


それを殺されたとなれば、ライズも思うところはある。


「で、どういう事?これは?」


殺気すら混ぜて尋ねると、子供達はビクッとして


「そ、そ、その人が悪いのよ!

盗みは止めろなんて、言い出すから!」


「おい!イチカ!言うな!」


(つまり、この人を殺したのはこの子供達で確定って事か)


「え、えっと、とりあえず、休憩室に戻りませんか?

ここにいたら、魔物に襲われるかもですし」


ティナの言葉に反対する者はおらず、ライズ達は子供等を連行しながら休憩室へ戻った。




休憩室へ戻った4人(というか、ライズとリースレットがメインだが)は早速、子供達に尋問した。


性格的にはイチカと呼ばれたヘアピンの少女の気が弱く、ペラペラ喋ってくれたので容赦なく集中砲火を浴びせた。


それによれば、少女達はダンジョンに送られる前から窃盗の常習犯だったらしい。


しかし、幼い子供がいくら窃盗なんてしても高難易度ダンジョンに送り込まれるなんて本来ならありえない。


少女達は、物を盗む為に人を殺害した事も少なくなかった。


スリで磨いた技術は殺人にも応用出来る事を知った彼女達は、独学で集団暗殺の技術を手に入れたのだ。


もちろん、最終的には騎士団に逮捕、有り余る罪の重さ故に、子供でありながら高難易度ダンジョンへ送られる事となった。


ここでも、他の犯罪冒険者相手にスリを繰り返していたらしい。


それを同じパーティを組んだ『お姉さん』が咎めた事で、少女達は『お姉さん』を殺害した。


「そんな……いくらなんでも殺さなくたって……」


ティナが信じられないとばかりに声を上げる。


「だって、不都合だったんだもーん。

スリをする時だって、無害な子供って思われてた方が成功しやすいしぃ?

なのにあのクソ女、あーしらが改心しないなら、他の犯罪者どもにバラすって言いやがったからね?」


「ほんっとうにな。

大体さぁ、オレらってこの通り非力な子供だぜ?

魔物退治で稼ぐとか無理だし、だからパーティ内で手に入れたドロップ品も、キャラバンの買い物権も、全部あの女に握られてたんだ』


「そんなの、生殺与奪の権利を握られてるのと一緒だもんね。

その上で、窃盗っていう私達の唯一の生きる手段まで奪おうとして……死んで当然だったんだよ」


呆れるほど身勝手な言い分。


窃盗にも、殺人未遂まで、罪の意識を感じていない。


「幼くも、人はここまで愚かに残酷になれるものなのだな」


アリスティアは首を振って天を仰いだ。


「まぁ、こんだけの事やっちゃったんだし?

その死んだ『お姉さん』とやらがやろうとしたように、あたしらもこいつらの正体バラシちゃわない?

きっと、ボッコボコに殴られるよ☆」


明るく言い放つリースレットに子供達がヒッとビビる。


(殴られるだけて済めば良いけどね。

最悪死ぬ……まぁ、それも自業自得か)


子供とはいえ、彼女達の罪は取り返しが付くレベルではない。


大人ならば容赦なく死刑であるところを、子供という理由だけで延長されているだけだ。


「あ、あの……でも、それは厳しいと思います。

この子達がした事を考えると、たぶん少し殴っただけじゃ気がすまない人もいるでしょうし……」


「それは仕方ないんじゃない?

あたしも清廉潔白な人間じゃないけどさぁ、このガキともはかなり末期のクズだよ?

死んでとーぜん」


「分かってます、でも私は、死んで欲しくないです。

子供ならまだやり直せる可能性はあると思いますし……それに、それだけ悪い事をしたなら、それこそ、ただ死ぬだけじゃ罪滅ぼしにならないと思うから」


「ふ〜ん、じゃあさ、ティナちゃんはどぉやってその罪滅ぼしとやらをさせるの?

冒険小説とかである、「生きて罪を忘れない事が贖罪だ」なんて綺麗事は止めてよ?」


「その……ここで、皆さんのお世話をさせたら良いと思います」


「お世話?」


「はい、その……だって、毎日疲れて戻って来るのに、ご飯作ったり洗濯したり、大変じゃないですか」


「だから、その子達には使用人……みたいな感じで働いてもらえば良いんじゃないかなと」


「それ良いじゃん!あーしそれやる!使用人めっちゃやる!」


ツインテのミカが身を乗り出す。


このままリースレットの案が採用されれば、殴り殺される未来が目に見える為、必死なのだろう。


「でも、素直に任せられる?

そいつら強盗殺人犯なんだよ?

料理に毒盛るかもしれないし、盗みを働いてくる可能性だってあるよね?」


「そ、それは……」


ティナは考えてから


「……なら、操ってしまえば良いかと……」


「あ?」


心苦しげに言いながら、ティナはポーチから先程手に入れた魔術書を取り出した。


「これに、制約の魔法が記されてました。

私は難しくてあんまり読めなかったけど……闇魔法を使える人なら、使えるそうです」


「ふむ、我か」


アリスティアは魔術書を受け取り、ペラペラと捲る。


「ふむ、どうやらこれは隷属魔法や支配魔法の劣化版らしいな。

特定の行動に著しい制限を掛けるものらしい」


(隷属魔法に支配魔法?)


「こうした魔法は令呪師の専売特許なのだが……まぁ、この程度であれば我にも使えるだろう。

ただ、初めて使う故に予期せぬ副作用が出る可能性もあるが……」


ジッと子供達へ視線を向けると、揃ってヒッと退く。


「じ、冗談じゃねぇよ!

そ、そんな魔法、オレ達を奴隷にするって言ってるようなもんじゃねぇか!」


「非人道的って言葉知らないわけ!?

あんたら人の心あるの!?」


(こいつら何言ってんだろう)


ライズ達からすれば、彼女らなんて死んで当然、惜しむ命ではないのだ。


むしろティナのお陰で生き長らえられるというのに、それを却下しようなんて神経を疑う。


「あんたらこそ何言ってんの?

あたしらだって犯罪者だよ?

強盗殺人繰り返すクソガキどもに情けかける良心とかないし、むしろ奴隷で済まされるだけ優しくない?

まぁ、それが嫌ならやっぱり殴り殺され……」


「っ、わ、分かったよ!

従う!従うから殺さないで!」


イチカが顔面を蒼白にして了承する。


その後、アリスティアは本を読み込んだ後、『悪意を持って人を襲わない事』『それに準ずる行為の一切を禁止する事』『このダンジョンにいる間、他者の命令には服従する事』を制約した。


「うぇっ、なんか腕に変な紋様出た、気持ち悪いんですけど!」


「制約紋だな。

隷属魔法でも支配魔法でも良いが、他者の行動や精神を縛る魔法は受け手の身体のどこかに紋様が出る」


一部、奴隷制度がある国ではこの紋様が奴隷の証として扱われている。


「くそっ、なんでオレらがこんな目に……」


「だから自業自得だって」


普段はパーティのクズ役であるリースレットだが、今回ばかりはライズも同意せざるを得なかった。

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