第36話 侍少女は人斬りである
5階層
ダンジョン攻略開始から6日が経つ。
寿はダイアモンドゴーレムの胴体を真っ二つに切り裂くと、一息ついた。
「ふぅ、全く、人が寝ている間に襲って来ないで欲しいでござる。
不眠でも10日は動ける自負があるでござるが、睡眠不足は辛いのでござるよ?」
自らが切り倒したゴーレムへ語り掛けながら、ゴーレムの頭を収納魔法付き巾着袋へ詰める。
「うむむ……勿体ないでござるがこれ以上は重さで動きが制限される故、運べないでござる……。
さらば、名残惜しくも拙者は先へ進むでござる」
後ろ髪引かれながら、先へ進もうとする。
「ちょっと待ちな」
それを見計らうかのように、後方からやって来た4人組の犯罪冒険者パーティが寿を囲う。
「その袋に入れた奴、寄越しな」
「む、何でござるか、お主らは……!
これは拙者の仕留めた戦利品……故に渡す道理は一切ござらん!
それに、素材が欲しいのならそちらに胴体が余っているではござらんか。
拙者が去った後、そちらを漁れば良いでござろう?」
「ハッ、誤魔化してんじゃないよ。宝石持ちのゴーレムは一見、身体全体が宝石みたいだけど、実際は魔力でそう見えてるだけのメッキ……本物の宝石は一部だけ。
でも、宝石怪盗ブラックキャットの目は誤魔化せないよ?
あんた今、本物の宝石が埋まってる部位を仕舞ったね?」
寿は目を見開く。
「ふぅ、確かに、
だがしかし、それならば尚の事渡すわけにはいかないでござる。
戦利品を安々と他者にくれるほど、拙者はお人好しではない故」
4人から殺気が膨れ上がる。
(あまり人と戦いたくはないが……仕方ないでござるな)
寿は刀を抜いた。
同時、4人が一斉に襲い掛かってくる。
その攻撃をいなしながら、距離を大幅に取る。
(速い……!それに息の合わせ方も上手い……!
どうやら、強敵っぽいでござるな……!)
「ツバメの舞!」
刀を振るうと、風の刃が4人を襲う。
しかし躱された。
ナイフを投げられ、それを防ぐ間に2人もの接近を許す。
「白鳥の舞!」
体全体を風が覆い、防御の壁となる。
舞うように繰り出された刀の連撃は、接近する2人を吹き飛ばした。
が、即座に、防御の風を切り裂くほど鋭い槍が襲い掛かってくる。
それを回避する為、後方へ跳ぶ。
その先には、レイピアを手にしたリーダー格の女性。
「貰った!」
空気を切り裂き真っ直ぐに突き付けられる軌道。
寿は、とっさに首の動きだけで躱そうとした。
しかし、刃は寿の頬を軽く切り裂いた。
「くっ、浅かったか……!」
顔を歪める女性。
しかし、彼女は知らなかった。
彼女は、この一撃で寿を殺さなければいけなかった。
そうしなければ、いけなかった。
それが、起こしてはならない狂気を起こすトリガーだと、知らなかったとしても。
寿は刀を振るった。
それは、不安定な体勢で繰り出された苦し紛れの一撃のはずだった。
その一撃は、いとも
「あぁ、脆い……なんと脆い事か……」
ポトリと床に落ちる女性の首と共に、寿は着地した。
「り、リーダー!?」
仲間が声を上げる。
「脆い、弱い、つまりそれは悪……!
貴様ら、この俺を呼び起こした事、その命にて償うが良い……!」
それから5分もせずに、その場には4つの首切り死体が転がる事となった。
瞳に黒い闇を携えた寿は、それを振り返る事もなく、奥へと進むのだった。
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