第52話 同性でもセクハラって適応されるからね?
「いやぁ、太陽の下というのは心地良いでござるな、ライズ殿!
こんな日には、刀を振り回したくなるでござるよ!」
訓練場へ足を運ぶと、素振りをしていた寿がやって来る。
「その振った刀は、どこに下ろす気なの?」
「もちろん、ライズ殿だけでござるよ?
拙者のこの身体に籠もった熱、ライズ殿なら受け入れて下さるのでござろう?」
「まぁ、そう言ったけど……って、言い方!?」
ライズがツッコむと寿はイタズラっぽく笑ってから
「ま、拙者も訓練というのは自覚している故、うっかり首を斬らぬようにはするでござるよ。
最も、あちらの拙者は分からぬでござるが」
「訓練で命を賭けろって?」
訓練だろうが、真剣勝負で相手に怪我を負わせないなど不可能だ。
そして、寿は怪我をしてしまえば人斬りの本性が顕となってしまう。
「やはり、嫌でござるか?」
「ここで喜ぶ人はいないよ。
でも、元々うちの訓練って命懸けだったしね、さほど変わらないよ」
それからライズは二言三言言葉を交わしてから
「そうだ、訓練するなら誘っておきたい人がいるんだけど」
「ん?アリスティア殿やユティア殿でござるか?
確かに、アリスティアはそこそこ打ち合えそうでござるし、ユティア殿がいれば即死しない限りは生き残れるでござるな」
「違うから。私の、義理の父親だよ」
「ライズ殿の父上殿……お、王兄殿下でござるか!?」
「継承権ないんだから殿下じゃないと思うんだけどね。
あの人は私なんかよりもずっと強いから。
訓練してくれるなら心強いよ」
そして、寿がバーサーカーと化しても止められるだろう人物でもある。
(私が訓練相手じゃ、もしかしたら斬り殺されるかもしれないもんなぁ)
訓練は真剣勝負が最も効率的とは知っているが、死にたいわけではないのだ。
「今は暗部の使ってる詰め所にいるはずだから、付いて来て」
暗部の使う詰め所は、城の裏手……目立たない場所にあった。
詰め所の周りでは木やロープなどで作り上げたアスレチックのような設備がドンッと存在感を放っている。
そして、詰め所へ入る為の入口はなぜか建物の2階に設置してあった。
「あ〜……ごめん、うちの詰め所、父さんの趣味丸出しになっててさ。
わざわざ国から金搾り取って無駄に凝った詰め所という名の訓練施設作り上げちゃったんだよね。
はしご、持って来ようか?」
「構わぬでござるよ、これぐらいならお手を煩わせるまでもないでござる」
寿はそう言うと「鶴の舞」と身体に風を纏わせ、地面を蹴って2階までジャンプしてしまう。
「あ、寿!扉は気を付けて!」
ライズに言われた直後、扉を開けると中からドでかい木槌が寿を押し出そうと襲い掛かった。
「鷹の舞!」
刺突を繰り返す連撃が、木槌を粉々に砕いた。
寿は何事も無さげに2階へ着地。
「いやぁ、驚いたでござる。
まるで忍者のからくり屋敷でござるな!
あ、ところで今の仕掛けは壊してしまって構わなかったでござろうか?」
「あ〜、平気、むしろ壊さなきゃまた襲われるし。
私達も罠見つける度に壊してるぐらいだから」
そしてその度に罠は補充される。
その金は全て国庫支出である。
(この国の財政難の理由、もしかして父さんも担ってるかもしれない)
「ウィンドムーヴ」
ライズも2階へ難なく上がる。
無駄に罠の張られた通路を歩き、目的の部屋へ辿り着く。
もちろん、そこにも罠が仕掛けられていたのでライズは扉ごと壊して中へ入る事にした。
「帰ったか、ライズ」
そこにいたのは、金髪の壮年男性だった。
漆黒の装束を纏ったその顔立ちは歳を感じさせるものの端麗で、威厳を感じさせた。
エーデルガルト・リーディット、かつては王家の人間であり、今は王国暗部の長として暗躍する男……ライズの義父であり、実の叔父であった男だ。
エーデルガルトは執務机を立ち上がるとゆっくりとこちらへ近付き
「あぁぁぁいたかったぞぉぉぉライズぅぅぅぅぅ!」
「来ないでください、気持ち悪い」
ライズは容赦なしに、その眉間へ向けてナイフを投げ付けた。
エーデルガルトはそれを指2本でキャッチ。
「ちょ、久々に会うパパに酷くない!?それ酷くない!?」
「帰って来る度に息子のケツ触ろうとする変態が何言ってんですか?
気持ち悪いので死んでくださいよ」
ライズは新たなナイフをクルクルと手元で遊ばせる。
「ちょ、え?え?ライズ殿、キャラ変わりすぎではござらんか?」
「そう?寿ほどじゃないと思うけど……。
父さんにはいつもこんな感じだよ?」
「うぅ、しくしく、ライズが冷たい、パパは悲しいぞ、昔は抱っこするたびにキスしてくれたのに」
「いつの話ですか?
大体、息子にキスさせてニヤニヤ笑う事自体キモいんですよ。
近親ホモの変態男は今すぐこの城から消え去って欲しいです」
「ちょ、ライズ殿、その言動は特定の御仁に刺さり過ぎるのでは……」
寿の脳裏には、近親同性相姦をやらかそうと考えるこの国の王太子が思い浮かんだ。
「寿、この人が私の父のエーデルガルト・リーディット。
暗部としての実力は保証するよ。
性格はご覧の通り……レオン様を悪化させた人だけど」
「ライズ!あんな変態王子の名前なんて言うな!
あいつは敵だ!俺からライズを奪おうとする忌むべき怨敵だ!死ねば良い!」
「いや、王太子だから!敵じゃなくて守る対象の筆頭だから!」
「なるほど……同族嫌悪しているのでござるな……」
寿は色々悟った。
「しかし、レオン王子にはそこまで辛辣な対応ではなかったでござろう?
なぜ父上殿には?」
「王子のセクハラと父親のセクハラで対応がまったく同じってありえる?」
「うむ、すまなかったでござる、何も言い返せぬ……」
しかし、レオンにしても本来は兄なのだからエーデルガルト並に雑な対応をしても良いはずなのだが……。
やはり、心根は兄ではなく目上の王子として見ているのだな、と寿は認識した。
「それで、父さん、陛下から話は通ってます?
私達、しばらくこっちで修行したいんですが
「あぁ、知っているさ。
ダンジョン攻略はこの国の命運が掛かっているわけだし、当然うちとしても協力出来る事は協力しよう」
突如真面目モードになってそう対応してくる。
「だが、うちの部下ではお前……ましてや、そっちの侍とやり合えるレベルの人員は少ないからな。
俺が出る事になるだろうな。
接近戦の訓練ぐらいは出来るはずだ。
魔法に関しては、2人とも風魔法が使えるわけだし、レイズを引っ張ってくる」
「?レイズ……殿?」
寿が首を傾げる。
「国王陛下だよ。あの方は高位の風魔法使いだから。
……だからって、陛下に師事を請おうなんて言えるのは父さんぐらいだけどね」
「仮にも兄と息子の頼みだし、断りはしないだろ。
使えるものは何でも使うのが俺の信条だ」
その後、エーデルガルトは本当に国王の元へ趣き、魔法の師事を請うた。
そして、国王は
「む、ライズに魔法を?オッケー構わん、ついでにその光景も放映してしまおう」
とめっちゃ乗り気だった。
こうして、ライズと寿はレベルアップに最適な格上の訓練相手をゲットしたのだった。
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