第31話 そして舞台は新たなダンジョンへ

「と、いうわけで、ユティア・ヒーリンレイスは土の迷宮へ送られる事となった」


1ヶ月掛けてから行われた国王の事後報告に、ティナシアは顔を青くした。


それもそのはず、そもそも王国の6つの高難易度ダンジョンは王家の人間以外は攻略出来ない仕組みだったのだ。


事実上の死刑宣告に等しい。


「今回は事が事だからな。

本物の聖女を長年に渡り貶め、偽りの聖女として君臨していたのだ。

今後、恩赦を渡す事もないだろう」


「そんな……」


本来死刑となっておかしくない命……ダンジョンという閉じられた世界であったとしても生きられるだけマシというものだが、ティナはそう思わなかったようだった。


「……あの、陛下、そのダンジョンの事なんですが」


「む?どうした、ライズ?」



「やはり私の方で、ゼオの呪いを解きたいと思うのですが、その許可を頂けませんか?」



国王は目を見開いた。


「それについては認められんと言っただろう?

ゼオの呪いを解けば高難易度ダンジョンの恩恵が消えてしまう。

その影響を考えれば……」


「それについてなんですが、国民にアンケート調査してみました」


「は?」


国王が目を点にしている間、天井から黒服の人間が飛び降りてきた。


「こちらを」


その手には書類がドッサリと載せられ、それを国王に差し出す。


「ここしばらく、仕事もなくて暇でしたので。

他に暇のある元同僚達と、陛下のおっしゃるダンジョン消滅による影響と、国民の意識について調べてみました」


サラッと言ってのけるライズに唖然とする国王に、横に佇むレオン。


「まず、ダンジョン消滅による資源の減少がどれほどのものか、冒険者ギルドに保管されているダンジョンデータと城の書庫、ダンジョン学者の方々の見解を参考に数値化しました。

次に国民の意識調査。

高難易度ダンジョンの消滅に対する意見としては、「賛成」と「やや賛成」で合わせて72.8%となりました。

これは、昨今起きた高難易度ダンジョンでのスタンピードが大きく影響していると思われます。

さらに、ダンジョン消失における補填についても纏めました。

ダンジョン限定の素材については難しかったですが、7割程度の素材については現段階の技術でも生み出す事は可能、2割についても将来的な技術の発展に伴って自力生産が可能であるという見解が出されました。

生産可能段階へ持っていくまでは人件費などのコストが掛かりますが、これは現在囚えられている罪人達を労働力に換算した場合、大幅なコストの削減が見込めます。

その後の生産における労働力も罪人を使えばコストは低いですし、それでも足りない分は市民から労働者を雇えば雇用率の増加にも繋がります。

どうですか?

