第53話 あたしら地味に出番が……

アリスティアは訓練場を訪れていた。


迷宮攻略へ向けて、誰と訓練するのが最も効率的か、知っていたからだ。


「ふぅ、あまり、気は進まんがな……」


「んん?何が気進まないって?アリスちゃん?」


偶然、こちらへ来ていたらしいリースレットが訪ねて来た。


「いや、師匠の事がな。

ところでお主はなぜここへ?修行か?」


「あはは〜、ないないって、あたしみたいな天才が人様の前で修行とか笑えるし?」


「別におかしくはないと思うが……しかし、ならばなぜここへ?」


「あたしは図書室よ、こっちが近道なの。

城の本読み放題なんて、公爵令嬢だって難しいんだからね?チャンスよチャンス」


「む、そうか」


「その点、アリスちゃんは良いよね〜、お城の本読み放題っしょ?」


「どうかな、我は恋愛小説を好んでいた故、学術的なのはさほど……」


「ふぅん、勉強してそうな見た目なのにね」


「別に、疎かにした事はない。

が、特別勤勉でもないな。

逆に、お主は人のいないところで努力するタイプに見えるな。

その歳で高位魔法を扱えるのは、才能もあるだろうが努力もしたのだろう?」


「さぁて、どーだろうね?」


2人で駄弁っていると



「おぉ、アリスティアじゃん!それに、エヴァンエテル家の小娘だな」



やって来たのは、長身の女性だった。


野性味を感じさせる引き締まった褐色の体付きを最大限に見せつけ、整った顔立ちは美女と呼べるものだが、口元から覗く八重歯が獰猛さを感じさせた。


フライア・シュタナイア……彼女こそ、アリスティアの師であり王国騎士団の長である女性だった。


「国王から話は聞いてるぜ?

あたしを修行にでも誘いに来たか?

普段はあたしから誘っても逃げるのにな」


「仕方なかろう、師の修行は生命の危機を感じるのだ、あれはまともな神経のある人間のする修行ではない」


「ねぇ、アリスティア、そんなに団長さんの修行って凄いの?」


何も知らないリースレットが尋ねる。


「うむ、余裕で死ねる」


アリスティアが答えると


「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。

ちょっとばかり1000キロマラソンさせたりうちの兵士どもと100対1稽古させたり死ぬ直前までサンドバッグにしただけだろ」


「普通の人間は死ぬわ!」


「本当なら密林のジャングルに突き落としたりケルベロスの檻に閉じ込めたりドラゴン退治させたりしたかったんだけどなぁ。

お前幽閉状態だから外に出せないかったし」


「いっそ幽閉の身で良かったわ、でなければ我は死んでいる」


「あはは、大げさな」


「大げさなものか!」


(アリスティア、めっちゃ仲良さげだなぁ)


リースレットはそう思った。


ダンジョンにいる間は大人びた対応をする事も多かったが、本来こちらが素なのだろう。


(姉みたいなものなのかもね、幼い頃に両親亡くしてるんだし)


ふと、リースレットは己の身内を思い出す。


ライズのような特殊事情もなければティナのような毒親でもなく、アリスティアみたいに死別しているわけでもない。


公爵家の人間としては、かなり普通の身内だった。


だからこそ、娘が犯罪者になったと聞いた時にはどれほどのショックを受けた事か。


(ま、実際泣かれたけど)


姉に関してはビンタまでして来た。


当然である。


(はぁ、行きたくないなぁ)


おそらく、近い内にリースレット家本家へ乗り込まなければならないだろう。


それにリースレットが連れ出される可能性は高い。


(お父様とお母様はまだしも、姉貴はなぁ)


あれやこれやのお小言を想像し、憂鬱になった。


「まぁ、とりあえずお2人さんは訓練頑張ってね〜、そんじゃ」


リースレットはこの場を立ち去ろうとする。


と、なぜかフライアに肩を掴まれた。


「おいおい、水臭いぜ、お前もついでに修行していけよ」


「へ?」


ギラギラとした目でリースレットを値踏みするフライアに対し、アリスティアは目を輝かせる。


「うむ、それが良い!サンドバ……攻撃対象は複数あった方が我の負担が減る!」


「大して意味変わってないし、あたしを犠牲にしようとしないでくれる!?」


身の危険を感じるリースレットだが、フライアは逃す気ゼロ。


「お前、純正魔術師だろ?

この先そんなんじゃ生きていけねぇぜ、時代は文武両道だよ」


「いらないから!あたしは才色兼備なの!美貌と知力があれば良いの!」


100歩譲って修行するのは構わないとしても、先程のアリスティアの言動を聞いた後ではこの女の修行だけは受けたくない、とリースレットは心から思った。


しかし


「まーまー、遠慮すんな。

んじゃ、地獄の2丁目への片道切符2人分承りました〜」


こうして2人は、フライアに死ぬ直前までしごかれるような訓練を受ける羽目になった。

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