第17話 これで中ボスとか冗談だよね?

20階層へ足を踏み入れると、空気が変わった。


円形状の、闘技場の如きフィールドは青みがかった高い壁で囲まれ、その中心には青の鱗を携えた巨龍。


「うっげ、マジかよ……ドラゴンって、本来最終階層にいるようなモンスターなのに」


リースレットが顔を顰める。


ダンジョンには、一部例外を除き、最終階層にボスモンスターと呼ばれる強力な魔物が棲息している。


ボスモンスターはダンジョンの核としての役割を持ち、ボスを倒されたダンジョンでは魔物の生成速度が大きく低下する。


一般に、ダンジョンの攻略とはボスモンスターの討伐とイコールである。


しかし、中級ダンジョン以降となるとボスモンスター以外に、中ボスと呼ばれるモンスターが現れる。


大体はダンジョンの中間で登場し、倒せなければ先に進む事は出来ない。


「泣きごとを言っても仕方なかろう、来るぞ!」


ドラゴンが、雄叫びを上げる。


それが戦闘の合図となった。


振るわれる爪から水の刃が飛び出し、ライズ達は散り散りになって躱す。


水の刃は壁を安々と穿ち、粉々にした。


(当たるだけでもアウトか……!)


「スピードアップ!」


ティナがパーティ全体に速度強化の魔法をかける。


これだけの攻撃力を持つ魔物を前に、付け焼き刃の防御など意味はないのだ。


「ウォーターレイ!」


リースレットが水の閃光を放つが、びくともしない。


「チッ、無効化か吸収か……相性悪いわぁ」


舌打ちするリースレットに追撃するように、アリスティアが飛び出し、鱗の皮膚へ剣を振るが、きめ細かい鱗が1枚剥がれるのみである。


さらに、アリスティアはドラゴンが爪を振り上げた衝撃で吹き飛ばされてしまった。


さらに、それだけでは留まらずドラゴンは大きく息を吸う。


「っ、ブレスだ!」


ブレス……ドラゴンの基礎的スキルにして、人間にとっては回避手段が皆無である為、即死技として恐れられる。


ライズは風魔法を身に纏い跳躍すると、息を吸う為に喉元を晒したドラゴンの喉元にある、逆さまの鱗へ


「アースブレイク!」


土魔法の一撃を当てる。


ドラゴンは暴れ出し、ライズは鱗を蹴り飛ばして地面へ即着地。


振り上げられる尻尾の一撃を、風魔法で己の身を横に吹き飛ばす事で回避した。


「チッ、やっぱりこの程度の魔法じゃ効果はないよね……」


ドラゴンには明確な弱点がある。


それが、ブレスの間だけ晒される喉元の逆鱗なのだが、この逆鱗は極端に硬く、よほど強い一撃でなければ壊す事は出来ない。


手数とスピードに偏ったライズには相性が悪かった。


ドラゴンに決定打を与えるには最低でも上級魔法が必要になるとされている。


それも、有利属性であれば尚良し。


ライズ達のパーティで上級魔法を使えるのはリースレットのみだが、彼女は水の魔術師である為、攻撃は無効化されてしまう。


それでも、ダメージになるならば、とライズ達は、ドラゴンの猛攻を回避しながらブレスが来る隙を狙って逆鱗を攻撃した。


「アタックアップ!」


「これで……どうだ……!」


やがて、ライズ達にとって考えられる最大火力……ティナによって攻撃力を強化したアリスティアを、ライズの風魔法でドラゴンの喉元へ飛ばし、魔法で作った剣で逆鱗を攻撃した。


しかし……


「うっわぁ、これでもダメとか……」


リースレットが落胆を声に滲ませる。


逃げる事も考慮すべきか、とライズが考えていると


「…………魔力を……込める…………」


「ティナ?」


ティナが、手のひらに魔力を込めているのが分かった。


しかし、セイントレイでは逆鱗は壊せなかったのだ。


だが、ティナの手のひらだけじゃなく身体全体を光の魔力が覆った時、ライズは全身に寒気が走った。


ドラゴンが再度、ブレスを放とうとする。


リースレットはセイントレイで逆鱗を攻撃しようとするが……


「待って!」


「はぁ!?でも、攻撃しないと……」


「いや、たぶん、行ける!」


直感的にそう思った。


ドラゴンがブレスを放つ直前



「ジャッジメントバースト!」



ティナの体全体から放たれた光の奔流が、ドラゴンを襲った。


ライズはその眩しさに思わず目を閉じる。


やがて、光が収まったところで目を開けると、逆鱗を破壊され、床に横たわるドラゴンの姿があった。


ゴゴゴ……と、奥の扉が開く。


「はぁ、はぁ、うまく……いった……よね?」


バタッ、とティナは倒れた。


「ちょ、ティナ!?」


ライズは抱き起こす。


蒼白い顔色と、荒れた吐息は完全な魔力切れを示していた。


ライズ達はティナを抱えて、至急休憩室へ戻る事にした。

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