考え直して頂けますか?」


「いや、あの、ライズ……これ、そこらの論文よりも圧倒的に内容濃ゆいんですけど……。

1ヶ月程度で調べるとかアホじゃね?って無理じゃね?」


「別に私だけで調べたわけじゃないですから。

アンケート調査については人海戦術が有効なので、国内で潜伏生活している元同僚達に頼み込んだり、ポケットマネーで一般市民の人を雇ったりもしました。

データ集めや検証については城勤務の学者や大学の教授にもお願いしましたね。

幸い、陛下がテレビ越しに「高難易度ダンジョンがなくなったら資源がなくなるから攻略しない」と言ってくださったお陰で、話は通しやすかったです。

他にも学生とか商人とか、使えそうな人材はガンガン使いましたね。

まぁ、学者の方々は途中から明らかなオーバーワークでしたので、簡単な計算やデータまとめについては僕も参加しました。

そうそう、貴族の令嬢令息方にも手伝ってもらいましたよ。

貴族の子供って、跡取り以外だと比較的暇がある上で、一般以上の教養があるので優秀なんです。

簡単なバイトで王室に名を売れるって事で喜んで参加して頂けました。

ちなみに面倒そうな家の方々には頼んでいませんのでご安心を。

その貴族方を中心に後ろのページには協力者達の名前も書いてあります。

太い黒字で書かれているのは、著しく優秀だと感じた人材ですが……まぁ、ここのところは流しても良いです」


マシンガンの如く語られる裏事情に、この場にいる全ての人物がポカンとする。


「これは、ワーカホリックというやつだな」


アリスティアが呆れていた。


「なぜ、そこまでして……」


国王はライズと書類を交互に見る。


「私は、最早暗部としてこの国に尽くす事は出来ませんから」


ライズは寂しげな表情を浮かべた。


「暗殺者であったという過去がある以上、まともな職にはつけませんし、このまま王城に留まるわけにもいきません。

近いうちに、海外へ渡るつもりでした」


「なっ!?」


「それでもせめて、最後にせる事を見つけたかったんです。

今の私でも王国の為になる何かを。

このデータは、そんな私の悪足掻わるあがきとでも思ってください」


高難易度ダンジョンを攻略し、王国の呪いを解く……暗殺者として生きられなくなったライズが、王国の為に出来るのはそれぐらいだった。


最も、と呼ぶにはあまりにも大層な任務だが。


「……分かった」


「父上!?」


「ライズよ、お前にとっては知らんが、私にとってはレオン同様、お前も大事な息子だ。

死地に旅立たせるなどしたくはない。

しかし、ここまでして、ダンジョン攻略の有意性を示されたのであれば、私は王としてお前に命じねばならん。

高難易度ダンジョンを攻略し、この国を覆う呪いを解くのだ」 


「ハッ、そのめい、しかと承りました」


ライズはその場に跪き、王命を承る。


「あ、あの、それなら私も……!」


「ティナ、君はダメだ」


「な、なんで!?

私、強くなったよ!?

お兄ちゃんの足も引っ張らないし、魔物だって倒せるし……!」


「いや、それは分かるよ。

ティナがいてくれたら攻略も凄く楽になる。

でも、君はもう聖女様なんだから。

国民に寄り添わないと」


ユティアが罰せられた後、ティナは本物の聖女として神殿へ入る事が決まった。


近々叙任式が行われれば、ダンジョンどころか神殿の外へ出る事も難しくなるだろう。


「聖女の力を必要だって人も少なくないんだ。

君だって、そういう人達を見捨てたくないよね?」


「……はい」


ライズはティナの頭をポンッと撫でた。


「代わりに、帰って来たらまず神殿に行くから。

その時には、出迎えて欲しいな」


「……分かった。

私、毎日お祈りするから。

お兄ちゃんが無事に帰って来るように」


顔を上げてたティナは、心なしか頬が赤くなっていた。


見た目、年齢よりもずっと幼い少女なのに、その表情はどこか色っぽくて……ライズは思わず、目を逸らした。


「ふむ、ちなみに我も同行するぞ?

万が一、お主がダンジョンで死ねば攻略出来る者がいなくなるからな。

最悪の事態だし考えたくはないが……我ならば、お主の代わりとなれる」


「本当は僕も行ければ良いんだけど……」


「レオン様は大人しくしていてください、唯一の王太子なんですから」


「だよなぁ、はぁ、またライズ成分の足りない日々が続くのか……」


そもそも男なのだからダンプロに参加出来るわけもない……と思い至ったところで。


「ちなみにライズよ」


「はい?」


「ダンジョンに潜るなら、また女装しておくように」


国王の言葉にライズは固まった。


「ダンジョンにいる犯罪者からすれば、なぜダンプロに男が参加しているのか不思議となるだろう。

下手に悪目立ちしても良い事があるとは思えんし、女のフリをした方がやりやすいはずだ」


「は、はぁ、なるほど……」


「……というのは建前で、実際は男の格好よりも見栄えが良いからだがな。

テレビ越しならぶっちゃけ、ち○こがあろうがなかろうが、可愛けりゃ全てオーケーだし」


「女の子もいる中でいきなり下ネタぶち込まないでください」


真面目で聡明でありながらも、色々残念でアホな実父にライズは呆れ果てるのだった。











____

あとがき


はい、というわけで1章、「水の迷宮 ティナシア編」終了しました。

次回からは2章、土の迷宮編開始です。

土の迷宮といえば、あの守銭奴令嬢や偽聖女様ですが、掘り下げはあるのか……!

というか、1章がめっちゃティナシアメインだったので、2章は他の子に焦点当てたい。

それにしても31話も使ってようやく女の子1人攻略とは……ハーレムまでの道が遠い……。

まぁ、私が1話ずつ短く書いてるせいですが。

ほら、短い方が読みやすいし!(ていの良い言い訳)


今後とも、短くとも着実に、をモットーに更新していきたいです。

では、これで。

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