第10話 お姉ちゃんなんだから義妹とお風呂に入るのはしかたないよねっ?

7階層にて。


ライズ達は四面楚歌な状況にあった。


「くそっ、たった7階層でモンスターハウスなんて出るか普通!?」


ライズは舌打ちする。


フロアには所狭しとデッドワームという、イモムシのような魔物が湧いている。


「あぁ、もう!こいつらキモいから嫌いなのに!」


「口を開く前に1匹でも駆除せんか!」


「ひぃぃ!来ないでぇ!」


汚れ仕事には馴れているライズであっても、視界いっぱいの巨大イモムシには生理的嫌悪感を感じざるを得ない。


それが、女性陣ともなれば不快感はより一層強いだろう。


「ウォーターウェーブ!」


リースレットの魔法がデッドワームを強引に壁へ押し付け潰す。


「グラビティプレス!」


アリスティアも闇魔法で片っ端からデッドワームを押し潰す。


(おいおい、いくら嫌いだからって上級魔法や中級魔法を惜しみ無く……)


魔力を節約する気ゼロの公爵令嬢と魔王の娘、よほどデッドワームが気持ち悪いのだろう。


一方、ライズは1体ずつを堅実に倒していく。


……堅実に、というより、広範囲高火力の魔法なんて持っていないので、1体ずつ斬り殺すしかないのだ。


「やだぁ!来ないでぇ!」


ティナは涙目で杖をブンブン振るっては、ぐしゃぐしゃとデッドワームを粉砕していく。


杖が光り輝いているので、攻撃強化の魔法でも使ったのだろう。


それを加味しても、ティナの細腕で魔物を一撃粉砕するなどありえない気もしたが。


(回復だけじゃなくて補助魔法まで上級クラスって事か……)


「っ!お姉ちゃん危ない!」


ティナの叫びで後ろを振り返ると、目の前には口を大きく開いたデッドワームの姿。


デッドワームは口から濁った緑の体液を吐き出し、ライズはそれをモロに被ってしまう。


(くっさ!)


鼻が曲がるような悪臭に気絶しそうになりながらもライズは短剣を振るい、デッドワームを倒した。




その後、デッドワームを1匹残らず倒したライズ達は休憩室へ直行した。


デッドワームの体液には微量の毒が含まれ、それそのものはティナの解毒魔法で浄化したものの、身体にこびりついた悪臭まではどうにもならない。


特に、デッドワームの体液をモロ被りしたライズの臭いは凄まじく、真っ先にシャワー室へ押し込まれた。


シャワー室は板で仕切りがあるだけの簡素な作りに、薄っぺらなカーテンを取り付けているだけなので、下手をすると全裸で他の女の子とご対面、などという考えたくもない事故が発生する可能性がある。


その為、ライズはカラスの行水と言わんばかりにササッとシャワーを浴びて外へ出ようとするが



「お姉ちゃん」



思わず心臓が跳ね上がった。


カーテン越しに、ティナの声が聞こえる。


「な、なに、ティナ?

シャワーなら、他のところも空いてるよ?」 


「そうだけど私、お姉ちゃんと一緒に洗いたくて……」


神様は、自分の事が嫌いなのかもしれない。


ライズはそう思った。


「し、シャワーぐらい自分で浴びられるでしょ?

もう、良い歳なんだし」


「で、でも、女の子同士だもん!

同性なら、同じお風呂に入ってもシャワー浴びても、問題ないでしょ?」


(男だから問題あるんだよ……!)


いくらライズが、首から上は美少女で、体格も男性としては華奢な部類とはいえ、流石に全裸なんて見られたら不味い。


「そ、それに私達、姉妹だし!姉妹は同じお風呂に入っても普通だと思うの!」


(姉妹は良くても兄妹はアウトだけどね!)


そもそもが血は繋がっていないし。


この姉妹設定はティナから持ち込んできたお遊びみたいなものだ。


「……ティナ、私は、シャワーは1人で入りたいんだ。

妹なら、姉の要求を聞くものだよね?」


ライズは優しく、しかし有無を言わせぬ口調でハッキリと言った。


「戻ってくれるよね?

私は、他人に身体を見せる趣味は持っていないんだよ?」


少し威圧的だったかもしれない。


そう思った時には


「……うん、そっか……ご、ごめんなさい、私、お姉ちゃんを困らせて」


傷付いたような声色で謝ると、間もなくしてシャワー室の扉を開ける音がした。


ティナが出て行ったと判断し、ライズはシャワー室を出た。


(ティナ、傷付いたかもしれないな)


所詮、家族の代替品にしか過ぎないとはいえ、家族に否定の言葉をぶつけられれば傷付くぐらいライズにも想像出来る。


だからといって、裸を見られるなんて論外だった為、不可抗力ではあるのだが。


(後で、フォローした方が良いかな)


そう思いながら、休憩室へ戻るのだった。

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