第42話 周りにチートが多いだけで主人公だってめっちゃ優秀なんだからねっ
20階層
血と痛みは、自分を狂わせる。
くらくらとして、濃厚で、考える事すら億劫で……ただ、剣を振るいたくなる。
グギシャアアアアアアアア!
目の前で、ドラゴンが断末魔を上げて倒れた。
奥の扉が開く。
寿は、光の灯らぬ目でそれを見ていた。
やがて、扉が完全に開いた時、寿の瞳には色が戻る。
「あぁ……拙者は……また……」
(これでは、ライズ殿に軽蔑されても文句も言えんでござるよ……)
寿は、相反する人格を持っていた。
善良で温厚な己と、強者を求めて刃を振るう悪辣な己。
それは寿の身体が傷付いた時入れ代わり、散々殺し回った後、元に戻る。
寿がソロに拘る大きな理由だった。
(国すら超えて、心を変えると誓っても……結局、拙者は同じ事ばかりを繰り返している)
「所詮、拙者は人斬りの身……か」
呟く表情には、諦めが浮かぶのだった。
休憩所へ戻り、
「アリスティア、私に闇魔法を教えてくれない?」
「なんだ、藪から棒に」
「いや、前々から考えてはいたんだよ。
私はレオン様の双子として産まれて、それが原因で捨てられたけど……でも、その決め手になったのは闇適正の高さだって陛下は言ってた。
それなら、私にも闇魔法が覚えられるんじゃないかなって」
元々、ライズは魔法が得意な部類ではない。
義父であるエーデルガルトにも、「お前は接近戦が得意なタイプだし、下手に魔法に専念しなくて良い。風と土だけ覚えとけ」
と言われていた。
もっとも、得意でないと言っても18歳で2属性も中級魔法を使えるのは完全に才能の代物であるが。
「ふむ、確かにな。
我も中級までしか扱えんが、それでも良いというならば……」
「ちょっと待ちなさいよ!
なんでそっちの魔族に聞いてあたしには尋ねないわけ!?」
ニーシェとの賭博でボロ負けしたユティアが、声を張り上げてくる。
「え?嫌いだから」
「オブラート包んで〜!
シンプル過ぎて反論もツッコミも出来ないわ!」
(いや、ツッコミはしてるじゃん)
「なんか、君って天才肌に見えるし。
グッとしてギュッとしてパッてすりゃ良いよ、なんて言われても普通の人は分かんないからね?」
「勝手に決めつけないでくれる!?
お姉ちゃんじゃあるまいし!
まぁ、闇魔法なんてグッとしてギュッとしてパッてすりゃ使えるから、教え方なんて分かんないけど」
ライズは即座にユティアを戦力外にする事にした。
「うむ……しかし、我に聞かれても困るぞ?
何しろ我も、幼少期にすでに2属性の中級魔法を覚えていたからな」
(あ、嫌な予感……)
「ぶっちゃけ魔法など、グッとしてギュッとしてパッとする以外に発動の方法などないのではないか?」
ライズは落胆し、項垂れた。
「ここのパーティ、天才肌多すぎでしょ……」
結局、参考にぐらいはなるかもしれないという事で、ユティアに初級から上級の魔法を見せてもらう事になった。
1階層
「まずは初級魔法から行くわよ、ダーク」
ユティアの手のひらに小さな闇が現れた。
「これが闇魔法の基本ね。
ぶつければダメージになるし、属性の初級魔法の中ではトップクラスの攻撃力とされているわ。
習得難易度は高めだけど、光魔法よりは使いやすいわよ」
ユティアはそれを、近くを通っていたロックボムにぶつける。
ロックボムは身体の一部を削られ、激怒してこちらへ向かって来た。
「次に闇の中級魔法、ダークソード!」
ユティアはロックボムの影から闇の刃を顕現させ、ロックボムを貫き殺した。
「あ、あれアリスティアが武器にしてるやつ」
「まぁ、形状は剣だしね、武器として使う事もできるわよ。
普通はこうやって影から不意打ちするのよ。
火力は強い方だけど、コスパは悪いわね。
ただ、闇の適正が高いなら初級魔法を覚える力があれば簡単に習得出来るわよ」
「へぇ、便利そうだなぁ」
特に影から不意打ちというのが、暗殺者であるライズとは非常に相性が良さそうだった。
「最後に上級魔法だけど……ブラックホールっていう、無差別範囲攻撃の闇魔法ね。
威力は高いけど敵味方関係なしにダメージを与えるし、ソロでもなけりゃまず使えないわね。
あたしも覚えはしたけど使った事ないし」
「闇魔法、全体的に火力高くない?」
「そりゃ、闇だし?
まぁ、慣れれば便利よ。
ダークソードをナイフ形状にしてリンゴ剥いたり」
「君、けっこう大概な使い方してるね!?」
ツッコミながらも、ダークソードはかなり便利そうだと感じたライズ。
しかし、ティナみたいなチート適正などあるわけもない彼は、中級魔法習得までおよそ1週間要するのだった。
念の為に言っておくが、ティナが規格外過ぎただけで、これでも充分過ぎるほどに常軌を逸した習得速度である。
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