第50話 迷宮攻略と帰環②
「あたしのご先祖様に、大魔女ってあだ名付けられた人いるんだけど、それが、ベテルって名前なの」
ライズ達は目を見開いた。
「という事は、王神ゼオの妻はリースレット殿のご先祖様なのでござるか?」
寿が推測すると
「いんや、そこまでは確証持てないにゃあ。
そもそも、大魔女ベテルは誰とも結婚してなくて、生涯独身を貫いたって実家じゃ伝わってるし。
でも、ゼオの娘ちゃんの話だとベテルはゼオと結婚して、娘ちゃんを6人産んで、ベテルが死んじゃったせいでゼオは闇堕ちしちゃったわけだよね?」
「むぅ……確かに、そうだな……」
リースレットの言動に周りが頷く中、ライズは小さな違和感を覚えた。
話に矛盾はないはずなのに、何かを決定的にずらされた気がする。
しかしその答えは分からなかった。
「そもそも、エヴァンエテル家は大昔から公爵貴族だし、当時は暗殺者だったゼオと交流なんて持てないと思うんだにゃあ。
まぁ、ライズみたいに王国暗部ならまだしも、ゼオは一般暗殺者で、しかも王国を恨んでいたんだから」
「そうか……だが、確実にゼオの妻ではない、とも言い切れないんじゃないのか?
暗殺者のスキルさえあれば、誰の目にも触れさせず令嬢1人と蜜月を交わす事ぐらい出来るだろうしね」
レオンが言うと、
「との事ですが、感想を」
「私に振らないで欲しいんだけど……」
からかわれるようにリースレットから話を振られたライズは頭を搔いて
「不可能とは言い切れないよ、人目を躱してターゲットに接触するのは、暗殺者の基本スキルだからね」
「夜のバルコニー……毎日密やかな蜜月を交わす暗殺者と令嬢……身分違いの叶わぬ恋……ロマンだな」
アリスティアはうっとりとした面持ちで妄想し出す。
「まぁ、真偽は不明だが。
万が一、大魔女ベテルがゼオの妻だった場合、エヴァンエテル家を調べれば何かしらゼオに関する手掛かりがあるかもしれない。
近い内に調べるべきだろうな」
レオンはそう締め括った。
「というわけで、今後のダンジョン攻略についてだけど……」
「あ、あの、その事で良いですか?レオン様」
ライズは挙手して尋ねる。
「ん、何かな?」
「次の迷宮攻略については、しばらく待って頂けないかと。
カメラ越しにも発言した事なので認知していると思いますが、6つの迷宮は互いに連動し、1つを攻略すればその他の迷宮の難易度が上がります。
今のままでは私達のレベルが足りません。
なので、しばらく修行させて頂きたいんです」
「なるほどな……そういう話ならお安い御用だ。
ついでに、リースレット嬢とユティア嬢、コトブキ嬢についても監視付きで城への滞在を許可する」
「よろしいのでござるか?」
寿は目を見開いて尋ねた。
「テレビ越しとはいえ、こちらもダンジョンの攻略風景は知っているからね。
これからのダンジョンをライズとアリスティアだけで攻略するのは厳しいし、君達は罪人の中でもトップクラスの実力を持ち、こちら側の事情も知っている。
ダンジョン攻略には欠かせない存在だと思っているからね」
「つまり、仮釈放してやるから王国救済に協力しろって事?」
「そうなる」
リースレットの言葉をレオンは肯定した。
「流石に国を救うともなれば何の報酬もなしとはいかないし、恩赦も考慮に入れよう。
最も……そこに行き着くまでの素行にもよるが」
「うっわぁ、あたしに恩赦与える気ゼロだよ、この王子……」
「ちゃんと素行を良くしていれば考慮してあげるよ」
どうせ無理だろうけど、といった口調でレオンは言う。
「というわけで、今後の方針も決まったところでこの場は解散としよう。
……そこのカーテンに隠れて影に同化しようとしてるユティア嬢も良いよね?」
(あ、さっきから一言も言葉発してないと思ったらあんなところに)
カーテンの裏に隠れていたユティアは顔だけヒョコッと出すと、
「好きにすれば?」
と、カーテンの裏へ引っ込んだ。
(まぁ、ティナもいるしなぁ、気まずいよなぁ)
そのティナは、何故か不自然にユティアを視線に収めないようにしていた。
「分かりました、神殿の方にも、何か協力出来る事があったら協力出来るように頼んでみます」
「あぁ、気遣い感謝する、ティナシア嬢」
そして、ティナは一足先に玉座の間を出て行った。
ユティアは何かを言う事もなく、それを無言で見つめるだけだった。
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