第35話 攻略ユル勢の集い

休憩所へ戻って来る。


中央の焚き火スペースは他のパーティが使っており、順番待ちになった。


「では、使う部屋でも決めておこうか。

やはりパーティ同士は同じ部屋である方が安全……と考えると、リースレットかユティアのいる部屋を使うのが無難だな」


「は?男を?嫌なんだけど」


「同じく無理!」


ユティアとリースレットはほぼ同時に拒絶する。


(気持ちは分からなくもないけど、そこまで即答されると流石に傷付く……)


「ではライズだけ1人にするか?

旗から見れば、パーティ内で不和が生じていると判断されるだろうな。

よこしまやからなら近寄って来る事請け合いだ」


「でも、男と女が同じ部屋ってあり得ないでしょ?」


ユティアが首を横に降る。


「そもそも、冒険者で男だの女だの気にしていたら野宿も出来ん。

特にリースレットは元々冒険者であるのだから、そこのところは認識しているだろう?」


「……まぁ、知識的には」


リースレットは不満気に頷きながら


「でも、ライズとアリスティアについては監視役でしょ?

自分の寝顔まで撮影されてるって思ったらいくらあたしでもムズムズするって。

どうしようもなくなったなら我慢するけど、そうじゃないならユティちゃんの部屋行ってくんない?

あたしは1人で寝るから」


アリスティアはふむ……と考え


「というわけらしいが、ユティアよ、どうする」


「むぅ……そうね……寝る時にロープでぐるぐる巻きにしても良いなら構わないけど?

あたし、襲われたくないし」


「いや、間違っても君だけは襲いたくないんだけど」


「はぁ!?それどういう意味!?」


「だって好みじゃないし」


「っ、の……!

あたしだって猫被ればハイスペックイケメンの3人や4人、簡単に惚れさせられるんだからね!?」


「いや、猫被ってる時点で、素の自分じゃ勝負出来ないって言ってるようなもんだよね?」


「フン、確かにあたしはとびっきりの猫被りだけどね、世の中恋愛については、大半の女が猫被りだからね?

男の趣味に合わせて興味ない事興味あるフリしたり、普段そうでもないくせに急に可愛こぶったり、酔っ払ったわけでもないのに「あ、酔っちゃった♡」なぁんてもたれ掛かったり、恋愛する女なんて皆、あたしに負けず劣らずの詐欺師よ!」


「ちょ、止めてよ!?

これでも私、恋愛にはけっこう夢持ってるタイプなんだから……!」


「……お主ら、不毛な言い争いはそこまでにしておけ。

あと、恋愛観については我も夢を見たい派である故、あまり言ってくれるな……」




その後、ユティアが使う部屋を訪れた。


何だかんだで、ユティアの部屋を使う事となったのだ。


簡素な毛布だけが敷かれたその部屋には、先客がいる。


「あ、言い忘れてたけどあたし、すでにシェアハウスしてるから」


部屋にいたのは、どこぞの民族衣装のような緑と茶色を基調とした服装の少女。


見た目は10歳を少し超える程度と幼く、若干ウェーブがかった黒髪は肩を超える程度に伸び、二房ふたふさに分けられゴムで結ばれている。


幼い顔立ちは眠たげで、ボーッとしているように見えた。


「ニーシェ、こいつらこれからここ住むけど良い?」


「ん、別に?」


ニーシェは興味なさげに、部屋の隅で体育座りをしながら石と石同士をぶつけ合う、などという謎の遊びをしていた。


「良かったわね、許可降りたわ」


「あれ、許可って言うの……?」


「追い出されないんだから許可よ。

ちなみにニーシェ、あたししばらくこいつらと攻略漬けなるから、あんまりあんたの相手出来ないわ」


ニーシェは一瞬だけ顔を上げて


「……そう」


と、視線を再び石に戻した。


「こ、個性的な同居人だね……」


「ま、良い奴よ。

うるさくないし、あたしの本性見ても嫌わないし……何より、ギャンブルと酒という、世界の叡智えいちをあたしに教えてくれたもの」


「むしろ悪だと思うけどそれは!?

ってか、この子も子供だよね!?

思い切り違法行為なんですけど!?」


「ニーシェは、29歳と言い張ってるわ」


(こんなティナより幼い見た目の29歳がいてたまるか……!)

 

「まぁ、放っとけば便利だし、放っといてあげて。

布団の洗濯してくれるし、服置いとけばそれも洗ってくれるから便利よ。

あとは髪も洗ってくれるし、散髪もしてくれるし。

夜の見張り役にも便利ね」


「本当に便利だけど、いや、それで良いの!?

君、めっちゃこき使われてない!?」


心配になり思わずニーシェに詰め寄ると


「……平気」


と一言。そして


「ユティア、色々くれるから。

その、お礼」


「は?」


「こいつ、攻略一切してないのよ。

あたしが来る前も、冒険者共の身の回りの世話をしてそのお礼にご飯やアイテムを恵んでもらってたみたい」 


なんでそんな事を……と思ったが、ニーシェの姿を見て得心が行った。


おそらく、水の迷宮にいたオレンジ髪の3人のように、魔物と戦う力がないのだろう。


これほど小さな子供ならそれで当たり前だ。


「あたしも攻略とか興味ないユル勢だし、今日の飯代程度の素材さえゲット出来れば他はどうでも良いし……ってな感じで、ニーシェとあれこれ関わる機会も多くなったわけ」


「ユル勢て……」


「それなりにいるわよ?

どうせ自分じゃダンジョン攻略なんて無理だから、浅い階層だけ漁ってその日暮らししようって奴ら。

恩赦も貰えないけど、命あっての物種だし?

穴ぐらだって、ドワーフになったつもりになれば快適みたいよ」


「ユティアもそう思ってんの?」


「最近まではね。

でもやっぱキツイのよ。

魔物退治はどうにかなるし、酒とツマミ食いながらニーシェと賭け博打やる毎日もそれなりに楽しいけど……」 


(年頃の女の子の趣味としてどうかと思うんだけど、それ)


「でも、太陽見れないのが辛いのよ!

なんか、身体が光を求めるの!

アイ ラブ サンシャイン!」


「闇魔法使いなのに?」


「関係ないわよ!人間だもの!

人は日の下じゃなきゃ生きられないって、知ったわ……」


フッと遠い目をするユティア。


ニーシェは顔を上げて


「大丈夫、そう言って発狂した人達、最終的には廃人になるか穴ぐらに慣れて自分をモグラだと認識するようになるから」


「それ全然大丈夫じゃないよね!?」


自分も長時間ダンジョン内にいたらそうなるのだろうか……とライズは寒気がした。


なるべく早くにダンジョンを攻略しようと、心に決めた。

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